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4話・きみの為に

「ひょっとしてあなたの弟って魔王のマーカサイト?」


「うん。本人は何度も勇者に倒されてるから記憶が薄れて来てるみたいだ。ぼくのことは覚えていない」


「魔王ってまるで何度も生きかえってるみたい?」


「そうだよ。ぼくが父神さまに頼んでマーカサイトの消滅を見送らせてもらう代わりに、彼が何度も死んで生まれ変わることを約束させられたんだ」


「じゃあ何十年? いや、何百年かおきに転生させられてるの? 魔王は?」


「そうなるね。父神さま曰くそれが弟の罰なんだ」


「それでユミルは勇者ルートと魔王ルートを用意して聖女に選ばせることにしたのね? 出来るだけ弟への負担を減らす目的で始めたの?」


「いや。それも父神さまが決めたことだよ。ぼくには口出しさせないようにしていた」


 淡々と事情を説明するユミルが不憫に思われた。話を聞く限りでは弟想いの兄なのに。勇者に何度も倒される運命を宛がわれてしまった魔王はどんだけ父神さまに嫌われているのだろう。


「毎回弟は命を散らされてしまう。それをぼくはただ傍観してるだけなんだ。助けてやることもできない」


「ユミル‥」


「お姉さんもこんな話されても困るよね? ごめんね」


 変な話をして。と、ユミルは苦笑に留めた。聞き出したのは志織の方だ。彼女はどうにかユミルの助けになるように出来ないかと、神さま相手には到底足りそうにない脳みそで思案する。そしてあることが頭にひっかかった。


「でもわたしが聖女でいいの? わたし三十二歳のオバサンよ。どうせならもっと若いお姉さんにすれば良かったのに?」


 志織は今年三十二歳。どうみても若々しいとはいえない。そんな女が聖女でいいのだろうか? 聖女と言えば穢れを知らない清らかなイメージがあるが、志織は残念ながらそんな女性とは程遠い女性だ。休日は干物女でジャージ姿で一日中布団の上でごろごろしてるのだ。そんな女が聖女で良い訳が無い。


「ぼくはお姉さんが良いんだよ。どうして他のひとにこだわるの? 見た目ってそんなに大事なこと?」


「そりゃあ、気にするわよ。誰だって聖女さまがこんなオバサンだなんてご免こうむるでしょうよ」


「お姉さんはオバサンには見えないのにな」


「お世辞でも嬉しいです。ありがとう」


 一応、志織は礼を言っておいた。神さまのユミルから見れば皆若い部類に入るだろう。神さまと人間との時間の流れは違うのだから。


「ぼくの言うこと全然信じてないね? じゃあ、分かった。これ見て」


 ユミルはどこからか取り出した手鏡を志織の前に差し出した。


「この世界の皆の目には、お姉さんはこんな風に見えてるんだよ」


「ひゃっ…!」


 鏡のなかを覗きこめばそこにはぴっちぴちのお肌の素肌の綺麗な娘さんがいた。高校三年生くらいの。なんだか見覚えのあるような顔。


「これってわたし?」


 びっくりするほど若返っていて志織は驚いた。皺がないのはもちろんのこと、シミひとつない。


「これ、ほんとうに本当にわたし?」


「そうだよ。お姉さんにはこっちの勝手でこちら側の世界に巻き込んでしまったからね、お詫びにお姉さんのなかの時間を少し巻き戻させてもらったんだ。お姉さんが特に望んでる様に感じられたから‥」


「うそ? 知ってたの?」


「ううん。お姉さんに触れた時にちょっとだけ見えただけ‥」


 ユミルは言葉じりを濁したが、大体のことを悟っている様子だ。志織は最近あった出来事を思い出して苦笑した。


「ユミルには隠し事出来ないわね。だって神様なんだもの。何でも見えてしまうのでしょう?」


「お姉さん‥」


「いいの。もう済んだ事よ。七年も付き合っていてそろそろ身を固めようか。って時に、わたしに懐いていた後輩を彼に紹介したのが仇となったの。彼が彼女を気にいってしまってわたしに隠れてこそこそ会ってたらしくて。彼の部屋で彼女と鉢合わせして真相が分かったのよ」


 その時のことを思い出してるだけで、志織は目蓋が熱くなってきた。


「その時に強く思ったの。時を戻したいって。彼と付き合ってた七年間が損したように思われて。七年間を取り戻したかったの」


 わたしは厚かましい女なのよ。呆れたでしょう。と、志織が自嘲気味に言えば、ユミルはそんなことないよ。と、小さな身体で志織を強く抱きしめてくれた。なんだかそれが成人男性に慰められてるような構図に思えて来た。


「ねぇ志織。ぼくの恩恵サービスはどう? 気にいらなかった?」


「ううん。そんなことない。彼に出会う前の‥あの楽しかった頃の年齢に戻れるなんて思いもしなかったわ。十四年も時を巻き戻すなんて、ユミルったら太っ腹ね」


「志織の為ならなんでもするよ?」


 耳の傍でくすぐるような美声が響いた。と、思ったら見慣れた紫色の瞳が志織の上にあって、麗しい容姿の男性がそこにいた。



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