キシロ―の誕生:1
キシロ―の誕生
キシロ―は福島県I市で小さな土建屋を営む両親の元で生まれた。
中流家庭だったが、それでも家で商売をしている都合上どうしても金の話が多くなる両親に
「なんでそんなにお金がいるんだろう?」
と思った、と後に言っている。
保育所時代からとにかくよく目立つ子で、皆の中心にいて、またそのころから女性であることに違和感があり、
「運動会でお姫様と王子様に分かれての遊戯の時に、王子様の王冠を被った写真がある」
そうだ。
小学生になってからは成績も悪くなく、運動もそこそこで、学級委員を任される等常にクラスの中心にいた、男子の友人も多く、スカートは持ってなかったという。
そうそう、FTMにありがちなランドセル問題だが、彼は意外な行動に出た。
なんと、赤いランドセルに雨除けの黒いカバーをかけたのだ。これで彼は晴れての黒いランドセルで登校となる。
中学時代は制服のスカートが嫌で嫌でしょうがなく、特に規則もなかったので学校指定のジャージで過ごすことのほうが多かった。
みんなの中心にいたのも変わらずに、生徒会を二回もやって、生徒会に力を入れている高校にそのまま推薦で行くことになった。
高校もまた制服に面食らった、そこで一計を案じて女子でも制服にズボンをとりいれようと生徒会に打って出たが落選した、挫折から落ち込み、逃げ込んだ図書館でプログラムの本に出会う。
おかげで、高校は普通科であったのに、帰ったらすぐプログラムをする習慣が身に付いたという。
商売で帳簿をつける家庭事情から、自分の部屋に旧型のパソコンがあったのもよかった。
やがてゲームを仕事にしたい、と思うようになった。
そのまま専門学校に進む。成績が悪くはなかったのに大学に行かなかったのは
「はやく仕事をもった大人の男になりたかったから」
だというが、それにしてもそれならばプログラムの専門学校にいけばいいものを、なぜか公務員を目指す学校に行っている。
「なんか服がわりと自由だって聞いて、プログラマーの友人がいて、プログラムは仕事にするものじゃないという話を聞いたのも一因です」
だがしかし、公務員試験には落ちた。
「その時、すごくせつない恋をしたんですよ、憧れすぎて駄目になっちゃったんですけど、なんか、みんなどうでもよくなって」
そのままフリーターとして調理補助を主に仕事にする。