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主人と奴隷の日々の章・3 マリアンヌの悩み

 家に戻り、俺は奴隷のみんなに、ファムの故郷の村での出来事を話した。

 ファムが両親と再会できたこと、それでも俺と一緒に暮らすことを選んだことを聞かされると、クレアはぽろぽろと大粒の涙をこぼし、ファムをぎゅっと抱きしめた。ベルゼビュートは泣きはしないが心痛を顔に出し、マリアンヌはずっと向こうを向いて肩を震わせている。


「クレア、くるしい……でも、ありがと……わたし、リョウと一緒に行ってきて、よかった……」

「ふぅぅっ……ぐすっ……良かった……良かったですね、ファムさん……っ」

「……リムフィールの気持ちは分からないでもないが、やはりファタルの居るべき場所はここなのだ。別れの挨拶ができただけ、良かったと言うべきだろうな」


 ベルゼビュートは『白エルフ』であり、年齢も近いクレアには少し厳しめだが、決して辛辣というわけではない。ファムは年下だからか、接するときの態度は比較的柔らかく、まるで姉のように見えることもあった。


「……あまり心配させないで。私たちも連れていってなんて野暮なことは言わないけれど……そんなことがあったと聞くと、やっぱり行きたかったと思ってしまうわ」

「ああ、ごめんな三人とも」

「……でも、時には二人きりのほうがいいって、お姫さまが言ってた」

「っ……ま、まあ、それはそうだけど……リョウ様が望んでくれるときに二人になれれば、私はそれで……」


 マリアンヌの様子を見て、すぐに気がつく。望んでくれるときといいつつ、すぐに二人きりになりたいというような、そんな気配を感じる――転生前と比べて、随分と勘が良くなったものだ。


「マリアンヌ、何か二人で話したいことでもあるのか?」

「そ、そうなんですか? 今日は、四人でゆっくりお休みできるのかと……」

「よ、夜に響くとまでは言っていませんわ。少し、真剣なお話しがあって……」

「……出来るならば、夜はご主人様を寝室に戻して欲しい。奉仕をさせていただくかは別として、常に呼ばれるかどうか待機していなければ落ち着かないのでな」


 真顔で言うベルゼビュートだが、彼女が内心で恥じらっていることもわかる。ベルゼビュートは思ったことをそのまま言わなければ気が済まないようで、特に俺に対する忠義を言葉にするときは、言い淀むことはない。


「私も待機していたいです……い、一緒に寝られないと、眠りが浅くなってしまうので……ご主人様のぬくもりがないと、身体が冷えてしまうんです」

「……リョウ、すごくあったかい。私もリョウがいないとだめ」

「みんな、そんな心配することないぞ? 話をするって言っても、同じ家の中だからな」

「き、聞いてくれるのね……やっぱりあなたは器が大きいわ。私なんて、あなたの中に簡単にはまってしまいそう……」

「それで、抜け出せなくなってしまうんですねっ……あ、お姫さまのおしりが大きいからとか、そういうことではなくてですねっ」

「……ふふっ。確かにマリアンヌは下半身を鍛えているからか、やたらと大きな尻をしているな」

「お、おしりおしりって言わないでっ! 騎士には脚力も必要なのよ!」


 時にはこうして言い争いもあるが、ケンカと言うよりはじゃれあっている感じなので、安心して見ていられる。


「……そうやって優しく笑っていたら、なんでも丸く収まると思って。そのとおりでも、あまり面白くないわね……んっ……」

「ああっ……ご主人様に文句を言ってから、ほっぺにキスするなんて……すごいです、マリアンヌさん!」

「……キスならいつでもしていいと思う。こうやって……んっ……」

「おおっ……ファム、嬉しいんだけど、くすぐったいぞ」


 ファムは俺の肩に手を回し、背伸びをしてキスしてくれる。そうした後の笑顔が何とも言えず愛らしく、獣神像のある泉の前で飽きることなくじゃれ合ったのに、また抱きしめたくなる。


 しかしそうすると、クレアとベルゼビュートの二人もおとなしくしてはいなかった。


「マリアンヌさんと一緒にお話されるまえに……少しだけ……んっ……」

「白エルフと共にくちづけをするというのも……いや、もはや関係はないな。私はダークエルフである以前に、ご主人様の奴隷なのだから……っ……」


 クレアは俺の右腕に胸が当たることも気にせず、ファムと同じように俺の首に手を回してキスしてくれる。ちゅっと吸い付いた後に、それでは足りずに、また唇を触れさせてきた。一番俺と過ごした時間が長いのに、まだ彼女には遠慮があって、触れるか触れないかのキスが何ともこそばゆい。


