並々ならぬ同盟
「痛いねぇ、実に痛い。君のような度し難く痛い人間は馬に蹴られて地獄に落ちるべきだよ」
人生とはままならない。オケアノス海流よりも神秘的かつだだっ広い僕の人生設計は、おおよそ思いもよらぬ岸壁にぶち当たり、未曾有の泥沼へと舵を取り始めた。
「何を阿呆な。僕はただ純粋に、人の恋路を邪魔しようというのではない。あの鼻持ちならないアベック共に制裁を加える覚悟だよ」
雪の降る夜であった。クリスマスであった。慎ましからざる聖夜であった。
怪しからん。なにゆえこの様な日が存在するのか。僕はどこまでも深い泥沼の上からキリストの生誕祭呪った。
「それが痛いというのいうのだよ。メリケンサックまで持ち出してどこでアウトサイダーやろうというのかね君は。下手すれば警察沙汰だよ」
「ではその警察もろとも始末してやろう。この破廉恥で卑劣で助平なイベントを取り締まらずして何が警察というのか」
言語道断である。そんな悪からなる組織は僕が手ずから叩き潰して見せよう。
それほどまでに私は怒っていた。怒髪冠を衝くとはまさにこのことだ。堪忍袋の緒はとうに千切れ、怒りのあまり腹の中を暴れまわっている。
あわや口から鞭うつ音が罵詈雑言の嵐となって飛び出しそうだ。生まれてこの方聖人君子の如く清らかな心を持つ私が声を荒げて怒るなど稀である。
それほどであった。
「他の誰でもない。君の力が必要だ」
プライドはないのか。知らぬ。そんなつまらん矜持など北欧の三つ首の狗にでも喰わせてしまえ。どんな非道な手段も問わない、僕は永劫徹底抗戦の所存である。
「君の気持はわかった。だがね、いささか性急に過ぎるというものだよ。事を起こすにはそれにたる準備が求められるというものだ」
「では今準備しよう。さぁ武器を執れ。そして行こう。あのそびえ立つ卑猥な看板が見えるだろう。あれは魔王の御旗なんたるかと思え。中でねんごろよろしくイチャつく不埒者共に健全の意味を今一度説き伏せる必要がある」
「おいおい乗り込む気かい君は。そんなことをすれば阿呆を通り越してただの犯罪者ではないか」
「何を言うか。僕たちは阿呆なれど非リアの申し子なんなんたるか。たとえ日ノ本に恥じる行いだろうと、我々には大義名分がある」
「そんなものは無い。君がやろうとしているのは単なる非リアのとち狂った暴走だよ。ニコニコや2ちゃんで晒し者になるのが関の山さ」
僕はむうと唸った。
「君の何がそんなに掻き立てているのかは知らないが、ここはひとたび戦略的撤退をするべきだ。このままじゃ君は社会的二階級特進を果たすことになるだろう」
「それはいやだ」
なにゆえ私はよわい二十歳を迎える前に死なねばならぬ運命にあるのか。僕はすごろくの神のダイスの目を呪った。そしてアベックを恨んだ。
「やめよう」
「帰ろう」
致し方ない。こればかりは情けないがしようがない。
ポケモンGOの如くハトだの虫だのが湧くようにこの世界にアベックは絶えない。僕たち高校非リア同盟の二人は、クリスマスの夜からコソ泥の様に逃げ出した。相違ない。