ー朝焼けの章15ー 愛情ある馬鹿呼ばわりと、病的な馬鹿呼ばわりの二通りがあるんやで?
さて。今の時点で得れるだけの情報は手に入れたわけやけど、ここからどうするかやで?
「なあ、彦助くん。わいは決定的に【神の家】相手に先手有利となるような状況にしたいわけやけど、何か良い案とかありまへんかなあ?」
「うーーーん。忍者で暗殺。これに限るんじゃねえのか?」
「はい。馬鹿の彦助くんに聞いた、わいがあほやったわ。ほな、次の案を聞かせてもらいますかいな?」
「ちょっと待ってくれ。今、俺のことを馬鹿だと言わなかったか!?」
「ああ、言いましたで?彦助くんのことを馬鹿と言ったんやで?てか、忍者って何ですの?わいも、知り合いに忍者が居たら、とうの昔に頼んでますわ!」
「あ、あれ?四さんのことだから、てっきり、48の寝技と52の得意技で、忍者の知り合いを笛で呼び寄せるとかできると想ってたのに、違うのか」
ほんま、彦助くんには困ったもんなんやで?
「わいは、笛で動物たちを呼び寄せることはできるけど、忍者を呼び寄せることは出来ないんやで?てか、そもそも、忍者の知り合いがおらへんわ」
ここ尾張から西に行った伊勢には忍者が住んでいるっていう話を聞いたことはありますけど、わい、尾張を中心に、美濃、三河へと針の行商人で通ってただけやからなあ。三河には忍者オブ忍者の服部半蔵くんなる男がおるみたいやけど、有名になってきたのはここ2,3年の話やから、結局、出会わずじまいやったんやなあ。
まあ、忍者が忍者とわかるような恰好しているわけがあらへんから、実は街中で出会っているかも知れへんけどな?
「次の案かあ。ボヤさわぎでも起こして、混乱状態に陥れるのが鉄板なんだろうけど、そんなことして、大火事に発展したら、シャレにならないからなあ?」
「せやな。火つけはあかんな。季節的に考えても、春の風は突風に変わることがあるさかい、それは使っちゃいかん手やな。さて、次の案を頼みまっせ」
「んじゃ、屋敷からひとり、さらってくるってのはどうだ?構成員の下っ端を捕まえたところで、あっちも勘付かないだろうしさ?」
「それはなかなかに良い案なんやけど、下手に暴れられると、わいと彦助くんの二人では、力加減を誤って、殺してしまいかねないところがダメやな。慶次くんが居れば、手加減して9割殺しにしてくれるんやけど。ほい、じゃあ、次の案、頼んまっせ?」
「えええ?また俺が考えるのかよおおお。えええと、えええと。あっ!じゃあ、これなんかどうだ?」
彦助くんの言い出した案って言うのは、弥助くん辺りを新規入信者として送り込むのはどうかって話やったんやで?
「ほうほう。それは面白そうな案なんやで?弥助くんはデウスの教えを妄信しているさかい、絶対に、【神の家】に洗脳されることはなさそうやもんなあ。彦助くん自身がその役目を負わないところがなかなかに憎らしいんやで?」
「俺は馬鹿だから、ころっと騙されそうなんだよな。俺だとガチで入信して、シャレにならないことになりそうだし」
「自分のことをわかっているのはええことやで?でもな?こう言った新興宗教に騙されやすいのは、普段、自分が賢いと勘違いしているニンゲンなんやで?彦助くんは馬鹿やさかい、逆にひっかかりにくいと想うんやで?」
「なんか、褒められてるのかけなされてるのか、わかりづらいところだなあ。じゃあ、弥助を【神の家】に入信させる案で行こうか。絶対に、大混乱を起こしてくれそうだしな?」
「ほんま、そうやで。宗教狂いには宗教狂いをぶつけるのが一番やで!ほな、長屋に帰りましょうかいな。彦助くん、夕飯はどうする気なんや?」
「うーーーん、どうしようかなあ?清州の街で一杯ひっかけて帰ろうかと想ってたんだけど」
「ほな、わいの長屋に来てくれやで?多分やけど、わいの愛する千歳ちゃんが彦助くんの分まで夕飯を準備してくれてると想うんやで?」
「なあ、四さん。四さんってすごいよな。臆面もなく、わいの愛する千歳ちゃんとか言えるよな?」
「うん?自分の愛している女性を愛しているって言って、何が悪いんや?彦助くんは馬鹿とちゃいますの?」
「ば、馬鹿って言ったな!俺、父親にすら馬鹿って言われたことなんてないのにいいい!」
こいつ、何を言ってますんや?そんなの、あんたさんの父親が彦助くんを甘々に育てただけの結果やろが。
「男が馬鹿と言われずに大人になれるなんて想わないほうがええんやで?てかな?馬鹿とかアホとか言われるほうが、美味しいやんか?彦助くんは皆に愛されているから、馬鹿とかアホとか言われているんやで?」
「え?椿や菜々さんがさげすんだ視線で馬鹿だ、馬鹿だって言っているのは、俺を愛してくれているからなのか?」
「せやで。てか、仲良くもない相手に馬鹿とかアホとか言うわけがあらへんやんか。いや、そりゃ、例外もおるやで?ひとを小馬鹿にせんと呼吸できんような精神的に病んでいる奴もおるやで?でも、少なくとも、椿くん、菜々くん、それに彦助くんの親友たちは、彦助くんに愛情持って、馬鹿と罵っているんやで?」