彼女がストーカーで悩んでいる
まさか、この私が被害に遭うなんて。
ストーカーの存在に気づいた時、私が最初に感じたのは恐怖よりも驚きだった。際立った美人でもないし可愛げもない、生まれてこの方地味一筋22年。その私が、あろうことかストーカーに狙われている?
何かの間違いではないだろうか?
心当たりは全くなかった。きっと欲求不満が強すぎて、自意識過剰になってるだけに違いない。終電を降りた帰り道、私は何度も何度も後ろを振り返った。
この時間帯、夜の住宅街の一角は不気味なほど静まり返っていた。普段住んでいるはずの街なのに、何だか違う世界に迷い込んだような気がして、私はぶるっと肩を震わせた。
「……!?」
……間違いなんかじゃ、ないかもしれない。
後ろの道には誰もいなかった。それなのにさっきから、私を見つめる視線をずっと感じている。ストーカーなんて、私には関係のないことだとばかり思っていたのに。
自然と呼吸が荒くなる。気がつくと、私は急ぎ足で夜道を駆け出していた。
このまま、一直線に自宅に向かってはまずいのでは?
次第に実感が沸いてきた。驚きがだんだんと恐怖に変わっていく。私は角という角を滅茶苦茶に走り回っていた。しばらく距離を置いて、もう大丈夫だろうと振り返っても、見えない相手の視線は一向に消えることはなかった。ずっと後ろから、誰かが私を見つめ続けている。こうなるともう、恐怖は大混乱へと変わっていた。
「はぁ……っ、はぁ……っ!」
足がもつれそうになりながら、転がるように自宅へと駆け込む。チェーンをしっかりドアに取り付け、カーテンを引きちぎるような勢いで隙間なく締め切った。
視線。
一体誰の?
会社?
友達?
わからない。怖い。
怖い怖い怖い。頭の中を恐怖がぐるぐる回り続けた。寒くもないのに、体の震えが止まらない。私は全身を毛布ですっぽりと覆い、暗闇の中でぎゅっと膝を抱えた。
「何で……!?」
それでも消えてくれない、突き刺さるような視線。首筋に迫るその感覚に、私は恐怖で凍りついた。
「お願い、もうやめてよ…」
もっと可愛い子はいるんだし、何も私じゃなくたっていいじゃない…。姿の見えない相手に、私は声を震わせた。毛布の中にまで入り込んで、視線は私を逃すまいと覗き込んでくる。
…こんなことなら、気づかなきゃよかった。
まさかこんな短編小説の中の私を、画面の向こう側から誰かがじっと、今もこうして見てるだなんて…。