ー旅立ちの章18- この特殊能力、使い勝手が悪いんやで!
おい!ちょっとまちいや!慶次くん、わいの顔面を狙ってないやんか!あの右こぶしの軌道を考えるに、わいの脇腹を狙っているんやで?
「そおおおれええええええ!」
うひょおおお!早めに気付いて良かったんやで。わいの【瀕すれば鈍する】は相手の狙いがわかったところで、自分の動きも鈍いから、こちらが動き出すのが遅ければ、結局、かわしきれずに被弾するんやからな?
わいは自分の左脇腹に突き刺さらんとしている慶次くんの右のこぶしを皮一枚でよけたわけなんや。ふう。危ないところやったわあ。
「ほっほお?あれをかわすのかだぜ。これはなかなかに油断できない相手なんだぜ?じゃあ、次はかわせるかなんだぜ!」
わいがほっとしたのと同時に慶次くんが左こぶしを突きだしてくるんやで。って、あれ?急にわいの【瀕すれば鈍する】が解除されたんやで?
ってことは、この左こぶしの突きは殺すつもりで放ったわけじゃあないってことかいな!あかん。わいの特殊能力、なかなかに使い勝手が悪いんやで!自分が死にそうな一撃をもらう前提じゃなければ発動しないわけかいな!
「ん?この一撃はかわさないのかだぜ?四たん、さっきのはたまたまなのかだぜ?」
わいは押されるように慶次くんの開いた左手で右胸をドンっと押されたわけなんやで。やばいんやで。わいの計算では、この2発目をかいくぐるようにかわして、慶次くんとの間合いを詰めて、3発目に合わせて相討ち覚悟で慶次くんに1発お見舞いする予定やったんや。
わいが自分の特殊能力を把握しきれてなかったのがそもそもの原因なんやで。くっ、こういうことになるのであれば、普段から死地に飛び込んでおくべきやったで!まあ、この特殊能力が発動したのは、ついさっきなんやけどな?
まあ、ええわ。次の3発目は確実にわいの命を取ろうとしてくるわけや。ってあれ?なんかおかしくないか?この喧嘩、そもそもとして、慶次くん、わいの命までは取らんと言ってたやないか?なんで、わいを殺す気でこぶしを放ってきているんや!
「ちょっ、ちょっと、待ちいや、慶次くん!」
「あーあー?もーうー、いーいーわーけーをーいーってーもーおーそーいーんーだーぜー?」
ヤバい!【瀕すれば鈍する】が発動したんやで!慶次くん、わいを仕留めるつもりや。ここでしゃべってもうたら、わいの時間がしゃべることにほぼ費やされるんやで?
わいは自分の口から言葉が出るのを必死に抑えるんやで?ほら、きたで、きたで!今度こそ、本命のわいの顔面ねらいの右から放たれるまっすぐな軌道を描くこぶしやで!
わいは、ゆっくりとゆっくりと慶次くんから突き放たれる右のこぶしを前進しながら、やや右方向へと流れるように歩を進めていくんやで!
おお、慶次くんの顔がゆっくり驚きの表情に変わっていくんやで?って、あれ?なんか、慶次くんの右のこぶしがゆっくりであるが、わいが動く方向へと軌道を変えているような気がするんやで?
ちょい待ち?慶次くんってもしかして、殴ろうとしている最中に自由自在に、こぶしの軌道を変化させられるほどの実力の持主やないんか?なんちゅう、こっちゃ!これじゃあ、そもそもとして、飛んでくるこぶしをかわして、ふところに飛び込もうとしている、わいの考え自体が間違っていたと言うことじゃないんか?
あ、あかーーーん!わいの左のこめかみに慶次くんの右こぶしがすいこまれてくるんやでえええ!
ばきいいいいいいいん!
ああ、お星さまがわいの頭の中を幾重にも筋を描きながら舞い落ちているんやで?
「四さまーーー!四さまーーー!」
「ああ、千歳ちゃんの声が聞こえてくるんやで?わいの堕天使さまが、わいを包み込んでくれているんやで?」
「ほっ。生きているみたいなんだっしー。こら、慶次くん。四さまを殺すつもりだったっしー!さっきは殺しはしないと言っていたんだっしー!」
「な、なんのことやらだぜ?喧嘩って言うものは、やってみなきゃあ、結果はわからないもんなんだぜ。ほら、四たんは俺とこぶしをまじらわせながらも、ちゃんと生きているんだぜ?」
う、うーーーん。わい、生きているでやんすか?なんだか、頭がガンガンするんやで?でも、なんだか、後頭部がすっごくやわらかいものの上に乗せられているんやで?ああ。わい、こんな枕が欲しかったんやで?
「しっかし、四たんはすごいんだぜ。まさか、俺様のこぶしを恐れるどころか、その突きだされるこぶしに自分から向かってきて、さらに、額で受けきったんだぜ。いやあ、こんな恐れ知らず、見たことも聞いたこともないんだぜ!」
ああ、頭がクラクラするでやんす。慶次くんが何やら言っているけど、よくわからないでやんす。
「確かに頭の骨のなかでも額の骨ってのは1番固いんだぜ。でも、それがわかっているからと言って、真正面から受ける豪胆な奴は居ないんだぜ!さすがは四たん。俺様の親友なだけはあるんだぜ!」