ー旅立ちの章11- 慶次くんは3文字以上の名前は覚えられないんやで?
「慶次くん。女性をひとり部屋に残して行くのはあまり褒められたことじゃないっしー」
あ、あれ?この声は千歳ちゃんやないんか?
「おお、悪いんだぜ。隣の部屋で喧嘩が始まったみたいだから、ついつい、首をつっこんじまったんだぜ。千歳さんも一緒に見学をするって言うのはどうだぜ?」
「僕、血なまぐさいのは好きじゃないっしー。って、あれ?四さま、なんでこんなところにいるっしー?しかも、ふんどし一丁なんだっしー!」
千歳ちゃんが驚いて両手で顔を隠しているんやで。わいの身体を見てもおもしろくもなんともないんやで?
「そ、そう言うことではないんだっしー!とにかく、何か着てくれなんだっしー。四さまの身体がまぶしくて、僕にはまともに四さまを見ることができないんだっしー」
うーん。着るものと言われても、わい、ここに向かってくる最中に身ぐるみはがされた男に自分の着物を渡してもうたからなあ?
「あーははっ!俺様もふんどし一丁なんだぜ。男と言うものはふんどし一丁の姿が一番、恰好良いんだぜ。千歳さんは損をしているんだぜ?」
「そ、そうなんだっしー?まあ、慶次くんがそう言うのならば、僕もなんとか頑張って見るんだっしー」
な、なんや?千歳ちゃん。なんで、慶次くんの言うことは、そんなに素直に聞くことができるんや?
「ん?お兄さん、何を不可思議な顔をしているんだぜ?何か聞きたいことがあるなら、あの世に逝く前に聞いてくれて良いんだぜ?」
「い、いや、あの世に逝く気は今のところないでやんすよ?わいの聞きたいのは、なんで、あんたさんが千歳ちゃんとそない仲良くしているってことや!」
わいは語気を強めて言ってやったんやで?でも、慶次くんが睨んできたので、わい、萎縮してしまったんやで。
「あんたさんじゃねえ。さっきも言ったが俺様は前田慶次だ。ちゃんと名前で呼んでくれないか?だぜ」
「す、すまんのや。つい、出来心なんや。その真っ赤に染まった槍をわいに向けるのはやめてくれやで?慶次くん」
こ、怖いんやで。慶次くんの持っている槍の柄の部分は先から尻まで全部、真っ赤なんやで。多分、あれは対峙する敵の血を吸い上げて出来上がった色やで!
「あーははっ!よくわかったんだぜ。こいつの柄は元々、白い色だったんだぜ。でも、この槍を手にいれてから3か月も経ったら、真っ赤に染め上がってしまったんだぜ。いやあ、お兄さん。おっと、名前を聞いてなかったんだぜ。俺様が名前で呼ばせているのに、俺様が無礼を働いてしまっていたんだぜ!」
な、なんや、こいつ。まじで物事の判断基準がわからんのやで。わい、ひとの心の機微が読めるのが48ある得意技のひとつと言うのに、こいつの考えていることが全くもってわからんのやで!
「で、お兄さん。名前を聞かせてもらえないかなんだぜ?いやあ、いつもなら名前を聞く前に殺してしまうんだが、お兄さんを殺す予定は今のところないんだぜ。というわけで、お兄さんが死ぬ前に名前を聞かせてもらえないかだぜ?」
ちょっと、待ってくれでやんす。わいを殺す気なのか、殺さない気なのか、ほんまどっちなんや?
「わ、わいの名前は楮四十郎でやんす!千歳ちゃんの婚約者でやんす!」
「ちょ、ちょっと待つっしー!僕、四さんと婚約者でも、そもそもお付き合いをしていないっしー!」
「す、すまんやって。そんなに強く否定されると、わい、心が折れてしまうやんか。わい、千歳ちゃんのことを本気で好きなんやから」
「あーははっ!俺様の目の前で愛の告白とは畏れいったんだぜ!楮四十郎さんって言うのか。うーん、名前が長いんだぜ。俺様は3文字以上の名前は覚えられないんだぜ?」
「じゃ、じゃあ。わいのことは四さまと呼んでほしいんやで?」
「四さまか。うーん、4文字なんだぜ。俺様、覚えていられないんだぜ?」
ちょっと、まちいや!なんで、四さまで「さま」まで文字数に含んでいるんや、この慶次くんは!さっき、馬鹿の中の馬鹿と慶次くんが言ってたでやんすけど、こいつ、ほんま馬鹿の中の馬鹿やで!
「ちゃ、ちゃうやん。四が名前で「さま」が敬称やんか!」
「おお、それならそうと言ってくれなんだぜ!じゃあ、四さま。ん?さまづけだったら、俺とキャラが被るんだぜ!これは由々しき問題なんだぜ!」
あ、あかん。慶次くん、彦助くんよりやばい馬鹿なんやで?彦助くんはおっぱい方向で馬鹿やけど、慶次くんは狂っている方向で馬鹿なんやで。
「じゃ、じゃあ。わいのことは四と呼び捨てしてくれて構わないんやで?」
「おおっと待ってくれだぜ。それじゃあ、年上を呼び捨てにしてしまうんだぜ?そんな不義理なことは俺様の矜持を傷つけることになるんだぜ!」
こいつ、ほんま、面倒くさいんやで!馬鹿なら馬鹿らしく素直にひとの話を聞いておくんやで!
「じゃ、じゃあ。わいのことは四たんと呼んでほしいんやで?」
「おおっ。四たんか。良いねえ。四たんとは中々、名づけのセンスが良いんだぜ。俺様、四たんとは仲良くなれそうな気がするんだぜ?」




