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ギフト~女神からの贈り物~  作者: レイ
第一章 開幕
1/8

プロローグ


 三年前突如この世に現れた不思議な力『ギフト』


 ギフトを持つ者は『ギフター』と呼ばれ、特別な能力を使うことができた。


 ギフターは主に十代の少年少女に多く現れている。


 強い想い、願いを具現化すると言われるギフトの特性から熱意、信じる気持ちが一番強い年頃と言うことが関係しているのではないかと偉い学者が発表していた。


 このようにギフトにはまだまだ解明されていないことが多い。


 そんな中、この力は神様からの贈り物だと噂されていた。


────────


──────


────


(のぞむ)ー。ご飯よー降りてきなさい」


 母親の呼び掛けに応じ自分の部屋からゆっくりと階段を降りてくる少年、夢宮(ゆめみや) (のぞむ)。彼は市内にある白楼高校(はくろうこうこう)に通う高校二年生である。


 今日も気が重たい中、学校へと向かうため、母親に起こされたのである。


「母さん、おはよ……」


「また遅くまで本読んでたんでしょ!」


「うん……」


 元々父親の影響で本を読むことが好きだった望は、今では世界各国の本にまで興味を持ち、その国の言語で書かれた書物を読むことも珍しくはない。なので、寝る間を惜しんで本を読むことは彼にとっては最早日課となっていた。


 未だはっきりしない意識の中、半開きの目を擦り、朝食が用意された所定の席に着く。


「ほら望、寝癖が」


 キッチンから温かいコーヒーを運ぶ母親が、息子のだらしない身なりに呆れた顔で指摘する。そこまで長くない望の黒髪が、寝癖によりピョンと上に跳ね上がっていたのであった。


「いいよ、後で直すから……」


「もう。早く食べないと学校に遅刻しちゃうわよ」


 面倒くさそうに母親の話を聞き流し、彼は用意されていた食パンを口に運びながらテレビに映し出されているニュースに目を向ける。


──次のニュースです。本日未明ギフターが関与していると思われる銀行強盗事件が発生したもよう──


「本当最近ギフター絡みの事件がおおいわねぇー。あんたも気を付けなさいよ」


 ここ数ヵ月ギフターが関与する事件が増加の一途をたどっている。そんな状況に我が子を心配する母親の注意を生返事で返しつつ食事を終え、母校の制服に袖を通し、身なりも整えた望は学校へと向かう。


 彼の返事が生返事になったことには理由がある。小言の多い母親を面倒に思っていることも一つの要因ではあるが、それ以上に彼にはニュースで見るギフター事件よりももっと身近に問題が起こっているのであった。


「おい! 能無し!」


 登校途中、突如放たれた大きな声。本来の名前ではない名称ではあったが、その言葉が指すものが望自身のことだと彼は理解していた。彼は気だるそうに声がする方向に目を向ける。


 そこには望と同じ白楼高校の制服を着た三人の男子生徒が彼を見ていた。先程の声はその内の一人が発したようだ。


「おい! 能無し! 狂也(きょうや)様の前を歩くとは頭が高いぞ!」


「そうだぞ! 能無し!」


 真ん中に立つ狂也と呼ばれた男の両隣にいる生徒が望に向けて声を上げる。平均的な男子高校生の身長である望に対し、やや劣る双子の男子生徒はなおも望に怒りの矛先を向けている。


「能無しって、お前達もギフト持ってないだろ……」


「うるさい! 俺たちは狂也様に付き従っているからいいのだ!」


 聞いているこちらが可哀想と思ってしまうセリフを堂々と言い張る双子は、下っ端キャラとしての地位が完全に確立されているようだ。


 そんな二人をよそに望を鋭い目付きで睨み付けている男は、短い金色の髪を立て、望よりも頭一個分ほど背が高く、体格のいい男子生徒。名を高城(たかじょう) 狂也(きょうや)


 高城 狂也は望が登校している白楼高校において、先生らも恐れる問題児である。その体格の良さもあり、この地域で喧嘩負けなしを誇っており、ついた異名は『狂犬狂也』。


 しかし、そんな彼も最近負けなしの称号が剥奪されたと噂になっていた。あんな怪物を倒せる人間がいるんだと、皆が口々に話していたが、実際に狂也を負かした人間については特定されてはいない。