 ベルゼビュートは唇を触れさせたまま、じっと動かない。しかし肩に置かれた手が熱を帯びていて、もっと触れたいという気持ちが伝わってくる。


「……ご主人様にキスしていると、頭がふわふわしてきます……やっぱり私、好きなんですね……」

「……リムフィールのせりふは、私が聞いていて恥ずかしくなるな……あまり男性に対して、恋しいと言うものではないと思うのだが」

「そんなこともないんじゃないかしら。リョウ様、さっきからすごく嬉しそうにしてるわよ」

「鼻の下がのびてる……舐めていい?」

「そ、それはちょっと……俺から舐めるのなら、いくらでもいいけどな」


 奴隷たちを甘やかすどころか、甘々にとろかされて、俺はつい素直に欲望を口に出してしまう。すると四人は顔を見合わせて相談を始めた。


「変な意味……ですか? 皆さんは、どういう意味だと思います?」

「……リョウに舐めてほしいところ……耳……」

「み、耳は困る……かなり敏感な部分だからな。リムフィールくらいだぞ、舐められても平気なのは」

「私は……い、いえ。こればかりは、まだリョウ様との間に秘密にさせておいて」


 四人ともかなり進んだ想像を働かせてしまっていた。今夜寝るとき、どこを舐めてほしいと言われてしまうのだろうか。主人としては、献身的に奉仕をせよと命じるところなのかもしれないが。



 ◆◇◆



 俺は書斎に行って、マリアンヌと二人で話すことになった。姫君である彼女が直々に飲み物を用意して持ってきてくれる――果実酒だ。


「酒を飲みつつっていうのは大丈夫なのか? マリアンヌ、まだそんな歳じゃないだろ」

「これくらいの酒精が弱いお酒なら、十歳くらいから飲まれているわ。これよりきついものは、さすがに大人しか手にできないけれど」

「そうなのか……あ、確かにうまいな。これくらいの酒の方が俺は好きだな」


 たまには酔って気分を良くしたくなることもあるが、みんなと一緒に暮らしていれば、俺は酒に逃げるということもなく、いつも幸福な気分でいられる。


「それでマリアンヌ、俺に何か相談があるんだよな。また、王様に無茶でも言われたか?」

「……やはり、あなたには敵わないわね。客将の件は保留になったけれど、お父様はあなたの武力に何よりも信頼を置いているの」

「無理もないな。騎士団と魔術団でも勝てない魔物を、何体も倒してきたし」


 俺の杯が空になると、マリアンヌは何も言わずにお代りを注いでくれる。もはや昔の高飛車な態度はどこにもなく、彼女は従順な奴隷――いや、俺の妻の一人となっていた。


「私たちの国は、隣国との間で交易を行っていたのだけど……隣国の経済状態が急に悪化して、私たちの国から出した荷馬車を、全て奪ってしまったの。私たちも大きな被害を受けたけれど、その上で彼らは、私たちに向けて宣戦布告をしてきた……」

「無茶苦茶するもんだな……どうせ同盟を破棄するんだから、奪えるものは奪うってことか。やってることは山賊と変わらないじゃないか」

「ええ……けれど私たちは、隣国に一部の物資を依存していたから、その供給が途絶えると、一部の産業が続けられなくなってしまうの。お父様は、できるなら国交を回復したいというのだけど……それは、攻めてくる隣国を押し返すことができてからの話なのに。お父様にはそれすら分かっていないのよ」


 あちらを立てれば、こちらが立たない。そんな状況にあっても、王は王らしく振る舞わなければならない。

 そこで、俺を頼ることになった――というのも分かる。俺は国王からの依頼を難なく遂行してきたし、だからこそ客将でありながら、大将軍に等しい地位を与えられるとまで言われた。


(……これを最後の貸しにしておくか。交換条件は、ひとつだ)


「マリアンヌ。俺は誰かに命令されたりするのは好かないが、マリアンヌの父さんでもある国王陛下には恩がある。マリアンヌを正式に妻としてもらうことはもう決まってるが、今回の件でそれを盤石にしよう」

