そして時代は彼女を選んだ:5
炎上の定義はさておき、彼が話題に乗り続け、愛されていたことは確かだ。
だからすこし前まで我々は彼の本名も知らなかった。それは(我々を飽きさせえしなければ)どうでもいい話だったのだ。
ぜ「かった」のかは皆さんもご存じの通りで、「その事件」についてはおいおい触れていくこととして、ここでは皆さんご存じ「キシロー」で通そうと思う。
ともかく、それは日本で主だったIT系企業家が男性だという事実を内心腹立だしく思っていた一部のフェミニスト、特にいわゆる「ジェンダーフリー」を唱えている論者に拍手をもって受け入れられた。
最も彼は「女性」として扱わられることを望んではいない。
だがそれは彼がフェミニストではないということではなく、
「男として扱ってくれるのであれば、フェミニストになってもいいですよ?」
とのことだし、また彼が実際には彼女であること、時には「可愛い」としてむしろ好意を持って受けいられることであろうところがあるということは最初にメディアに出たきっかけもまたきっかけであるし、隠し通せることではなかった。
一例をあげよう。
同じく動画サイトで見つけた、あるテレビでのことだ。
男性タレントが、キシロ―に向かって口説くような発言をした。
「いやぁ、ほんまようみるとキシロ―ちゃん可愛いや、男が好きなんやろ?俺どう思う?」
「え、○○さん奥さんいるじゃないっすか。悪いですよ、でもそうですねぇ、こないだ見た若いころの写真はちょっとドキっとしました、無いち○こが立ちました(笑)」
嫌そうな顔せず軽く(不快感を感じさせないように)断り、自らで笑いを取りに行き、相手を立てる。
それはあきらかに我々女性のものだ。
とかく、それは彼の社会性がそうさせるのだろうか、テレビに出ては「やはり女性らしい」と言われてしまうような言動をたまにやり、面白半分で美少年と組んでは「可愛い」といわれ、皆やはり「それでも、いつか女に戻る」というおとぎ話を皆で信じていたのか、それともただの「ボーイッシュな可愛い女の子」枠なのか、なんなのか、MTFはともかくFTMの芸能人は(彼は芸能人ではないが)今まであまり聞いたことがない。
物珍しさなのか彼のキャラクターとしてなのかは今となってはわからない。
ただそのことが、彼がFTMであることこそが、やはり一部のフェミニズム論者によって好意的に扱われ(もっとも、そのことで彼を叩く論者もいたが)ると同時に、彼の最初に出した本もまた、時代に合って、いや最初に書いたように「権力者側」に寄っていく時代の空気に逆らっていた。