「おい、能無し。テメェー、燃やすぞ」


 怒号混じりの声と共に大きな掌を空に向け、ゆらゆら揺れる野球ボールのような少し歪な形をした火の玉を望に見せるように作り出す。


 狂也は火を自在に生み出すギフト狂った炎(マッドフレイム)を持つギフターなのだ。

 ただでさえ手のつけられない暴れ者に攻撃性の高いこのギフトが加わり、鬼に金棒と言った状態である。


 その後、人気(ひとけ)のない空地に連れられ、特別喧嘩が強いわけでもない望が三対一、更にそのうちの一人はギフターである相手に敵うわけもなく、殴る蹴るの暴行、更にはギフトを使った攻撃を受け、その場に一人倒れ込むのであった。


「いってー……くっそ、俺がなにしたってんだよ……。ギフトか……俺も欲しいな……くそ……」


 倒れ込んだまま空を見上げた彼は、自身の無力さ、その運命が悔しくて自身の思いとは関係なく、溢れだそうとする涙を受け入れられず、両腕を顔の前で組み顔が見えないように覆い隠した。


「また今回も派手にやられたわねぇー」


 倒れている彼の顔を覗き込むように膝に手を着く一人の少女。

にこやかで明るい表情をした彼女は少し明るめな茶色の前髪を右耳にかけるように持ち上げ更に続ける。


「本当、あんたも毎日毎日飽きないわねぇー」


「なんだ(さき)か。別に好きでやられてる訳じゃねぇよ」


 彼女は望の家の近くにある花屋の一人娘花崎(はなざき) (さき)。明るく元気な性格であり、誰とでもすぐに仲良くなれるため、昔から男女問わずに友達が多かった。そして、幼稚園からの幼馴染みである望とは他の友達よりも仲の良い関係であった。


 彼女と目線を合わせるように上半身だけ起こし、道路の端で二人で並んで座る。


「はい、はい。そんなことよりもほら、これでも付けときなさいよ」


 彼女は握り拳を作りグッと力を込める。すると、どこからともなく一枚の葉っぱが現れたのである。彼女のギフトは植物を自由に生み出し、操ることができる生命の樹(セフィロトツリー)と呼ばれるギフトを持つギフターである。


「なんだよこの葉っぱ?」


「傷に効く薬草よ、それを磨り潰して塗っとけば治るわよ」


「磨り潰すったって……」


「もうしょうがないわね」


 彼女は手のひらから出し薬草を手慣れたように細かく潰しながら彼の傷口へと塗り込む。


「いって、痛いって……」


「男の子でしょ。これぐらい我慢しなさい」


 先程できたばかりの傷口を触られるのがよほど痛いのか、体を逃げるように反る彼であったが、そんなことお構い無しに彼女は治療を進める。


「はい、これでおしまい。それにしても高城くんの火を浴びてよく学生服が燃えないわね」


「うん? これか? この学生服は昔、狂也にボロボロにされてた時に担任が防火性の学生服にしてくれたんだよ」


「いやいや、そこ学生服をなんとかするんじゃなくて、高城くんをなんとかするんじゃないの?」


「狂也をなんとかできる先生なんてうちにはいないさ。その時だって申し訳なさそうにしてたぜ」


 呆れたと言わんばかりにため息を漏らす彼女に、彼は「仕方ないさ」と半ば開き直るように口にした。


そして、治療を終えた二人は改めて学校を目指し、足を進める。





「夢宮、また遅刻かー。まぁいい、早く席に着け」


 困り果てたと言わんばかりの表情を浮かべる担任教師。無事に自分のクラスへとたどり着いた望であったが、朝の出来事があったせいで登校時間に遅れてしまっていたのである。邪魔にならないよう彼はそそくさと教室の一番後ろの窓際にある自分の席へと向かい着席する。


「よし、ホームルーム続けるぞ」


 このやり取りはクラスでは日常茶飯事となっており、多少のクスクスとした笑い声があったものの何事もなかったかのよう朝のホームルームが続けられた。


「紹介の途中になったが、彼女は今日からクラスメイトになる水鏡(みかがみ) 美羽(みゆ)さんだ。みんな仲良くするんだぞ」


 クラスメイトの注目を浴びる彼女は少し藍がかった髪が肩まで伸び、ウェーブがかかっている。肌の色は白っぽくどこか不思議な雰囲気を漂わせている。


「水鏡さんの席はあそこの一番後ろ席な。じゃあ、みんな今日もちゃんと勉強するんだぞ」


 彼女はクラスメイトに対し「よろしく」と無機質な挨拶をし、指定された望の隣の席に着いた。



 今日一日分の授業が終わる。転校生である彼女は物珍しさからクラスメイトの質問攻めにあっていたが、元々話すのがあまり好きじゃないのか彼女の回答の殆んどが単語での返答となっていた。


 そんな彼女の対応に初めは興味津々であったクラスメイト達も少し距離を置くようになってしまった。隣に座る望は転校生とクラスメイトのやり取りをただ見ていただけで、彼女と話すことなく自分の家へ向かうために教室を後にする。すると、廊下で今朝の三人組と顔を合わせてしまった。


