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19話・さらわれた魔王

「聖女おおおおおおおおおおお!」


「な。なによ。あんた。普通に登場出来ないの?」


 前回も雄たけびをあげて登場した勇者である。今回の訪問も普通に登場出来ないのかね? と、言いたくなる志織である。勇者を敬う気持ちはサラサラないので、今日もあんた。呼びである。


「でもあれ、あんたとの約束は明日のはずだけど?」


 勇者に会う日は明日のはず。それがいきなり中庭に突入して来て、どうも両脇を神殿の護衛兵に止められている図ということは、拒まれたのに強行突破して来たように見えた。


(まったく大人げないんだから)


 ため息をつきたくなる志織に、護衛兵の制止を振り切り勇者が近付いてきた。


「そんなことよりも大変なんだっ」


「はい。はい。なあに?」


「暢気にしてる場合か? この平和ボケ聖女がっ」


 頭ごなしに怒鳴られて、志織はカチンッと来た。


「はあっ? 悪かったわね。あんたこそ何さまのつもりよ。勝手に侵入して来て。用がないならさっさとお帰りなさいっ」


「お前に用があるから来たんだ!」


「わたしには用が無い」


 護衛兵にさっさとこの煩い男を連れて行って。と、言いかけた志織にレオナルドが言い放った。


「いいから、俺の話を聞けっ。国境を魔物が責めて来た」


「ええええええええ?」


(なんですと。そんな馬鹿な?)


 マーカサイトは人間を魔族に襲わせないと約束してくれたのに? 魔物は別なのか?


(そんな‥口約束だったの?)


 自分の判断に痺れを切らして、襲って来たというのか? 愕然とする志織のところにイエセまでやってきた。


「聖女さまっ。大変です!」


「イエセ」


「魔王さまが攫われましたっ。魔王国から知らせが届きました」


「マーカサイトが? 誰に?」


「魔王さまを攫ったのは元側近だそうです。その者から魔王国へ、魔王を無事に返してほしければ聖女さまを差し出せと言ってきたそうです」


「放っておけ。どうせ、魔族同士の争いだ。放っておけば勝手に共倒れする」

 護衛兵から拘束を逃れた勇者が言って来る。志織は即断した。


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