ー朝焼けの章21- わい、戦術はそこそこ考えつくんやけど、戦略に関してはダメダメなんやで?
「じゃあ、四さん。そろそろ、俺は帰るわ。夕飯、ごちそうさま!明日も訓練のあとで、四さんと合流すれば良いんだよな?」
「せやな。もう1度、【神の家】の偵察に行って、対策を練りましょうや。あちらから手を出してもらえるような名案が想いつくことを期待するんやで?」
「それは策士のひでよしさまにでも頼んでくれよ?俺みたいな馬鹿には名案なんて想いつくわけがないからさ?」
「ひでよしくんは、彼女持ちやさかい、巻きこんだらあかんやん?あと、新婚の田中くんも巻きこんだらあかんのやで?弥助くんはまあ、巻きこんだらめんどくさいことこの上ないんやで?」
「あれれっしー?もしかすると、この面子で頭脳労働担当って、四さましかいないんじゃないっしー?」
千歳ちゃんがそう疑問を呈するんやけど、わいって、言うほど頭脳労働担当ちゃうんやなあ?
「四さま、謙遜はやめておくっしー。馬鹿の彦助くん。ひととしての感性が狂っている慶次くんに比べたら、かなりマシなほうなんだっしー」
「いや、そういうことちゃうんや。わいは確かに、この二人に比べたらマシやけど、わいはこざかしい戦術しか得意やないんや。その場その場の対処はできるんやけど、もっと大きな視点での戦略眼が乏しいんやで?」
「戦術?戦略?どっちも同じことじゃないっしー?」
ああ。千歳ちゃんがよくわかってないって顔をしてますなあ?そりゃ、どっちも戦うって意味では同じやもんなあ?
「あーははっ!戦術って言うのは、戦場でどう陣形を組んで、どうやって勝ちにつなげていくかってことなんだぜ。で、戦略ってのは、もっと大きな意味で、例えば、織田家と今川家で考えて、どうやって、最終的に織田家の勝ちに持っていくかを考えるってことだぜ」
「うーーーん?よくわからないっしー。どっちにしろ、戦場で戦うっしーよね?なら、戦術も戦略も変わらないんじゃないっしー?」
「戦うための策を考えるって意味ではどっちも同じやねんな?でも、戦略ってのは、ここ清州から南の鳴海城を攻めて、相手をおびき寄せて戦うとか、もしくはそれは陽動で、鳴海城の南東の沓掛城に戦力を集中するとか、尾張と三河全体を戦場と考えて、策を考えるってことやで?んで、戦術は鳴海城で戦う場合になった時に、どう陣形を組むとか限定的な戦での策のことを指すんやで?」
「うーーーん。要は慶次くんと1対1で四さまが殴り合うときに使う策が戦術で、慶次くんと戦う前に四さまが有利になるように、慶次くんのご飯に下剤を混ぜたり、彦助くんを四さまの仲間に引き込んだりすることを戦略と呼ぶんだっしー?」
おっ?それはわかりやすい例えなんやで?さすが、わいが愛する千歳ちゃんなんやで?
「せやで?千歳ちゃんの例えは正しいんやで?って、ここで気付いたんやけど、わいらに圧倒的に足らんのは戦略眼を持っているヒトの存在やなあ。【神の家】の尾張支部を潰すのは戦術でどうになかるけど、その先についてはまったくもって、見通しが立ってないんやで?」
「本当、問題はそこだよなあ。結局は【神の家】全体とどうやって戦い続けて、どこで決着をつけるっていう戦略眼を俺たちは持ち合わせていないんだよなあ」
彦助くんの言う通りなんやで。これは困りましたなあ。
「戦略眼に優れたヒトは四さまの友達や知り合いには居ないんだっしー?」
「千歳ちゃん。聞いてほしいんやで?そもそもとして、戦術が得意って言う御人は捨てるほどおるんや。でも、戦略眼を持っている御人は、それこそ、時代に選ばれたとしか言えないような御人しか持っていないんやで?」
「時代に選ばれたとしか言えないような御人っしー?それは、例えば、尾張で言えば、信長さまのことを指しているんだっしー?」
「せやな。信長さまは深慮遠謀で尾張守護大名の家老である守護代の家老の身分から、尾張を統一して、大名に成り上がったさかいな。さらに、尾張の民たちからは、その善政で信長待望論を巻き起こして、民からの信望も厚いときたもんや。まったく、信長さまは尾張だけじゃなくて、周辺国を飲み込んでいくことになるやろうなあ?」
ほんま、信長さまはすごいんやで。普通、下剋上なんてしようものなら、大義がついてこずに、家臣や民たちから見放されるもんなんやけどな?大義がついてこずに無念の死を遂げた御人が尾張の隣におるんやで。
それが斎藤道三や。美濃の蝮なんやで。油売りの身分から裏切りの連続で、見事、美濃を手に入れたはええけど、結局、最後は美濃の土岐氏の血を引いているとの噂の義龍に美濃を奪われてしまったさかいなあ。
道三は良い反面教師になったやろうな。信長さまには。戦術が如何に優れようが、戦略自体を間違えたら、結局のところ、手に入れたモノは水の泡のように消えてしまうってことやで!