「おい、能無し! ちょっと着いてこい!」


 今朝同様、取り巻きの人がが彼に声をかける。抵抗することができない彼は言われるがまま人気(ひとけ)のない体育館の裏へと連れていかれる。


「ここなら誰も来ないでしょ」


「やっちゃいましょう。やっちゃいましょう狂也様」


 双子の男子生徒は不適な笑みを浮かべる。そんな二人とは対象的に、この後の展開が読めている望は諦めた様子で三人と対峙する形をとる。


「これでもくらえ!」


 狂也は朝と同様に掌に歪な形をした火の玉を作り出し、どこぞの高校球児の如く大きく振りかぶり、標的目掛けて火の玉を投げ飛ばす。飛んでくる火の玉を恐れ、彼は両腕を顔の前に出し、防ぐ素振りを見せる。


 しかし、火の玉は彼に当たる前に後ろから飛んできた水の玉により消滅してしまったのだった。


「誰だ!」


 気分を害した狂也を始め、この場にいた全員が水の玉が飛んできた方向を見つめる。そこには右手をこちらに向けたままの水鏡 美羽が立っていた。


「誰だテメェは!」


「……虐めはよくない」


 怒りを露にする狂也の質問を完全に無視し、無表情のまま彼女は淡々とした口調で返した。


「このアマー!」


 怒鳴り声を上げた彼は、先程同様大きく振りかぶり、新たに現れた標的目掛けて火の玉を複数個投げ飛ばす。飛んでくる火の玉を彼女は手のひらから作り出した透き通る綺麗な氷を鋭利な刀のように伸ばし、一瞬にして全ての火の玉を真っ二つに切り裂く。


 その思いもしなかった光景に狂也を含めその場にいた者達はただただ茫然としていた。ただ、望だけは思いもしない救世主のまるで舞っているかのようなその姿に自身の現状すら忘れ、「綺麗だ……」目を奪われていた。


「なっなんだこの女は……」


 絶対的な強者だと思って崇めていた狂也の攻撃をいとも簡単に払い除けた彼女の存在に、困惑と不安混じりの声で狂也の取り巻きがボソッと呟く。


「ちっ、行くぞ……」


「はっはい、狂也様!」


 怒りを露にしていた狂也であったが、何分火と水のギフター、その相性の悪さは誰が見ても明らかであり、彼自身もその事を理解していたため立ち向かうことなくその場を後にした。


「水鏡さん、助けてくれてありがとう」


「……あなたはギフター?」


「えっ、いや、なんの能力もないただの一般人だよ……」


 我に返った望は慌てて助けてくれた救世主の元へ駆け寄り感謝を述べるが、彼女は感謝の言葉に対して質問で返す。ただ、能力を持たないと言うことに落胆している彼は皮肉混じりに答えた。


「そう、こんな力持たない方がいい……それじゃ」


「ちょっ、それってどういう……」


 無表情の救世主は、彼の声に耳を傾けることなく、元来た道を歩いていってしまったのだった。


 一人その場に残されてしまった望は理解が追い付かない出来事にポツリと言葉を漏らした。


「本当、なんだったんだ……」







「ただいまー」


「あら、望お帰りなさい」


 無事に帰宅することができたもののどっと疲労感を感じた望は母親の声に返答することなく、自分の部屋へ向かい、着替えることなくベットに寝転んだ。


(水鏡もギフターだったのか……。あの言葉どういう意味だったんだ……。それにしても、朝も放課後も俺はなにをしてるんだろう…しまいには女の子に助けられる始末。本当、俺にもギフトさえあればな……。あいつに負けないようなギフトが欲しいな……。俺だってギフトがあれば……。ギフト……ギフト、ギフト、ギフトが……)


「あぁーもう!! さっきからギフト、ギフトとうるさいわ!」


 寝転がって一人で悶々と考えていた彼は突如の聞き覚えのない声の主からの怒鳴り声に思わず体を起こす。


 目の前には腰まで届く神々しいまでに輝く綺麗な金髪にまるで真紅の薔薇の如く真っ赤な瞳、それに透き通るような白い肌。そして、豊満な胸を揺らす女性の背中には真っ白な翼が生えている。


「だっ、誰だあんた!」


 少し目を細め、イライラとした表情を作り出している二十代半ばぐらいの女性は仁王立ちのまま声高らかに答えた。


「誰じゃと? 小僧儂を知らんのか? 儂はギフトを与える女神ルーヴェ・クリスフォールドじゃ!」


「女神……?」

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