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プロローグ・2 転生後の展望

「どうする? 私としては苦痛と引き換えに、魂経験値を得ることに価値があるのかは判断しかねる。このまま転生を続け、少しずつ経験を貯め、いずれ実りのある生が訪れることに期待するべきではないかと――」

「――いや。そんなに時間をかけたら、俺が俺であるって保障が無くなるだろ? 俺の世界には、前世の記憶を持ってるやつなんて、最後まで居るのか居ないのかはっきりしなかったくらいだ。基本的には、居なかったってことだと思ってる」

「ふむ……おまえは、おまえとして。『鹿島かしまりょう』の人格のままで、魂経験を積みたいのだな」

「あ、俺そんな名前だったっけ。落雷のショックで忘れてたみたいだ」


 名前を教えてもらうと色々と思い出してきた。派遣の仕事は本当は俺じゃなくて、別の人が行く予定だったんだけど、その人が急に行けなくなって俺が代わりに行くことになったんだった。

 それで落雷を食らって死んだというのは、何とも報われない気がする。色々やりたいことはあったんだけど、何一つできてない。

 しかしこうなってしまうと、元の世界で俺の欲求の対象だったものに対するこだわりみたいなのは、思ったより綺麗さっぱり無くなって――いや。


「あのさ、俺が行く次の世界ってやつには、エルフはいるのか?」

「存在しているな。異世界の住民の1割ほどが、人間以外の種族だ。しかし人間も含め、すべての種族が魔法を使うことができる――だが、おまえはそのままでは魔法が使えない」

「うわっ、それはヤバイだろ。魔法が当たり前のとこで魔法が使えなかったら、またすぐ詰むじゃないか」

「志半ばで死んだのだから、続きの生を生きられるだけでも報われているのではないのか?」


 ――ヤバイ。この天使の言うとおりにしてたら、俺は次の世界でも別に幸せにはなれない。


 生きられればそれでいいなんてわけがない。ゲームも漫画もアニメも、俺の楽しみだったものは何一つない世界なんだから、代わりの楽しみを見つけなけりゃ、退屈で死んでしまう。


「それこそ魔法を使えず、奴隷に落とされたとしても、生きていくことはできるだろう」

「……俺はむしろ、奴隷市場とかに行って、頑張ってお金を稼いで奴隷を買いたい方なんだが?」

「ふむ。しかし今のままでは無理だな。おまえは魔法が使えないので、子供にすら奴隷にされかねない」

「金持ちの令嬢に飼われるなら悪くは……いや、やっぱりだめだ。俺は魂の経験値を積む。その混沌とやらを封印するための、使い捨ての鉄砲玉になってやるよ」


 天使は俺を転生させてやるだけで、異世界の魔法に巻き込まれて死んだとかいう不慮の事故の補償として、十分だと思っているのだ。それは正直言って困るというか、冗談ではない。


「魂経験値で引き換えられる特典って、チートってことだよな? いろんな種類のものがあるのか?」

「人間が思いつく概念ならば、付加できないものはないと考えていい。良く望まれるのは『最強』『不老不死』『異性にもてる』『金持ち』などだが、どれも魂経験値の必要量が多すぎて、事実上は不可能だな」

「……たとえば、『最強』を特典としてもらおうとすると、どれだけ必要なんだ?」

「魂経験値が10万ほど必要だ。この10万という単位は、普通の生命体が10万回天寿を全うして得られるものだ。ふつうは1万回ほど輪廻を繰り返しせば、生に固執することがなくなってしまうのだがな」


 10万回、仮に平均して一回の人生で50年生きたとしても、500万年。

 生まれ変わるたびに記憶を無くしても、魂に輪廻した回数が刻まれていたら、そのうち確かに『飽きてしまう』のかもしれない。

 しかし俺は全然飽きてなどいない。次の生は、特別な存在になりたい――普通の人生を送っていたら、がんじがらめに縛られてできなかったこと全部やる勢いで、生きるってことを謳歌したい。


「……で、混沌に突っ込んで、殺されて得られる魂経験値は?」

「場合による。おまえに貸し与えた肉体を使って混沌に一撃でも入れれば、最低でも1ポイント経験値が入る。しかしお前は、混沌の攻撃を受ければ消滅する。痛覚は切られているが、魂は死を体感すると摩耗していく。場合によっては、一度挑戦しただけで転生すら諦め、魂ごと消失ロストすることもある」


 簡単に特典チートをもらえるようにはできてない。話を聞けば聞くほどそう思うのだが――。

 無力な存在として異世界に行って死ぬほど意味のないこともない。


「ああ、とりあえずやってみるしかないか。どうすれば混沌と戦える?」

「そちらの扉から行くことができる世界に、混沌が封じられている。それは、混沌を外に出さないためだけに作られた世界だ。我ら天使でも、直接混沌と戦うことは危険を伴う。それゆえに、その扉を開けることはない」


 天使が片手を上げると、俺の右前方に扉が生まれる。長い間開けられていないのか、鎖でがんじがらめに封鎖されていた。


「扉を開け、混沌に挑むのならば、足元にある剣を拾うがいい。それを持って扉の向こうに行けば、私の力でかりそめの肉体が作られる。あとは、おまえ次第だ」


 俺は剣を拾う――剣といっても、柄しかない。これはどうやら、ライトセーバー的なものらしい。柄しかないその剣を持つと、使い方が勝手に理解できた。

 念じると刃が生まれる。しかし小刀のように短く、弱々しいものだった。


「武器の使い方は任せる。投擲してもいいし、斬りかかってもいい。念じれば、光の刃を飛ばすこともできる。混沌に全くダメージを与えずに死ぬことだけは避けろ。それでは封印に寄与はできても、経験値が入らないのでな」

「わかった。それじゃまあ、行ってきますか」


 説明もそこそこに、俺はドアを開けた――正直言って、一刻も早く転生したい。そのためにも特典を貰わなければ。


「……待て。ひとつ聞いておきたいのだが、なぜ、エルフがいるかどうかを聞いたのだ?」

「え? だって奴隷市場で買うとしたら、掘り出し物のエルフだって相場が決まってるじゃないか。あとは、獣人の女の子も捨てがたいかな」


 考えるまでもない問いだった。しかし天使は初めて、俺の発言に少なからず感情を動かしているように見えた。


「……おまえは凡庸な人間で、不運で死んだだけかと思っていたが。実は神罰だったのかもしれんな」


 たぶん、天使は今このとき、俺がどんな趣味を持っていたのか、改めて確認したのだろう。


 異世界に行ったら奴隷を買いたい。普通なら虐げられる立場で傷ついている奴隷少女の心を、俺の手で癒やしてあげたい。癒やしたあとはそれはもう、蜜月の日々というやつだ。俺は誰かのヒーローになりたいのだ。


「そんなわけで、俺は何度死んでも、異世界で奴隷少女を守り切るための力を手に入れるからな」

「……混沌に挑む者に対して、こんなことを言って送り出したのは初めてだ。おまえのような馬鹿を、私は見たことがない」


 馬鹿でいいじゃないか、と思う。真面目に無難な形で転生したって、俺は必ず後悔するだろうから。


※ 次回はAM1:00更新です。

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