そして時代は彼女を選んだ:2
それは、大震災から何年目だったか、福島出身の有名人と障害者、性的少数者を呼んで震災について語ってもらう企画だった。
彼女もNPO「みにこみゅ」の一人として、また福島の「浜通り」つまり海のほうの出身だということで呼ばれていた。
番組も終わるころ、アナウンサーは何気なく出演者にこう切り出した。
「では、最後に皆さんに一言お願いします」
出演者にマイクが順に向けられた。
「まず福島に来て下さい、ほんとうの空がここにはあります」
「復興にはまだまだ時間がかかるかもしれません、しかし、これからも皆さんのふるさととして親しまれる福島でありたいと思います」
「福島の野菜は全袋検査していて、どんな野菜より安全だと自負しています、どうか皆さん、安全で美味しい福島の野菜を食べて下さい」
「福島を忘れないで下さい」
キシローの番になった時、「事件」は起った。
「なんで忘れちゃいけないんですか?」
「・・・はい?」
時間も「おして」おり、アナウンサーは焦った。
「忘れないということはいいことですか?私の知人の自閉症の女性は、震災を忘れられず何かのたびにフラッシュバックに苦しんでます。忘れないとは、ほんとうにいいことですか?」
「キシローさんの彼女さんがですか」
アナウンサーの不用意な発言にキシローは怒りを露にした。
「知人です!僕はFTMゲイですし」
生放送だったためその「ちょっとした事件」はそのまま放送された、ネット民が、彼のブログとSNSのアカウントを見つけだし、それらは「こんな奴がいるWWW」と面白半分にインターネットのサイトに「まとめ」られた。
すぐわかったことはテレビで紹介された通り「みにこみゅ」というNPOに属していること、そこが性的少数者以外にもうつ病等の軽度の精神疾患者や発達障がい者、身体障がい者などを受け入れていること、職業は意外にも「実業家」で、専門学校を出てしばらくはアルバイトで生計をたてていたが、
「仕事がゲームみたいに面白きゃいいのに」
というアィディアを実行させるために独学から携帯ゲームアプリの開発を始め、友人たちを巻き込んで起業したそうだ。
「といっても誰にでも出来るツールがあるんですよ」
とは言うが、それでも専門学校はIT系ではなかったらしい。
いつかマリオを越えるつもりだというから畏れ入る。