25話・あなたがいてくれたから笑顔になれた
「あなたの前だから言うけど‥わたし、この世界に来て出会う人に恵まれて良かった。と、思ってはいても、まだまだ知らない事がいっぱいで不安も多いの」
「きみは馴染んでいた世界から、無理やりこちら側の世界に招かれたようなものだからね、当然だと思うよ」
ロベルトの気遣いを有り難く思いながらも、志織は言葉を続けた。彼は黙って聞いていてくれた。
「初めはね、嫌だったの。見知らぬ世界に来たと思ったらなんだか知らないけど、突然勇者や魔王が現れて聖女は自分のものだ。と、主張し始めるし、イエセには召喚された聖女は『魔王ルート』か、『勇者ルート』かどちらか決める事になってるんだなんて言われて‥
はい。そうですか。って、言える? 彼らの事何も知らないのに? わたしの選択次第でこの世界の未来が変わってしまうのよ。そう簡単に決められないもの」
「リー…」
彼に痛ましいものでも見る様な目を向けられて、志織は言い方を変えた。
「でも、ここに来て出会った人達と話をいっぱいして親しくなって、わたし嬉しいの。あなたに出会ったことも大きかった。あなたには美味しい料理や優しい気遣いをもらって励まされて来た。だから今まで頑張って来られたと思うわ」
「‥少しでもきみの助けとなれたなら嬉しいよ」
「もちろんよ。あなたがいてくれたから笑顔になれた。と、思ってる」
「そんな事言われたら…」
ロベルトが何か言いかけた時、繁みの向こうから声かけて来る者がいた。
「おっ。ロベルト。いたいた。ここだったか?」
「ビレル。収穫はどうだった?」
「安心しろ。大漁だ」
護衛兵の一人、中堅クラスの体躯の良いビレルが顔を覗かせ、この場にロベルト以外の者がいると知って彼は恐縮した。
「これは‥聖女さまもご一緒でしたか?」
「そう改まらないで。わたしたちは同じ魔王救出隊のメンバーなんですから」
「いやあ、そうは言われましても‥聖女さまは我々とは住む世界の事なる御方ですから。失礼致します」
そそくさと彼は踵を返して行ってしまった。志織が聖女だと知ると大抵の者はそういう反応を示す。自分たちとは違う人種だと線引きされてるようで志織には淋しい。落胆する志織の肩をロベルトがぽんぽん。と、叩いて来た。
「きみはこの世界では、生き神さまみたいなものだからね。恐れ多くてお近づきにはなりにくいと思われてしまってるのかも知れないね」
「わたしとしては、あなたのように皆と普通に打ち解けたいのだけど?」
住む世界が事なると言われてしまったのだけど、同じ世界に生きてるのにその言われようはないじゃない。と、志織が不満を漏らすと、ロベルトは苦笑した。
「勇者さまや神官長さまが、きみに近寄る者を強くけん制しているのも要因の一つだな。勇者さまは特にきみに近付いたりしたら国外追放だと、皆を脅しつけていたしね」
「えっ。なにそれ? ひどくない? あら、それならロベルトは大丈夫なの? けっこうわたしとふたりでいる時が多いし」
「大丈夫だよ。ぼくはもともとモレムナイトの国の者じゃないしね。例え国外追放されても生活には困らないし。元の流れ旅生活に戻るだけだから」
勇者さまの発言は気にしてない。と、彼は言う。
「だけどね、神官長さまがなかなか辞めさせてくれないのさ。だから勇者さまは苛立ってるのかも知れないよ?」
「ええ。やだぁ。わたしもロベルトには辞めて欲しくない。あなたの美味しい料理を食べる機会が失われるのは嫌だもの」
「ぼくの料理がそんなに好き?」
「好きよ。大好き」
「そう。ありがとう。きみは美味しそうに食べてくれるから作りがいがあるよ」
「だってロベルトの料理は本当に美味しいから」
志織は心に感じたままに伝えた。ロベルトは嬉しそうな顔をしながらも言った。
「それは嬉しいけど‥でもリー。聖女としてのきみはぼくをあまり信用しすぎない方が良いかもしれない」
「わたしはこれでも他人を見る目はあるつもりよ。この世界に来て一番最初にわたしと友達になってくれたあなたは信用に値する人だと思ってるわ」
「迷いが無いんだね?」
「あなたは良い人よ。今もこうしてわたしを諌めようとしてるじゃない? 悪い人ならわざわざこんな忠告するような言い方しないわ」
「きみには参ったな‥」
ロベルトはくすりと笑った。その後、ふたりはテントを張っている場所へ戻り、食事の支度に取りかかった。




