ー旅立ちの章25- 慶次くんを過去、負かしたのは剣聖やったんやで!
わいはあることに気付いたんやで?
「慶次くん、随分前に【尾張には自分よりも強い奴が2人も居るんだぜ!】って言ってたやないですか。その柴田勝家さまを入れると尾張では、腕っぷしだけで慶次くんに勝てるのが3人になるっちゅうことかいな?」
「いやあ、その内、ひとりはすでにどこか遠くへ旅立ったんだぜ。今頃、どこをほっつき歩いてるんだろうな、あの御仁は」
そうなんかあ。慶次くんを打ち負かせる人間は、尾張から、ひとり減って、結局、2人なんかあ。わい、尾張に住んでて、危険しか感じないんやで?
「ちなみにその旅立ったって言うお方の名前を聞かせてもらっていいんかいな?慶次くんにとっては不名誉なことかも知れへんけど」
「ああ。別に問題は無いぜ?鹿島新當流を起こした、塚原卜伝殿だぜ。いやあ、俺様も宝蔵院流の師範を9割殺しにまで追い詰めたって言うのに、津卜伝殿は4割殺しまでにしかできなかったんだぜ!」
まじかいな。あの誰もが知っている鹿島新當流の祖、塚原卜伝かいな。それを4割殺しまで追い込むって、慶次くん、どないなってるんや!
「しかしだぜ。俺様が6割殺しを喰らったから、勝負としては俺様の負けなんだぜ。いやあ、槍で刀に負けるわけがないと想っていただけに衝撃を受けたもんだったぜ!」
せやなあ。槍の長さから考えれば、普通は刀相手に負けるわけがないんや。なんで、慶次くんは宝蔵院流の師範を9割殺しにできるほどの腕前があるのに、競り負けたんや?
「やられてみたら、案外、簡単な話なんだぜ。でも、それを実際に実行できるだけの腕を卜伝殿が持っていたというわけなんだぜ」
「実際には、何をされたんだっしー?砂で目潰しでもされたんでっしー?」
「いやいや。そう言った小手先の技じゃあ、ないんだぜ。砂程度なら無視して眼を開け続けてりゃあ良いだけの話なんだぜ?」
普通の人間なら、眼に何かが入ったら反射的にまぶたを閉じてしまうもんなんやけどなあ?慶次くんは本当、聞いているとバケモノじみていることがわかるんやで。
「じゃあ、目潰しじゃなかったら、金的だっしー?僕が聞いた話だと、男の金玉は鍛えようがないと聞いたことがあるんだっしー」
金玉って、どうやったら鍛えられるんやろうなあ?わい、千歳ちゃんによくよく蹴られてきたけど、まったくもって、痛気持ちいいと想えても、耐久力が上がったようには想えんもんなあ?
「まあ、存外間違ってない考察なんだぜ。金玉を狙われたわけじゃあないんだが、槍って言うのはふところが深い分、潜り込まれると、足元がおろそかになるんだぜ。そこを狙われたんだぜ」
「ということは、卜伝くんは慶次くんのふところに潜り込んで、慶次くんのふとももを斬りつけたんでやんすか?」
「いや、それがだぜ。卜伝殿は俺様のふともも狙いじゃなくて、そもそも槍自体を狙ってきたんだぜ。俺様はふとももを斬られるとばかり想っていたから、反応が遅れちまったってわけなんだぜ」
なるほどなあ。それで、慶次くんは槍を飛ばされて、手放してしまったって言うわけなんやな?そりゃあ、慶次くんも素手で刀を持っている人間とは、まともにやり合えないわなあ?
「まあ、折れたのは卜伝殿の刀だったんだがなだぜ。いやあ、俺様、あの時、筋肉鍛錬のために、上から下まで鉄製の槍を使っていたんだぜ。あれじゃあなかったら、槍を真っ二つに斬られていたに間違いないんだぜ!」
「なんでやねん!槍の柄までが鉄製だったら、どうやって、そんな重いもん、振り回せるんでやんすか!ほんま、慶次くん、人類にカウントして良い存在なんでやんすか?」
「そんなこと俺に言われても仕方ないんだぜ。道場破りだっ!って、前田家に乗り込んできた卜伝殿に言ってほしいところなんだぜ。俺はただ、家で鍛錬をしていただけなんだぜ。たまたま、手にしてたのが上から下まで鉄製の槍だったと言うわけなんだぜ」
そ、そうか。それなら、卜伝くんが悪いやな。でも、卜伝くんは刀を失ってしまったわけやろ?そしたら、もう、慶次くんの圧勝ってことになるんじゃないんでっか?
「そりゃあ、得物を持ってない相手を槍でなぶり殺しにする趣味なんかないんだぜ。というわけで、そこからはステゴロの勝負となったわけだぜ。で、純粋な殴り合いで、俺様が6割殺しを喰らって、卜伝殿が4割殺しで済んだと言うわけなんだぜ」
慶次くんの話はほんまかいな?卜伝くんは結構な歳やと聞いたことがあるんやで?
「確か、俺様と殴り合ったときは、50歳を越えていたはずなんだぜ。だが、鹿島新當流には、無刀取りと言う御業が秘伝としてあるんだぜ。その御業で、俺様のこぶしの威力が半減させられてしまって、結局、殴り負けたと言う結末だったんだぜ」




