ー旅立ちの章17- 四(よん)さまは瀕すれば鈍するんやで!
「よっし、四たん。俺様を殴ってくれなんだぜ!」
な、なんや?慶次くんは殴られる趣味でもあるんかいな?
「慶次くんの余裕の表れと見たんだっしー。四さま、慶次くんをフルボッコにしちゃうっしー!」
お、おう。わかったんやで、千歳ちゃん。いくら、慶次くんと言えども、わいの先制攻撃を何発も喰らえば、わいにも勝機が見いだせるんやで!
ばきっ!どかっ!ぼこっ!
はあはあはあ。どうや?わいの怒涛の3連撃は!右のこぶしで2発入れたところを間髪入れずに、左のこぶしでとどめの一発や!
「ふーむ。なるほど、なるほどなんだぜ」
な、なんや?慶次くん、わいのこぶしをまともに両ほほに喰らいながらもケロリとしているんやで?
「大体、四たんの実力はわかったんだぜ。いやあ、先に殴らせないと、力加減を間違って、殺してしまいかねないんだぜ。さて、これくらいの力で殴り返せば良いのかだぜ?」
慶次くんはそう言うと、無造作に腰を少し落とし、右腕を絞り込み、ぼんっと言う空気の壁を突き破る音を出して、その引き絞った右腕を前に突きだしてくるんやで?
ひゅんっ!ぼこおおおん!
な、なんや?わいの左耳に甲高い風を切る音が響くんやで?
「おっと。はずしちまったかなんだぜ。いやあ、全力で殴るのは慣れているが、力を抑えると目標がずれてしまったんだぜ」
わいは左のほうをおそるおそる見たんやで。そしたら、木の幹くらいに太い慶次くんの右腕が、わいの顔面の左、3センチメートル横をまっすぐ突き抜けていたんやで。それだけやないで?慶次くんの右のこぶしが漆喰の壁にぶち当たって、ヒビを走らせているんやで?
じょじょじょじょじょじょー。
わ、わい、今の当たってたら、顔面が肉塊に変わっていたんやないか?想わず、いちもつの先っちょから大量に生暖かい液体があふれ出してきたんやで?
「よっし。大体の力加減はわかったんだぜ。さあ、次は当てるから、四たんは、しっかり生き残ってくれなんだぜ?」
な、なんやと?今度はマジで、わいの顔面をぶち抜く気なんかいな?わい、どうしたらええんや?やっぱり、千歳ちゃんを諦めて、逃げ出しておけば良かったんか?
しかし、わいがそう恐怖しているのも気にせずに、慶次くんがゆっくり腰を落としていき、身体を右に捻じって、右腕を引き絞っていくんやで?
ああ、慶次くんがほんまにゆっくり動いているんやで?もう、すでにあの構えから、わいの死が垣間見れるんやで?
って、あれ?このゆっくりとした動き、ついさっき、わい、体験しなかったかやで?よくよく慶次くんの動きを見るんや。力を溜めていると言っても動きが鈍すぎるんや。
わい、もしかして、また死の淵に追いやられることによって、わいの特殊能力が勝手に発動したんちゃいますの?
「四たーんー。こーのーいーちーげーきーでー、ねーむっーてーもーらーうーんーだーぜー?」
や、やっぱりそうや。わいの特殊能力が発動しているんや!これは、チャンスやで!この特殊能力は、わい含めて、世界の時の流れを遅くするんや。わいの思考速度だけがこの遅い世界の流れから独立しているんや!
この能力で気をつけなければならないことは2つや。わいの思考速度はいつも通りやけど、わいの身体の動きは鈍いんや。だから、慶次くんから飛んでくるこぶしの速度から考えるに、慶次くんがこぶしを突きださんとしたその直後には、わいは自分の動きを開始せなならんってことや。
次に気をつけんならんのは、慶次くんの2撃目のことや。さっき、悪代官くんの初太刀はかわしたものの、2撃目の振り上げには対応できんかったんや。それは、わいが2撃目のことを失念していたからや。
慶次くんの1撃目は、わいの顔面を狙ってるさかい、かわすのは簡単や。でも、慶次くんは喧嘩なれしてはるんや。一瞬、わいに1撃目をかわされたことにより、驚くことはするかもしれへんけど、続けて、2撃目がくるはずや。
いや?どうやろうな?うまいこと2撃目をかわしたところで追撃の3撃目がくるかも知れへんのやで?そうなったら、慶次くんの動きがいくら緩慢と言えども、こぶしの速度とわいの動きから考えれば、3撃目はかわしきれるわけではないんやで?
落ち着くんや。3撃目がかわせない確率が大きいのであれば、慶次くんの2撃目をかわしたと同時に反撃すれば良いだけなんや!
や、やったるでえええ!この四さまの特殊能力【瀕すれば鈍する】や。
ん?名づけセンスがいまいちやと?そんなこと言われても、こうやって考えている間にも慶次くんは力を溜め込んでいるんや!今回の闘いで見事、生き残ることが出来たら、じっくり考えさせてもらうんやで!
きたで、きたでーーー!慶次くんが力を溜め終わったんやでーーー。さあ、その右のこぶしをわいの顔面に向けて、突き飛ばしてくるんや!わいが、華麗にかわして見せるんやで!