ー旅立ちの章29- カラス天狗って、どういうこっちゃ?
あかん。さすが馬鹿の中のキング馬鹿なんやで、慶次くんは。まったくもって説明になってないんやで?
「慶次くんが慶次くんなのは知っているんやで?そうやないやろ?慶次くんが妖怪じゃなくて、神さまと知り合いっていうそこんとこの理由を知りたいんやで?」
「おっと、わりいわりい。説明が悪かったんだぜ。じゃあ、もう一度、説明するんだぜ。あれは3年前の話だったんだぜ。ちょうど、四たんと千歳さんに出会う前だったんだぜ」
ああ、慶次くんと千歳ちゃんがお見合いをしていて、それをわいがぶち壊したあの事件やんな?もう、3年経つんやなあ。で?
「俺様は千歳さんとの見合いが始まる3週間前に山籠もりをしていたわけなんだぜ。そりゃあ、とびきりの美人とのお見合いって話が飛び込んできた以上、俺様のいちもつを抑える必要があったというわけなんだぜ!」
性欲を抑えるために山籠もりするっていうひとは結構おるらしいとは聞いたことはあるんやけど、慶次くんもそのひとりと言うわけやったんかあ。まあ、慶次くんはあの頃、18歳やから、そりゃあ、風が吹くだけで、いちもつがビクンビクンしてしまうさかいなあ?
「とびきりの美人なんて言わないでほしいっしー。僕、照れちゃうっしー。でも、僕は四さまのモノだから、そんなこと言われても、慶次くんにはなびかないっしー」
「あーははっ!それはすまなかったんだぜ!まあ、俺様も親友の嫁に手を出す外道な趣味は持ち合わせていないんだぜ。だから、四たんと千歳さんは安心してほしいんだぜ?」
まあ、慶次くんは義理と人情を秤にかけたら、義理に傾くひとやさかい、その辺は気にはしてないんやで?まあ、慶次くんがもし、千歳ちゃんに手を出すことがあったら、わいは命に代えても慶次くんを始末してみせるんやけどな?って、そんな話はええから、続きを言わんかい。
「そうだぜ。肝心なことを言い忘れていたんだぜ。それで、山籠もりをしたのは良いが、俺様は熊3匹に囲まれてしまったんだぜ。手に持っていた槍は1匹目を始末した時に、ぽきりと折れてしまったんだぜ?」
なんやて?慶次くんの槍が熊によって折られたやと?そんなこと起きるんかいな?
「ん?四さま、何を驚いてるっしー?そりゃあ、熊さんの腕力があれば、槍くらいぽきりと折れてしまうっしーよね?」
「いやいや。ちゃうんや。慶次くんの槍の柄は木製じゃないんや。鉄製なんや。熊さんのパンチで曲がることはあっても、折れることはほぼ無いと言って過言じゃないんや!」
「四たん、説明、ありがとうなんだぜ。まったく、あの時はさすがの俺様もびっくりしたんだぜ。なんせ、鉄製の槍の柄が真っ二つにされちまったんだぜ?で、俺様はこの熊さんたちがただの熊さんじゃないことに気付いたんだが、時すでに遅しとなったわけなんだぜ」
「で?慶次くんはその熊さんたちにやられて、晩ごはんになったわけかいな。そりゃあ、悲しい結末やったんやで?」
「おいおいおい。勝手にひとを殺すのはやめてくれなんだぜ。まあ、俺様も死を覚悟していたわけなんだが、眼が覚めた時には、ある茅葺き屋根の屋敷に運び込まれていたってわけなんだぜ」
なんだか、謎めいた展開になってきたんやで?慶次くんは熊さんたちの晩ごはんのために、そんなけったいな屋敷に運ばれたんでっかいな?
「熊さんの晩ごはんって言うのは、脇に置いておいてほしいんだぜ。俺はその屋敷の一部屋で布団の中で眠っていたって流れなんだぜ。そこで、眼を覚ましたところ、この河童とカラス天狗が俺の寝ている横に居たんだぜ」
ははあ。なるほどなるほどなんやで?って、河童?カラス天狗?どういう展開や!
「カラス天狗って言うのは、伝説では京の鞍馬山で源義経を鍛えたって言う、アレでやんすよね?」
「ああ、その認識で間違ってないんだぜ。でも、鞍馬山とはまた別にカラス天狗ってのは、うようよいるんだぜ。そいつは尾張の山々に住んでいる神さまたちの顔役と言ったところなんだぜ」
「ケケッケケッ。我らの仲間である熊さんに傷を負わせたニンゲンがいると言うことで、生かして、オイラたちの里にケイジを連れて行ったノダ」
補足説明ありがとうなんやで?河童くん。でも、先ほど、慶次くんが言うてましたが、神さまを傷つけるのは普通の武具では無理だったんちゃいますの?
「そうなんだぜ。だが、俺は何故か、それが出来たんだぜ。だから、俺様は屋敷に運ばれて、カラス天狗に検分を受けたって言うことなんだぜ」
「なるほどなあ。慶次くんの力は、ひとを超えてるとは常々、想ってはいたけど、そのカラス天狗くんすら、興味を持つくらいなわけやったと言うことなんやな?」
「まあ、そういうことなんだぜ。で、そのカラス天狗の見立てでは、もしかすると、俺様には古来の大神の血が混ざっているのではないかと言う結論に達したわけなんだぜ」




