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15話・みょうちくりんってジャージの事ですか?

 イエセに着席を促されローテーブルを挟んで、魔王と向かいあうように志織がソファーに腰をおろせば、ふたりがけソファーであることを良い事にイエセが志織の腰に腕を回して隣に腰掛けて来る。


「イエセ」


「なんでしょう? 聖女さま?」


「少しその‥」


 距離が近いのでは? と、警戒する志織の様子を見てか、マーカサイトが眉根を寄せた。


「イエセ。聖女に近付き過ぎだ」


「私は聖女さまにお傍にいることを許された身なのでご容赦を」


 と、イエセは微動だにしない。志織は昨晩彼からの求婚を思い出しあれはわたし断りましたよね? と、心のなかで悲鳴を上げた。


 面白くなさそうに志織達を一瞥した後で、マーカサイトが口を開いた。志織にひっつき虫のイエセは無視することに決めたらしい。


「今日は聖女、素敵な装いだな。その。色白なそなたにとても良く似合っている。いつもそのような格好をしていたらどうだ? 可愛くてとてもいい」


「ありがとうございます。マーカサイト」


 目の前の美麗な男性から装いを褒められて志織は頬を染めた。いつも着ている衣服は、お世話係のセレナに用意してもらったものだが、いつもはまっ白な神官服なのに今日用意されたものは、淡いブルーの服で志織も一目見て気にいったも

のだ。それが良く似合っていると言われて悪い気はしなかった。


 だけどその気持ちもここまでだった。その後に続いたマーカサイトの言葉が志織の胸を抉った。


「だがあの初めて会った時に来ていたみょうちくりんな服は止めた方がいい。あれでは男女みたいだからな」


 みょうちくりんとはジャージのことを指しているのだろうか? 確かに初対面で志織はジャージを着ていた。しかし、それが男女に見えるとは。

 

 マーカサイドには悪気が無い発言なのは良く分かっている。ここで親しくなった女性神官セレナには、志織の着ていたジャージはここでは大変珍しい物だ。と、聞いていた。


 初めて彼女に会った時に着替えの際、着ていたジャージは取り上げられた。と、思っていたが、翌日綺麗に洗われて志織のもとに返って来た。セレナが洗ってくれたのだ。そのことがきっかけで彼女と打ち解ける事が出来て親しくさせてもらっている。


「やはりそなたのような女子は、そのような身なりの方がよく似合う。わざわざ男の真似をしてあのようなズボンなどははかずとも良い」


(そこ? そこなの?)


 マーカサイトの指摘に志織は啞然とした。ジャージの良くないところはズボンという点だったのか? そのものがダサイとかじゃなくて? 


「そうですね。ここの女性達はあのようなズボンは滅多にはきませんからね。私も初めて見た時は内心驚きましたよ」


 マーカサイトの発言を擁護する様にイエセも言う。ズボンはここの世界の男性には受けないようである。

 志織はここの世界の女性たちはズボンをはかないものだ。と改めて認識した。


(ジャージってとっても良いものなのに。ここの女性はズボンをはかないなんて)


 実に勿体ない。と、思う志織の頭のなかで、何かが閃きそうになっていたが、側で上がった感嘆の声にかき消された。


「これは‥懐かしいような味がする。タルト・タタンではないのか?」


「ご存じなのですか?」


 マーカサイトは、女性神官がお盆に乗せて運んで来た焼き菓子を注視していた。それを訝るようにイエセが問う。


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