表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/34

姫騎士の章・1 S級冒険者

※章の導入のみとなります。夜の部が更新されてから

 まとめてお読みいただければ幸いです。

 ファムが家に来てから一ヶ月。俺は冒険者としてさらに実績を積み、今や国中のギルドから依頼が舞い込むようになっていた。迷いの森の鎧獅子討伐をきっかけに、『鉄剣』の名がさらに広まったということなのだが、一番は俺の移動速度が飛び抜けているため、依頼を受けたその日に完遂するという速さが、高額依頼を持ち込む依頼主からの信頼を高めていた。


 そんな状況になると、ギルドも俺を特級の冒険者として認め、ついにSランクまで昇格してしまった。この国にはこれ以上のランクがなく、全てのギルドを通じて俺一人しかいないので、俺はこの国で最も高難度の依頼を、最初に持ち込まれる立場となった。


 しかし俺はファムのリハビリを兼ねて、軽めの依頼を受けていた。猫獣人は元来好戦的な種族で、相手の攻撃を俊敏に避けることに長けているし、伏兵や罠を察知する能力もあって、連れていると仕事の効率がさらに上がった。クレアひとりを家に残すのも何なので二人を抱えて飛び回る俺だが、最初は俺の跳躍に慣れずに怖がっていた二人も、今ではすっかり慣れて、俺の両手に抱えられて飛ぶときは楽しそうにしている。


 二人にも俺と同じ世界を見てもらいたいというのもあり、甘やかすのもいいが、仕事に協力してもらうのも同等に大事だと思っている。

 そして今日も、ギルドで新たな仕事の依頼を受けに来たのだが、いつもと少し様子が違っていた。

 ギルドの職員は、俺を見るなり、時間があるかどうかを確認してから、貴賓室に俺を連れて行った――今回の依頼者は、やんごとなき人物だということか。


 扉を開けると、そこには騎士らしい服装をした壮年の男性がいた。俺を見るなり席を立ち、頭を下げてくる。

 顔をあげると、男性は少しやつれているようだった――かなり厳しい事情を抱えているらしい。


「初めてお目にかかります。リョウ・カシマ殿、私は公国の騎士、ジュード・ラウディと申します」

「初めまして、カシマです。騎士の方がギルドに依頼を持ち込まれるとは、珍しいですね」

「はい……事は、一刻を争う事態です。急なこととは承知しておりますが、山賊の砦から救出していただきたい方がいるのです」


 ギルド職員に椅子を進められ、騎士ジュードとの交渉の卓につく。クレアとファムは立ったままでいたが、俺が席を進めると両隣に座った。


「失礼を承知でお伺いしますが、その二人、亜人……そして、奴隷の首輪を?」

「済まない、そういうものだと思ってもらえるとありがたい」

「ふむ……身なりをみる限りでは、カシマ殿のご寵愛を受けている様子。奴隷の虐待は問題視されておりますが、このような待遇ならば、問題にもならぬのですが」


 彼は騎士らしく倫理に厳しいというのが伝わってくる。ここで聞くことにリスクがあっても尋ねてきたのは、正義感ゆえということだろう。


「ふたりとも冒険者としては駆け出しですが、俺が一緒に居たいので連れています。依頼の遂行には問題ありません」

「承知しました。では、早速ですが……『亜人狩り』の拠点とされている砦から、ある人物を助けだしていただきたいのです」


 ――亜人狩りの拠点。探していた情報が、こんな所から持ち込まれるとは……!

 クレアもファムも緊張した面持ちに変わる。俺は二人の手を握ってやりながら、ジュードに問いかけた。


「その人物というのは……? 差し支えなければ、名前と特徴を教えてください」

「……我がフラムベルジュ公国の姫君、マリアンヌ・フラムベルジュ。その人でございます」

「マリアンヌ……その姫が、亜人狩りに攫われたのか?」


 ジュードは首を振る。そして無念そうに机の上に置いた拳を握り、震わせながら言った。


「マリアンヌ様は正義を重んじられるお方。正義を貫くには力が必要と、女性ながら剣を取る道を選びました。今ではフラムベルジュの騎士姫と呼ばれるお方……彼女は非道を行う亜人狩りを憎み、その排除を誓っていました。そして、亜人狩りがあるダークエルフの女によって統率されていることを知り、その女が居る砦の情報を得て、討伐に赴いたのです。しかし……」

「……返り討ちに遭った、ってことか。それなら、一刻も早く救出に行くべきだな」

「ダーク……エルフ……亜人狩りを率いている……ご主人様、私たちの村を襲ったのは……」


 おそらく、そのダークエルフと、彼女が率いる亜人狩りだ。クレアはぎゅっと俺の手を握ってくる――村が襲われた時のことを、思い出してしまったのだろう。


「……ゆるせない……まだ、ひどいこと……お姫様、助けなきゃ……」


 ファムの瞳に強い感情が宿る。しかし憎しみだけではない――彼女はもう、憎悪だけにとらわれてはいない。

 マリアンヌを助ける、その言葉には、自分と同じような被害者を増やしたくないという思いがある。そう思うのは、ファムが人のことを思う気持ちを持っているからだ。


「私はマリアンヌ様の従騎士でありながら、彼女がダークエルフの魔法を受けて捕縛されたあと、取り返すこともできずに……マリアンヌ様の勝手に取った行動だからと、父君も兵を出されない。私の無力と愚かさが招いたことだとは分かっております、しかし、今あの方を失うわけには……」

「……わかった。無茶なことをするとは思うけど、そのお姫様の気持ちはよく分かる。俺達にとっても、亜人狩りは倒さなくちゃならない敵なんだ」

「そ、それでは……山賊の砦に、赴いていただけるのですか……!?」

「今すぐにでも行く。こういうときは、一分一秒を争うからな」


 昨夜の夜のセーブデータにも戻れるが、その前に姫が山賊の私刑を受けていれば、もう助けようがない――こればかりは、祈るしかない。


 俺はジュードから砦のある位置の地図を受け取る――全力で移動すれば、15分もかからない。


「報酬の話は後でいい。クレア、ファム、行くぞっ!」

「はいっ!」

「……っ!」


 俺たちはギルドから飛び出し、町の外まで出た所で一気に『飛んだ』。

 姫騎士マリアンヌ。俺達と同じ、亜人狩りを憎む勇敢な女性を助け出すために。



※次回は本日夜更新です。早めに予約させていただきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