ー朝焼けの章12- うっわ。こないな屋敷やとは想ってもみなかったんやで?
菜々くんから教えてもらった感じやと、わいの住んでいる長屋から【神の家】までの距離は、ゆっくり歩いて30分と言ったところやで?てか、結構な一等地にあいつら、屋敷を構えてくれたもんやで?
「なあ。四さん。慶次の奴を連れてきたほうが良かったんじゃねえの?俺と四さんのふたりじゃ、戦闘行為に発展したら、何も出来ないぜ?」
「そうなったら、逃げるしかないんちゃいますの?長槍の1本でも持って来てたら、そりゃ、彦助くんと二人でもどうにかなりそうやけど、そんなもん手にしたまま、偵察とかアホそのものやしな?」
「ふうむ。でも、何も持たずじゃ不安でしょうがないんだよなあ。手ごろな棒きれでも隠し持っておこうぜ?」
まあ、そこが落としどころやろな。鳩のまるちゃんとネズミのこっしろーくんはそもそも戦力外やし、彦助くんは弓矢の腕前は人並み以上なもんを持っているいけど、そもそも弓なんて持ってた日にゃ、一発で怪しいやつ扱いやしなあ?ちなみにひのもとの国の兵士が使っている弓は2メートル近くあるんやで?豆知識やから覚えておいて損はないんやで?
というわけで、道端に落ちていた、ひのきの棒を拾っていくことにしたんやで?
「くっ。めぼしいものが、ひのきの棒ふたつだけって、これは難易度が高そうだなあ。こんな攻撃力1でどうやって、戦えっていうんだよ!」
「頭を思いっきり殴れば良いんちゃいますの?ニンゲンのひとりくらい、ひのきの棒でも殺すことは充分、可能やで?さて、武器も拾ったし、これで自分の身を護ることくらいはできますなあ。おっと!視えてきたんやで?あそこが【神の家】の尾張支部やで!」
【神の家】の屋敷は生意気なことに木の板でこしらえた塀に囲まれた屋敷なんやで?しかも、入り口には簡素ながらも門が設置されており、そこには門番らしき奴が二人も立っているやで?
「おいおい。これは予想外に立派な屋敷だな。漆喰作りの塀じゃないだけマシって言えばマシだけど、これは潜入するには骨が折れるぜ?」
「せやな。彦助くんの言う通り、これは予想外やったわ。あいつら、昔、わいが尾張支部を潰してやったことで、警戒心を持っているってことやな。簡単に乗りこまれないように準備は整えているっちゅうことかいな」
「どうすんだ?このままじゃ、中の様子がまるでわからないぞ?」
「そこは安心してくれやで?もしものための鳩のまるちゃんとネズミのこっしろーくんやで。潜入調査はそもそも、この一羽と一匹に任せるつもりやったしな。ふたりとも頼んだんやで?」
「ポッポー。とりあえず、拙者とこっしろーで、尾張支部の備蓄を全て食べてくれば良いんだポッポー?」
「やったでッチュウ!お腹いっぱい、食べてきて良いんでッチュウね!」
「ちゃうわい!潜入調査をしてくるんやで!そりゃ、あんたさんらふたりで、備蓄を食べきってこれるなら、頼むわいや!」
「ポッポー。それもそうだポッポー。仕方ないんだポッポー。偵察のついでに腹いっぱいに詰め込んでくるんだポッポー」
「動けなくなるくらいに食べてきたらあかんで?腹八分目でやめておくんやで?それじゃ、頼んだやで?わいと彦助くんはここで待機しておくからな?」
それから鳩のまるちゃんは足にこっしろーくんを掴んだまま、大空高く舞い上がり、【神の家】の屋根に着陸するんやで?
「なあ、四さん。あのふたりで本当に大丈夫なのか?俺、不安でしょうがないんだけど?」
「せやな。わいも不安でしょうがないんやで?でも、こんな塀がある以上は、日の高いうちから潜入するのは無理やしなあ。あのふたりを頼りにするしかないんやで?」
その後、1時間くらい、わいと彦助くんは物陰に隠れて待つことになるわけなんやけど、暇やったさかい、彦助くんとおしゃべりすることになったんやで?
「なあ、彦助くん。さっき、彦助くんに特殊能力があるって話をしてたやんか?」
「ああ、そうだな。てか、もしかして、四さんにもその特殊能力があるのか?」
「せやで。そうじゃなかったら、彦助くんに特殊能力うんぬんの話自体が出てくるわけがないやんか?ちなみに、わいの特殊能力は【瀕すれば鈍する】やで?」
わいは彦助くんに自分と慶次くんの特殊能力の解説を簡単ながらに済ませるんやで?
「へえええ。ふたりとも、変な特殊能力を持っているんだなあ。自分の命が危険な時にしか発揮しないとか、不便すぎないか?」
「せやで?めっちゃ不便やで、この特殊能力は。頭を上手く使わんと、結局、宝の持ち腐れになってしまうんさかいな。慶次くんの殴った相手の力がわかる【全てを見透かすコブシ】のほうがよっぽど使い勝手がええんやで?」
「そのネーミングセンスには脱帽だぜ。俺の異常な回復力にもなんか恰好良い名前をつけてくれよ」
「せやなあ。一晩で11回もいちもつが立ったんやさかい、【極限回復力】ってのはどうかいな?」
「うっわ。誇って良いのか悪いのか、悩ましいところだよな?それって、暗に超絶早漏回復野郎ってことだろ?」