ー旅立ちの章14- 親友(まぶだち)はかけがえのない存在なんやで!
わいは見てもうたんや。慶次くんが悪代官くんのいちもつを無造作に右手で掴んで、ぽきっと折ったところをや。
いちもつと言うのは縦の衝撃は案外耐えるもんらしいんやけど、横方向から力を加えられると意外とあっさり折れるもんやと、医者の熊五郎さんにそう聞いてたんや。
だけど、慶次くんは折れにくいと言われている縦方向に軽々と、悪代官のいちもつを折ったんやで!なんや、お小水をするときには噴水のように上方向に弧を描くんやろうなあって違うわ!そんなことが問題ちゃうわ!
「け、慶次くん?ほんまに折ることはなかったんやないか?わい、別に悪代官くんに何か特別な感情を抱いていたわけやないんや。たまたま、悪代官くんと越後屋くんが悪だくみをしているこの部屋に入りこんだら、因縁をふっかけられただけなんや!」
「因縁をふっかけられたかなのだぜ。あーははっ!喧嘩の理由としては充分なんだぜ。それに、四たんは悪代官に刀で襲われたんだぜ?それでも、喧嘩じゃなかったと言い張るんか?だぜ」
慶次くんが疑いの眼をわいに向けてくるんやで?せ、せやなあ。慶次くんの言うことは最もなんや。わい、慶次くんが助けてくれなかったら太ももをばっさり斬られて死んでいたとこやったやんか。
「すんまへんなあ。わい、慶次くんに助けられたことをすっかり失念してたんやで。ほんま、さっきは助けてくれてありがとうなんやで?」
わいは素直に謝罪と感謝の念を伝えたんやで。
「あーははっ!四たん、あんたは本当に良い男なんだぜ。男って言うものは中々、ひとに頭を下げて謝ったり、感謝の言葉を言えないもんなんだぜ。しかも、四たんから見れば、俺は18の餓鬼なんだぜ。四たん、俺様と親友になってくれないか?だぜ」
ま、親友いいい?わいみたいな男とこんな眼力だけでひとを殺してしまいそうな慶次くんと親友になれって言うのかいな!
「そうよ。親友だぜ!いやあ、俺様、馬鹿の中の馬鹿だから、今まで親友になってくれる奴がいなかったんだぜ。一度、親友と肩を組んで、立ちションでもかましながら、好きな女子について語り合いたいと想っていたんだぜ!」
はわわわ。わい、野生動物の中で親友と言えば、猿メンのひでよしくんと豚メンの田中くんと牛メンの彦助くんがいるんやけど、さすがに伝説に聞く大狼のような慶次くんと親友をやっていく自信がないんやで!
「慶次くん。四さまって48の寝技と52の得意技を持ってるっしー。で、その52の得意技のひとつに、親友は絶対に裏切らないって言っていたっしー。僕、慶次くんと四さまが親友になることに賛成なんだっしー!」
はわわわ。千歳ちゃんがわいの退路を見事に断ってくれたんやで?ほんま千歳ちゃんは、わいにとって、かけがえのない堕天使やで!
「わ、わかったんやで?わいも男の中の男や。慶次くんくらい、わいの器の中に入れたるわ!慶次くんと、わいはこの瞬間から親友やで!」
わいの返答に気を良くしたのか、慶次くんが、あーははっ!と笑って、わいに右手を差し出し、握手を求めてきたんやで。わいも、おそるおそるやけど自分の右手を差し出して、固い握手をしあったんやで!
「痛い痛い痛い痛いいいいいいいい!ちょっ、ちょっと、慶次くん。力の加減をしてくれやで!わいの右手が砕け散るどころか、引っこ抜けるやでえええええ!」
「おおっと、すまないんだぜ。つい、初めての親友ができたことに心が浮き立ってしまったんだぜ。四たん、これからよろしくなんだぜ。あーははっ!」
「だ、だから、力の加減をお願いするんやで!痛い痛い痛い痛いいいいいいいい!握手したまま、腕をブンブン振るのはやめてくれやで。ほんまに、右腕が根元から引っこ抜けるやでえええええ!」
「美しい男同士の友情なんだっしー。なんだか、僕、すっごく2人が羨ましいんだっしー」
千歳ちゃんが微笑ましい顔つきになっているやで?まあ、千歳ちゃんが喜んでくれるのなら、わいも嬉しい限りやで?
「さて、四たん。俺は普段、清州の方に居るんだぜ。清州の町で見かけたら、気軽に声をかけてくれなんだぜ?」
「そうでっか?わかったんやで?でも、慶次くんは何用で津島の町のこんな高級料理店に来てるんや?それと、わいの千歳ちゃんとなんやら、仲良くしてるみたいやけど?」
「ああ、そう言えば、四たんには言ってなかったんだぜ。俺様は今日、見合いをしに来たんだぜ。千歳ちゃんは、俺様の見合い相手と言うわけなんだぜ」
な、なんやと?千歳ちゃん、これはどういうことなんや!わい、千歳ちゃんのお見合いを粉々に破壊しにきたって言うのに、その見合い相手が慶次くんじゃ、指先ひとつでダウンさせられるんやで!