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33話・黒豹がしゃべった!?

「あん。くすぐったい」


「リー」


 徐々にロベルトの息が荒くなるのと同時に、志織へのキスが軽く触れ合うものから、深く貪る様なものへと変化して来る。

 なんだかそれが野獣に貪られてるようでもあり、じゃれつかれてる様にも思われて志織はくすくす笑った。


「なに? 何がおかしいんだい?」


「だってくすぐったくて‥ロベルトったら犬みたい。大型犬にじゃれつかれてるみたいだわ。ふふふ…」


 そう言いながら志織は彼が実際に犬になったならどんなに可愛いだろうな。などと考えて、左手で彼の右肩に触れた時だった。志織の前で彼が変化を見せた。

ぱああああああああっ。と、辺りが光に満ちて、志織の上に覆い被さっていたロベルトが姿を消した。


「ロベルト? ロベルト?」


 ベットの上に起き上がって、姿を消したロベルトを捜す志織の視界に入って来たのは、黒い大きな犬のような猫。

 昨晩、志織に襲いかかって来た豹の仲間だ。と、思ったら喉が震えた。志織は絶叫した。


「きゃああああああああああああああ!」


「落ち着いて。リー」


「えっ。黒豹がしゃべった? えっ? りーってなんでわたしの?」


 戸惑う志織に黒豹が近付いて来る。ベットの上で腰が引けている志織に黒豹が話しかけて来た。


「ぼくだよ。リー。ぼくだ。ロベルトだ」


「ええっ」


 今度は別の意味で志織は驚いた。


「どうしてロベルトが黒豹に? あなたまさか獣人だったの?」


「嫌‥その…何が何だかぼくにも分からないんだが?」


(ああっ。忘れてた!)


 志織はひとつ思い出した事があった。魔王マーカサイトが攫われたと聞いた晩、少年神ユミルに会い、彼に一つ力を授けてもらったのだ。


 それは志織が願った相手が動物の姿に変わるというものでもし、今後何かあった時の場合の為に保険としてもらっていた力だった。ユミルはもっと別の力を欲しがったらどうだ。と、言っていたのだ。

 それがこのように発動してしまうとは思いもしなかった。志織はおろおろと黒豹の身体を撫でまわしながら毛並みが良いな。などと考えていた。


「ごめんなさいね、ロベルト。きっとこれはわたしのせい。ああ、どうしよう‥どうしたら元の姿に戻るのかしら?」


「大丈夫だよ。リー。この姿もなかなか良いものだろう? きみの傍にいるにはこの姿の方が‥」


 ロベルトの話を最後まで聞かないうちに、部屋に飛び込んで来た者がいた。志織はガウンを急ぎ羽織った。


「どうなさいました? 聖女さまっ」


「聖女さま。如何なさいました?」


「聖女っ」


(うわあ。どうしよう。この人達、わたしの悲鳴を聞いて駆け付けたんだ)


 グライフとベーアリ、マーカサイトが駆け付けていた。志織はベットの上で身をすくませるしかない。マーカサイトが用心深く部屋のなかを見回していた。


「どうしたのだ?」


「あ。その、ごめんなさい。わたしの勘違いだったというか…」


 志織が誤魔化そうとすると、マーカサイトは目ざとく寝台の上の黒豹を見つけた。訝しげな目をグライフに向けた。


「こやつは何だ? グライフ?」


「この子はね、あの‥迷い込んで来たみたい。だから初め、ちょっとびっくりしたけど、お願い、グライフ。追い出さないで。わたしこの子気にいったわ」


 志織は慌てて黒豹を抱きしめ言った。ロベルトを追い出されては困る。彼は自分が黒豹の姿に変えてしまったのだから。自分の側から引き離されても困るのだ。


(お願い。グライフ)


 志織の願いが聞こえたのだろうか? グライフは志織と黒豹を見て、にやりと口角をあげて言った。


「そうですか? そんなに聖女さまはベンのことを気にいって下さりましたか? それはようございました。ではベンは聖女さまにお預けすると致しましょう。さあ、ベーアリ、マーカサイトさま。お部屋に戻ると致しましょうか」


「待て、グライフ。我の質問に答えてないぞ。どういうことだ? あの黒豹は…」


「さっ、お邪魔虫は退散致しましょうね」


 マーカサイトの背を押して、グライフは嬉々として部屋を退出して行った。志織に話を合わせてくれたことといい、妙に足取り軽く退出して行ったように思えたがどうしたというのだろう?


 不可解に思う志織を、黒豹になったロベルトが促して来る。


「もう遅い時間だし寝た方がいい。リー、寝よう」


「そうね」


 グライフの行動には不審なものを覚えたものの、逆にロベルトのことを追及されなかったのでまあ、いいか。と、志織は割り切ることにした。

 もう考えるのが面倒くさく思われて来たのもある。寝台に横たわれば、その隣に毛並みの良い黒豹が身を寄せて来た。頭を撫でれば頬をぺろりと舐められた。


「お休み。リー」


「お休みなさい。ロベルト」


 志織はさわり心地のよい毛に頬を押し当てて気持ち良さを堪能していたら、いつしか目蓋を下ろしていた。



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