キシローへのバッシング:1
キシローへのバッシング
もしかしたら私は、この章が書きたくてこの仕事を受けたのかもしれない。
いち新聞記者として、メディアに関わる人間として、一人の人間が持ち上げられ何かを掴みかけ何かをきっかけに叩かれることは、すでに何度かあった。
それらとキシロ―の事例が違うかどうかここで触れることは避けようと思う。
何回か触れた通り彼は、公共放送の福祉番組に出たことがきっかけで有名になっていった。
私の調べたところによると、福島では震災後若手の起業家を援助する仕組みがあり、それで起業した者もそれなりにいるそうだがキシロ―はそうではない。
また一時期ITバブルの時と違うのは、彼の場合復興バブルだったということだ。なんでも、復興バブルとはいわゆるハコモノや道路などを作る建設業が潤う時代だったらしい。
それでいて、彼の出てくる前の少数者問題は、なんとなく元気がなかった。皆インターネットの無名の悪意に怯え、なぜかはわからないが多数派も生きずらいという声まであった。
彼はそこに現れて少数者の生きやすい世の中は多数派も生きやすいと説いた。
彼はそれからも反権力の側に立ち、それは我々を魅了した。
あまり言いたくはないが、我々は「半官びいき」が好きだ。「水戸黄門」などの時代劇のようにわかりやすく悪者がいて、正義に燃えた者が懲らしめる物語が好きだ。
そしてだいたいそれは過度の期待や幻想を抱いていることが多かったのだが、彼が自分の思った通りの人間でないと知ると、絶望し、次のヒーローを見つける。
ここで彼らの味わったものを想像し私の拙い文で描くより、実際にそれを経験した人物が本を書いているので読んでみた方がいいだろう。
キシロ―の起こした事件とは?といえばこれは皆さんもご存知な通りだ。
「会社が大きくなって、僕一人じゃ抱えきれない問題もできてきて、誰か変わってもらえばラッキー、ついでに会社を売れれば買ってくれた会社ともコラボしてもっと面白いことが出来る、ウィンウィンじゃん、って思ったんだけど、なんで騒ぎになるかな?
結婚だってそうだよ、僕はゲイだよ?法的に結婚できるならするじゃん」
(『僕が会社を売った理由』より)
会社を売却し、男性と結婚しただけだ。
ではこれが何故『裏切り』のように扱われ、彼女が叩かれるきっかけになったのだろうか。
そう、もう彼は彼女だ、ゲイ結婚だというが、戸籍上は妻だからだ。




