キシローの誕生:5
「仕事の取材より先にきちゃってちょっとがくっときた、なんで~、そんなFTMの社長って珍しいかな?ま、こんな奴でも誰かの力になれれば、ってOKしたら」
話題に乗った、とうわけだ。
私もこの仕事を受けてからキシロ―やそれ以外の動画サイトの人気動画をちょっと見てみたが、楽しそうな雰囲気は伝わったのに、何が面白いのか正直よくわからなかった。好きな作家のインタビューは嬉しかった、というだけ、出ている方も殆ど同世代だが、私の馴染んできたものとは文化が違うのかもしれない。
最初にテレビに出て、皆がもの珍しさや奇異の目で見ていたことはわかってはいたが
「でも、かわいそうなしょうがいしゃじゃなく、『変な奴』『面白そうな奴』で認識してくれてラッキーだった、だいたい『性同一性障害』ってなんか言葉の響き、暗くない?」
そのまま、呼ばれるままテレビに出ることにした。
「どこにでもいるFTMを目指してたんです、こう言うとえ?いないよ?とか言う人いるけど、そうじゃない、静かに暮らしてるみんなに迷惑をかけるつもりもない、ただ考えて下さい、僕含め、体格なんかの関係上パス度の低い人はどう暮らせばいいんですか?」
時代は変わっていた、面白半分なのかなんなのかはわからないが、ともかく公共放送を見た民放のお昼情報番組からレポのオファーが来たのだ。
「企画をみた瞬間、あ、これ僕じゃなくってもいいやつだ、と思ったけど。FTMがどこにでもいるふつうの人間だということを知ってもらうのにはいい機会だと思って一つ返事でOKした」
私が動画サイトで見た感じでは楽しんでいるようだったが、きつさもあったのだろう、FTMだと言っているのに外見から女扱いをされることもあったが
「ま、テレビの中だけじゃなく、実際の社会でもあること、無視されるよりずっといい、しゃーない、しゃーない」
社会経験が役にたったのだろう。しかし
「おかげで仲間のFTMから『キシロ―がテレビに出てるせいで女扱いOKみたいに思われた!どうすんだ!』って怒られて、そんなん言われてもって思って、『僕だって嫌だけど』とかすごい喧嘩になっちゃった、なんでもっとふつうに、『頑張って』って言えないのかな」