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38話・運命の出会い

これはマーカサイトの思い出話です。

 マーカサイトは生きてることに飽き飽きしていた。毎度のことながら自分が産まれて二百年くらい月日が経つと、勇者が魔王討伐を掲げここにやってくることは予想がついていたからだ。


 これは自分が毎度、転生する度に起きて来た出来事である。逃れられない運命と言っても良かった。どうしてなのか何度も何度も勇者に倒されて命は奪われるのに、再び魔王としてこの世界に生まれて来る。


 勇者はその度に相手が変わって、大体前世で自分の命を奪った勇者の子孫が現れる。そして自分は倒され、魔族は滅ぼされてしまうのが当然だった。まるで死ぬのを待つような生き方。そんな人生に疑問を持った。

 

 魔族たちは別に人間に対してどうしようという意識もなければ、何かする気もなかった。魔王国でそれなりに与えられた処遇になんの不満もなく静かに暮らしてるだけだ。

 それなのになぜか魔族は悪と決め付けた人間たちが、魔王国に勝手に入り込んで襲来してくる。人間というのは愚かなものだ。

 

 ただ自分と見目が違うというだけで驚き、脅え、恐怖し、あんなものを生かしていたら人間が襲われるに違いないと神に救いを求め、魔王始め、魔族は生きてる価値がない。と、正義ぶって魔王征伐隊を送り込んで来る。

 その度に何の罪もない魔族たちが命を奪われてゆくのが、同族の長として魔王は許せなかった。


 そんなある日のこと。気紛れに彼は人間の国に遊びに出かけた。彼はちょくちょく人間というものを観察する為に、人間の国に出入りしていた。

 その日は夜遅く出掛けるともあって、夜陰に紛れこみやすい黒豹の姿となっていた。それがとんでもない出会いを引き落としたのだ。


 人間の国と魔王国との国境沿いに横たわる森林のなか、銃声が聞こえた気がしてマーカサイトは獣の姿で駆けた。よく人間達は夜間に魔物に出くわすと、発砲して脅かしたり、襲いかかったりする。

 

 仲間の誰かがもしや、人間に狩られてるのでは。と、マーカサイドは気が気でなかった。そんな彼が駆けに駆けて目撃したものは、いたいけな少女に銃を向ける狩人の姿だった。


「そこでなにをしてる?」


「ひぃ。獣が…しゃべった? さては獣人か?」


 思わず問いかければ、狩人は驚いて銃口をマーカサイトへ向けた。狩人にしては垢ぬけた容姿の持ち主で、どことなく育ちの良さが感じられる青年だ。その青年の持つ銃口は震えていた。相手が持ち物を使い慣れてないように思え、彼はゆっくりと狩人に歩み寄った。


「なにをしてると聞いている。口が聞けぬのか?」


「ひいっ。こっちへ来るなぁ」


 狩人はめちゃくちゃに狩猟用の銃を振り回す。


「来るな。私なんか食べても美味しくないぞ」


「話にならぬな」


「そうだ。この娘をやる。だから命ばかりは助けてくれ。頼む。この通りだ」


 マーカサイトがぼやくと、全身震わせた狩人は自分がたった今、殺そうとしていた少女を差し出して来た。少女は脅えの色を瞳に現わしながらも、狩人の言われるがままになっていた。マーカサイドは少女が気の毒になって狩人をさっさと解放した。


「命ばかりは助けてやる。さっさと行け。我の気の変わらないうちにな」


 ひいいい。言葉にならない声をあげ狩人はすたこらさっさと逃げてゆく。その後ろ姿を見送ってからマーカサイドは少女を見た。


 少女は年の頃は十六歳だろうか? 人間の国には珍しく黒目、黒髪の少女だった。肌は抜ける様に白く、薔薇色の頬にぽってりとした赤い果実を思わせる様な唇の持ち主で、人の美醜にこだわらないマーカサイドさえ、息を飲む様な美しさがあった。


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