「っ……受けてくれるの? 私を、妻にするために……?」

「ああ。でも、ただ妻にするだけじゃない……俺はマリアンヌのことを、どこでも自分が行く場所に連れて行きたい。例えこの国を出るとしても、ついてきてほしい……それが、聞き入れられるか?」


 ――俺には、行くべき場所がある。

 この世界で俺がするべきことを探せば、それこそ幾らでもあるのだろうが――それよりも、先に。

 あの懐かしい天使の顔が見たい。だがそれは、この世界で出会ったみんなを置いていくということじゃない。


 マリアンヌは、いくらも迷わなかった。席を立ち、座っている俺の肩に手をかけ、さらりとした金の髪が触れるほどに近づいて言った。


「……今さら、何を言っているの? 私はあなたなしでは生きられない……私は騎士姫でなければ、あなたに出会わなかったかもしれない。でも出会ったあとは、自分の立場より何より、あなたに……」

「……俺に、屈服したい。そう言ってくれたな」


 姫君が、土下座をしてまで言ってくれた。そんな告白をされて、心が揺さぶられない男がいるだろうか。

 ――普通なら、逆に申し訳なくなるのかもしれないが。俺はもうずっと前に、普通ではなくなってしまった。


「……はい。私はあなたの命令なら、何でも聞くわ。聞くなと言われても、聞いてあげる」

「よし……分かった。じゃあ、今日はこの家に泊まっていくんだ」

「ここで暮らせ……とは言ってくれないの?」


 マリアンヌが誘惑するように、俺の肩に胸を載せてくる。清楚ながら王族らしい華やかさを持つドレスを身につけた彼女の胸は、いつもよりその形を強調され、大きく前に出て存在を主張していた。


「……鎧を身に着けてる姿も好きだけど。今の女らしい格好も、俺は好きだな」

「……あまり気にしないのかと思っていたのに。そんなふうに言われたら、もう……」


 帰れなくなる。そう言う前に、マリアンヌは俺の頬に触れ、自分の方を向かせて、唇を重ねてきた。


「ん……んぅっ……ふぁ……」


 途中からは俺の方から求めて、それを彼女は初めは戸惑い、けれどすぐに力を抜いて受け入れる。

 いつも俺が留守の間に書斎を使っているのは、主にクレアとベルゼビュートだ。彼女たちの普段使っている部屋で、二人だけでキスをしていることが、少し悪いことをしているようにも思える。


「……これで共犯ね。時にはみんなに秘密にするのも、きっと長く続ける上では必要なことよ」

「そうかもしれないな。基本的には、隠し事はないほうがいいだろうけど」

「ファムさんとしたことも、あなたは全て話してはいないわ。そうやって私たちは、ずっと駆け引きをし続けるの……少しでも長く、あなたに見つめてもらえるように」


 マリアンヌが、大きく開いた襟に指をかける。そこを覗きこむことを許されているのに、俺は目を向けるまでに、そうとうに彼女を焦らす。


 だからこそ、目を向けた時の喜びと恥じらいも大きくなる。前かがみになることで、たわわに実った胸は大きな谷間を作り、ゆったりとした布地を引っ張ると、鮮やかな色が俺の目に飛び込んできた。


 そして気がつく――彼女が俺とキスをしているうちに、どれだけ身体を熱くさせていたのかと。


「……夜まで我慢した方がいいと思うなら、早めに止めて……私、もう……」


 今はキスだけに留めるか、それとも。マリアンヌは、その答えを選ぶだけの時間をくれる。空になった器に、桃色の果実酒を満たすことで。


※今回はご報告がございます。

 本作「最強転生者は奴隷少女を甘やかしたい」は、このたび

 変則的な形ではありますが、連載版から大きく加筆修正する形で

 出版されることになりました。タイトル等の告知はゆえあって

 できないのですが、本作のヒロインについて重要なアイデアを下さった

 鶴崎貴大先生にイラストを担当していただいています。

 本連載を開始したのも鶴崎先生とお話する機会があったからですので、

 多くの読者様にお読みいただき、このような機会をいただくことが

 できましたことを、改めて御礼申し上げます。

 連載版は書籍版とは違う結末になる予定で、中断せず連載していきます。

 今しばらくお付き合いをいただければ幸いです。m(_ _)m

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