ー旅立ちの章27- いきなりの襲撃を喰らったんやで!
わいが柄杓で壺から蝮酒をすくって、千歳ちゃんの湯飲みに注いだその瞬間の出来事やったんやで?わいの特殊能力【瀕すれば鈍する】が発動したんわ。
わいは大層、驚いたもんや。何と言ったって、千歳ちゃんと慶次くん、そして、わいが3人仲良く、メシを喰らい、酒を飲みかわしていた時に発動したんやさかいな?
わいの取れた行動は、目の前の千歳ちゃんに飛びついて、覆いかぶさることだけやったわ。
「ちょっと。四さま。慶次くんの前で押し倒されても困るっしー。僕、ひとに見られながら、イチャイチャできるほど、肝は据わってないっしー」
千歳ちゃんが顔を赤らめながら、わいと視線を外してもじもじしているんやで?ああ、千歳ちゃんはほんまにかわええなあ?接吻したくなるわあ。
いや、肝心なのは、そういうことちゃうわ。【瀕すれば鈍する】が解けたと言うことは、敵の攻撃が一旦、止まったって言うことや!
わいは急いで、状況を確認するんやで?千歳ちゃんに覆いかぶさったまま、首だけ回して、きょろきょろと部屋の中を確認したんやで?
「ふんっ。無粋な輩もいたもんだぜ。せっかくのほろ酔い気分が台無しなんだぜ。おい、用があるなら、不意打ちなんて汚い真似はやめて、姿を現すんだぜ?」
「ケケッケケッ!刺客がわざわざ、標的に姿を現すわけがないノダ。今度は必ず、その命を奪ってやるノダ」
わいは慶次くんの姿をよくよく見ると、慶次くんは右手で矢軸の中腹あたりを掴んでいたんやで?なんや?どういうことなんや?
慶次くんが今度は左手に持っていた茶碗を宿舎の戸に向けて、ぶん投げたんやで。ちょっと、待ちいや!どかーーーんっ!って言う、けたたましい音と共に戸がすっとんでいったんやで!
「ピ、ピギイイイイイイイ!」
なんや?この鳴き声は?こんな声、人間が出す声ちゃうぞ!
「ああ、四たんは見るのが初めてなんだっけ?だぜ。まあ、戸がぶち当たって気絶しているみたいだから、今、部屋の中に連れてくるんだぜ?四たんは縄を用意していてくれだぜ?」
慶次くんがそう言うと、のっそりと立ち上がって、宿舎から外に出ていくんやで?ああ。また、戸が壊れたんやで?これでさらに修繕費がかさむことになるんやで。ひでよしくんがわいを足軽10人長に任命してくれるって言ってたんやけど、いくらお給金が上がっても、これじゃあ、わいの家計は火計に処されてしまうんやで?
まあ、そんなことは後で考えるんやで?わいは、部屋の片隅に転がっている縄を手に持って、慶次くんの連れてくる相手を縛りあげてやるんやで!
「って、慶次くん、それ、もしかして河童ちゃいますの!」
「うっわっしー!僕も河童は初めて見たっしー!慶次くんの友達だったりするっしー?」
「いや、違うぜ。どっちかと言うと、俺から見たら、用があるのは四たんの方みたいだぜ?まあ、それよりも、こいつが眼が覚ましても暴れないように縛りあげてくれなんだぜ?」
わいは慶次くんに身長100センチメートルの河童を預けられることになったんやで。わいは、人間相手の結び方でええんやろか?と想ったもんやけど、妖怪の類を縛った経験はないんやで?と言う余裕もなく、とりあえず、ぐるぐる巻きにしたんやで?
「ウウウ。ハッ!ここはどこなノダ?」
「ここは四たんと千歳さんの愛の巣なんだぜ。で、お前は俺に気絶させられて、縛り上げられちまったという具合だぜ?」
「な、なにっ!オ、オイラは敵の手に堕ちたノダ?クッ、お前ら、オイラを春画のようにエロイことをする気なノダナ?」
こいつ、何を言っているんやで?
「クッコロ!クッコロオオオオオ!」
はあああ。なんか知能指数がえらい低そうな河童なんやで?わい、もう、こいつを近くに流れる小川に流してきていいでやんすか?
「河童を連れて小川に行くのはやめておくんだぜ?四たん。河童は水場では、その力を10倍に引き上げるんだぜ。四たんの筋力じゃ、小川に引きずり込まれて、尻こだまを盗られちまうんだぜ」
まじかいな!じゃあ、この河童、どうしたらええんや?このまま、縛り上げて、天井に吊るして、カラカラに乾くまで放置しとけば、ええんかいな?
「まあ、最善の策としてはそういうことになるんだぜ。だが、カラカラに干しても、雨漏りで身体が濡れれば、すぐにでも復活するんだぜ」
まじかいな。そしたら、どうやったら、この河童を始末できるんや?刀とか槍でぶっ刺せばいいんかいな?
「いや、四たん。そもそも勘違いしているんだぜ。河童は妖怪じゃないんだぜ」
「えっ?どういうことや?妖怪は妖怪ちゃうんかいな?」
「そもそも妖怪と言う認識が間違っているんだぜ?こいつは神の一柱なんだぜ。世間で言われている妖怪って言うのは、神の座から引きずり降ろすための呪いの言葉なんだぜ」