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42話・俺さま勇者にはお仕置きがきかなかったようです

「では、ベン。あなたはこちらにいらっしゃい。ああ、そうそう。勇者さまもその姿ではご不便でしょう。じきにお菓子をお持ちいたしますので、ぜひ召しあがって行って下さい」


 そういうと彼は指を鳴らし勇者を元の姿に戻した。


「おお、助かった。あんがと」


 元の姿にもどった勇者は、ぞんざいにグライフに礼をいうと、黒豹に向かって言い放った。


「さあ、さっさとご主人さまのもとへ行っちまえ。俺さまの聖女に近付くだなんて百年、いや、千年早いんだよ」


「レオナルド」


 彼にはお仕置きがきかなかったようで、志織はがっかりした。


(元の姿になんで戻しちゃったの? グライフ?)


 グライフに恨みがましい目線を向ければ、彼は苦笑した。


「聖女さまも大変ですなぁ」


 そういってロベルトをこの場から連れ去ってしまった。この場には黙ってこの場を静観していたイエセと、犬から人間に戻ったレオナルドと、過去を思い出したマーカサイトに志織の四人が取り残された。


 志織は他の者達にテーブル席に着くようにすすめた。食卓の上には、志織が手つかずになっていた料理が残されていた。それを見て勇者が目を輝かせる。


「美味そうだな」


「食べていいわよ」


 彼らの乱入で食欲をなくした志織である。今さら食べる気にはならない。勇者にわたしの食べ残しでいいならという間に彼はちゃっかり席に座っていた。


「なんで立ってるんだ? 座れ。聖女」


「はい。はい」


 レオナルドが自分の隣の席を指差しここに座れと促した。志織は抵抗するのも面倒に思われて彼の隣に腰かけた。それを見てマーカサイトはその向かいの席につき、イエセも魔王の隣の席に座った。


「食べさせろ」


「はああいいいい? 自分で食べなさいよ。赤ちゃんじゃあるまいし、そんなに母親恋しいならさっさとモレムナイトに帰れば?」


「母上は父上と旅行中だ」


「ああ。そうですか。ご両親の仲が宜しくて良かったですね。じゃあ、乳母? 女官にでもしてもらえば?」


 呆れる志織に、レオナルドは文句を言って来た。


「お前はなんでそう思いやりがないんだ? 皆、女たちは俺の世話に喜びを感じてるというのに」


「へぇ、どこの女? いいわね、甲斐甲斐しく世話を焼いてもらえて。だったらその女たちに面倒見てもらえば?」


 志織はあなたの面倒なんてみたくない。と、突っぱねた。その態度にレオナルドは不貞腐れた。


「俺とあの黒豹との態度に温度差がないか?」


 志織は面倒くさくなって、勇者の発言は無視をする。


(こいつには何を言ってもわかってもらえない)


 レオナルドには嫌悪感が湧く一方だ。志織は目の保養とばかりに魔王に注目した。


「ねぇ、マーカサイト。タルト・タタンはひょっとして彼女が作ってくれた事があるんじゃないの?」


 志織は以前、マーカサイトと会談をした時に出て来たお菓子のことを思い出していた。確かあの時、この美麗な魔王は懐かしそうな顔をしていたのだ。

それで思わず志織は誰かに作ってもらったことがあるのではないかと彼に訊ねていた。魔王は前世のことが思い出せなくて当惑していた様子だったが。


「ああ。タルト・タタンはデルウィークに伝わる伝統菓子なのだ。フローリは不器用ながら焼き立てのタルトを作ってくれて、よく我に食させたものだ。その時は寝付いた祖父の為に焼いたもので、味見させられただけだったがな」


「そう」


「結構、凝るタイプで何度も試行錯誤しては、我のもとへ持ってきて散々食べさせられた」


 過去を懐かしむ様に遠い目をしてマーカサイトは言った。志織はマーカサイトの目が、幸せそうに語るのに耳を傾けた。


「飽きなかったの?」


「王女育ちのあれが唯一、自分で作れるのがあの菓子だった。不慣れな作業で作り上げたものを笑顔で差し出して来るのを拒む気になれなかったのだ」


「フローリさんはあなたに愛されていたのね。わたしも会ってみたかったわ」


 珍しくレオナルドが静かに話を聞いてると思ったら、志織の残した料理を食べていたせいだった。


(駄目だ。こりゃ)


 あきれ果てる志織の前で、イエセも苦笑いを浮かべていた。


「ねぇ、イエセ。あなた不眠不休でこの馬鹿‥じゃなかったレオナルドに従って来たのでしょう? お腹空いてないの?」


「わたくし達は携帯補助食を持参して来ましたからお構いなく。しかし、良く食べますねぇ。あなたさまは。森の中で散々狩りをして食べたでしょうに」


「小腹空いたんだ。文句あるか?」


「いいえ」


 こうも断言されると、突っ込んでる方がバカバカしくなって来る。レオナルドは放っておきましょう。と、志織はイエセと目配せし合った。



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