ー朝焼けの章10- 四(よん)と馬鹿と狂戦士の邂逅やで?
さあて、彦助くんがこの長屋から逃げ出して、あることないこと吹聴しまくることは防げたんやで?あとはバラシて、木曽川に放り投げてくるだけやで?
「四さま?彦助くんを解体しようとするのはやめるでっしー。しばらく、お肉を食べたくなくなる気分になるでっしー」
「それもそうやな。彦助くん、あんたさんは運がええなあ?千歳ちゃんに免じて、彦助くんの命だけは取らないでおくんやで?」
「ちょっと待てや!なんで、俺が四さんに殺されなきゃならない理由があるんだよ!だいたい、四さんが何か事件に巻き込まれているから、俺が手助けしようっていう話だったろうが!俺自身が事件になってどうすんだよ!」
おっと。彦助くんはツッコミ上手になったもんやなあ?女性の穴にはツッコミ足らんくせに、なかなかに生意気な奴なんやで?
「う、うるせえええ!経験不足で悪かったな!俺だって、毎晩のようにツッコミまくりたいけど、海より深い事情があるんだよ!」
こいつ、何言ってますんや?毎晩のように遊女通いなんかしてたら、あっという間に、お金を使い果たしてしまうんやで?彦助くんはついにとち狂ってしまったんかいな?
「まあ、ええわ。それより、彦助くんが、なんでか知らんけど、うちのまるちゃんと、長寿さまくんと、ネズミのこっしろーくんの声を聞けるようになったことのほうが肝心なんやで。あんたさん、今まで、動物たちの声が聞こえるような特殊能力を持ち合わせていたんかいな?」
「特殊能力?いったいぜんたい、何の話をしているんだ?俺がこの小動物たちの声が聞こえることと何か関連性があるって言うのか?」
「うーーーん。いちいち説明するのがめんどいんやで?誰か、わいの代わりに頭の出来が良くない彦助くんにわかりやすく説明してほしいところやで?」
「よっしゃあああ!その役目、頼まれたんだぜ!」
その大声と同時に、わいの長屋の扉がバッコオオオン!とどこか遠くに吹き飛んでいったんやで!?
「あーははっ!前田慶次、ここに登場なんだぜ!なんだ、四たん。またもや、おもしろそうなことになっているんだぜ?俺も一枚噛ませてほしいところなんだぜ?」
そう豪快に笑いながら現れたのは、前田慶次くんなんやで?
「慶次くんなあ?毎度、言ってるやんか?わいの長屋に遊びにくるときは、そっと優しく、子猫を抱きかかえるように扉を開けてくれと」
「そんなこと言われても、なかなかに開かないあの扉が悪いんだぜ。文句を言うなら、建てつけの悪い、この長屋を恨むんだぜ?」
慶次くんがあっけらかんとそう言いのけるんやで?まったく、こいつ、ほんま、とち狂っていますなあ?
「わいが、もっと出世したら、開きやすい扉の屋敷を購入するから、それまで我慢してほしいところやで?とりあえず、慶次くんは遠く彼方に放り投げた扉を回収してきてくれやで?」
おう、わかったんだぜ!と慶次くんがのっしのっしと歩いて、吹き飛ばした扉を拾いに行くんやで?
「な、なあ。今の慶次だよな?四さん、あいつとまだ親友をやっていたのか?」
ああ、彦助くんが大層、びびっているんやで?それもそうやなあ。慶次くんが、わいの親友である以上、親友の親友は皆、親友だぜ!と言い出して、彦助くんたちとも慶次くんは親友になってしまったもんなあ?
わいと彦助くんを含めたいつもの5人が慶次くんと親友になってから早3年が過ぎようとしているわけやけど、慶次くんの持ち込んでくる案件には、頭がおかしい彦助くんすらもドン引きするような内容の数々やったもんなあ?
まあ、それについては機会があれば、この物語で語られることになるかもしれへんな?今は、それどころやないから、また今度にさせてもらうんやで?
「よっし。長屋の扉を直しておいたんだぜ。で?彦助さん、お久しぶりなんだぜ。あんたも四さんの件に巻き込まれたと想っておいて良いのか?だぜ」
「せやな。彦助くんは火中の栗を拾いに来た大馬鹿者なんやで。散々、脅してやったというのに、あっけらかんと、「俺たち、親友だろ?」で巻き込まれに来たんやからな?」
「ほっほお。さすがは俺たちの親友なんだぜ。で?外でちょっとだけ話を聞いていたんだが、要は、今、彦助さんが置かれている状況をこぶしで語ればいいのか?だぜ」
「ちょっと待てよ!慶次に殴られたら、俺は極楽浄土に旅立っちまうことになるだろうが!同じニンゲンなら、言葉で語ってくれよ!」
「と言われても、俺は彦助さんより頭が悪いんだぜ?そんな俺に言葉で語れとは、片腹痛し!なんだぜ?」
さっすが、慶次くんやで。ほな、さっそく、彦助くんに事情説明を開始してもらうんやで?