ー旅立ちの章24- 慶次くんの特殊能力が判明したんやで?
「まあ、こぶしを封印されて、蹴りもダメときたもんだぜ。仕方ないから、がっぷりよっつになったって言うわけなんだぜ」
慶次くんの膂力をもってすれば、がっぷりよっつになったところで有利さは変わらへんと想うわけやで?
「しかし、ここからが問題だったんだぜ。俺様が力任せにブンブンと左右に振り回したところで、そいつは必死に俺様にしがみついて、投げ飛ばすことができなかったんだぜ?いやあ、俺様としては、それだけで充分、驚いたもんなんだぜ?」
まじかいな。わいなら、一瞬で地平線の遥か彼方に飛ばされててもおかしくないんやで?そいつ、やりますなあ?
「仕方ないから、体を入れ替えて、そいつの股ぐらに右腕を差し込んで持ち上げたわけなんだぜ。こうなりゃ、相手としても、もうどうにもならないはずだったんだぜ?」
せやなあ。あとはその体勢から相手の脳天を地面に突き刺すだけやもんなあ?
「そしたら、そいつ、何をしたと想うんだぜ?俺様、びっくりしちまったんだぜ!」
「うーん。慶次くんが驚くって言うことは、とんでもないことをしたって言うことっしーよね?慶次くんが驚くようなことだから、持ち上げられた瞬間に、ふんどしの中に隠し持っていた懐剣で、腹でも、かっさばいたっしー?」
もう、それは相撲とは言えへんで?ただの天高く切腹をしているだけなんやで?
「いやいや、そうじゃないんだぜ。そいつ、いきなり、持ち上げられた状態から小便をまきちらちやがったんだぜ!俺様、驚くも何も、大びっくりなんだぜ!」
「まじかいな!いくら、どうしようもない状況に陥ったからと言って、小便をまき散らすってどういうこっちゃ!もう、男としての矜持すら捨てているんやで!」
「しかし、本当の問題はここからなんだぜ?小便をまきちらからされたから、俺様の身体はびしょびしょなわけなんだぜ。だから、いくら力を込めようが、上手くつかめなくなってしまったんだぜ!」
抱え上げられた状態から逃れるとしたら、小便をまき散らすのは、あながち間違った方法やないってことやんな?
「そして、俺様はそいつを取り逃がしちまったわけなんだぜ。さらに、小便が眼に入っちまったから、眼つぶしの効果まであったって寸法だぜ。俺様はその時ばかりは死を覚悟したんだぜ!」
慶次くんが死を覚悟するなんて、どういうこっちゃ?たかだか、眼が見えなくなっただけやろ?慶次くんの野生の勘なら、例え、眼が見えなくても正確に相手の顔面をこぶしでぶちぬけるやんか?
「さすが、四たん、俺様のことをわかっているんだぜ。俺様も不味いと想って、そいつが居ると想われるところに張り手を突きだしたんだぜ!」
慶次くんが、だがな?と続けるんやで?
「俺様は正確にそいつの顔面を張り手でぶち抜いたはずだったんだぜ」
「どういうことでやんす?はずだったって言うのは。慶次くんの張り手は当たったんやろ?」
「俺様が死を覚悟したのは、正確には、張り手をぶちかました後だったんだぜ。そいつは顔面に俺様の張り手が突き刺さる瞬間に【筋肉100パーセント解放でもうす!】と叫んだんだぜ!そしたら、なんと、そいつの首の筋肉が異様に膨れ上がったんだぜ!」
小便で眼潰しを喰らっているのに、なんで首の筋肉が膨れ上がっているのがわかるんや?慶次くんは。
「そんなの殴った感触でわかるんだぜ。俺様は殴った瞬間に相手の体調、筋肉量、そして性格まですべてがわかるんだぜ!」
なんか、今、慶次くんの隠された特殊能力を唐突に説明されたんやで?山内一豊くんは女性の下の毛をペロリと舐めただけで、その下の毛の持主である女性の身体的特徴や歳までわかるから、それと類似した能力と見ていいんかいな?
「でも、慶次くん。さっき、そいつを最初は蹴り倒したと言ってましたやん?蹴りを入れた時点では気づかなかったんでやんすか?」
「俺様のこの能力は、こぶしでしか相手の情報を得られないんだぜ。だから、張り手を食らわした時点で、対峙する相手の本当の力を察することができたっていうわけなんだぜ!」
なんや、使いにくい特殊能力ですなあ。慶次くんの特殊能力は【全てを見透かすコブシ】って言ったところやなあ?
「おっ。四たん、その【全てを見透かすコブシ】ってのは中々に恰好良い名付けなんだぜ。これからはそう俺様も呼ばせてもらうんだぜ。でだ。そいつは俺様の張り手を喰らいながらも平然としながら、あろうことか、俺様の顔面に張り手を喰らわしてきたんだぜ!」
怖い世界やわあ。慶次くんのこぶしを喰らったら、わいなら一撃で死ぬのが確定事項なんや。それを喰らいながらも慶次くんの顔面に張り手をし返すだけでも、そいつは充分、バケモノなんやで!
「俺様は上には上が居ると想い知らされたんだぜ。いやあ。前から一度、腕比べをしてみたいと想っていただけに、実際にやられてみたらショックが大きかったんだぜ?相撲は俺様の完敗だったんだぜ」
「ちなみに、その相手の名前は誰やったんや?慶次くんをぶちのめせるくらいの御人なんて、そうそういないやろ?」
「柴田勝家さまなんだぜ。これで、俺様より強いと想ったのは3人目なんだぜ。いやあ、世の中、広いんだぜ。俺様もまだまだ修行が足りないんだぜ!」




