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Blue Skyの神様へ  作者: 大橋なずな
第4章ノ壱 シルメリア・ドドンガ共同駆除作戦編
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第4章 13幕

 イレアは鼻を啜るような音を出し膝を抱えて小さくなる。顔を隠し肩を震わせながら拳を握って動かない。


「イレアちゃん」


 コハルはそんなイレアの隣に座り、彼女の背中を撫でる。三人が移動してからずっとこの調子だ。

 少しの間何も話さなかったイレアだが、顔を膝で隠したまま「ごめんね、コハルちゃん」と声を出す。


「ううん」


 コハルは首を振って見せた。


「レイン様もルイ君もイレアちゃんのことを思ってのことだったんだよ。だから……」


 そう言葉にしたが、その先が出てこない。コハルは親友のイレアを元気づけることも出来ないことに嫌気がさした。


「でも……レインさんのあんな顔、初めて見た」

「それは、今日は体調が優れないみたいだったから……」

「言葉がすごく冷たかった。絶対……怒ってた。私、本当は褒めてもらえると思ってたの。ありがとうって言ってくれるって……。けど、違ったみたい。私みんなに迷惑かけてるんだよね」

「……」

「それに、ルイにもあんな風に言われちゃったし」

「……」

「ルイはね、いつも私のこと特別扱いするの。私はみんなと同じがいいのに。何でも特別なの。私は……ただ」


 そう言ってイレアは顔を上げる。


「大切にして欲しいんじゃないの、一緒がいいの。なのにいつもいつも隠し事したり、特別扱いで除け者……。違うの。本当はね……本当は……」

「うん」

「だから、ルイは嫌い。ルイは私のこと、みんなと同じに見てくれないから嫌い。大嫌い……大嫌い……なのに。あんな、あんな顔……」


 イレアの言葉が溢れて行くのをコハルはうなずきながら聞き続けた。彼がイレアに対しての想いはコハルにも分かっていた。何故そこまで大切にしているのかも知っている。だけど、その特別な存在にされることを彼女は嫌っている。

 誰かの特別になりたいと思う彼女。なのに特別扱いされるのを嫌う彼女。その気持ちはなんと呼ぶのだろう。なんと教えてあげればいいのだろう。コハルはイレアの背中を撫でながら自分の心に問う。

 それと共に先ほどのレインの顔色を思い出す。血の気の引いた顔。不安に押しつぶされそうになったあの人の表情が忘れられない。あの方はきっと自分には計り知れない何かで悩んでいる。その悩みを自分は分かってあげられない。どうして? 自分は天界巫女の妹。力を持った者ではないのか? 彼の支えになって上げれないのか?

 目の前にいる親友の気持ちも、悩む彼の心も……支えてあげたい。そう思った。


 顔を上げる。晴れ渡っていた空に次第に雲がかかり出した。雨季の時期は天候がすぐに変わってしまう。少し先に大きな雲が見えていて、このままだと雨になりそうだ。


 ーー雨に当たらぬ前に作戦が終わりますように……。


 そう思いながらコハルは天に祈りを捧げた。





 レイン、ルイ、ミネルはジャングルの木々の中を歩き、少し開けた場所にたどり着いた。目の前には見上げる程の崖があり、その崖に人が入れる程の底穴がある。これが今回の駆除するドドンガの巣だ。

 見た目は猪に近いのだが、鼻先が器用で土を掘り巣を作るらしい。人よりも大きい体格の彼らが入るにはこのぐらい大きなサイズではないといけないのだろう。

 入り口付近にたどり着いた三人はそれぞれに大きな溜息を付いた。


「お前、そんなんで大丈夫なのか? 足手まといはいらねーんだからな」


 ルイは足取りの重いレインを睨む。


「少なくともお前よりは動けると思うけど?」と、レインもルイを睨み返す。

「はあ!?」

「なんだよ」

「はいは~~い! 今回はほんと仲良くしてよ~~二人とも!」


 ミネルがそう声を上げ二人が睨み合う間をわざとらしく歩いて入る。


「レイン君! 本当に体調が悪いんなら無理しないでよ? ルイも、イレアにあんな言い方したから凹んでるんだろうけど、それをレイン君に当たらない」

「……う、うるさい!!」


 ミネルの言葉にルイは顔を赤らめて叫ぶ。


「どうせ、あんな風に睨んでそっけなくしてしまった~嫌われたかも~~とか思ってるんでしょ? いつもの事なんだから大丈夫だって~~」

「なななな!?」

「昔っからルイはイレアちゃんのことになるとこうだよ……」


 ミネルがわざとらしく溜息を付くと、ルイは口をパクパクとさせ耳の先まで真っ赤にし押し黙った。


「え? ルイってイレアのことが好きなの?」


 唐突にレインがそんな言葉を発する。ミネルは声を出して笑った。


「あはは!! レイン君やっぱり気が付いてなかったんだ! だろうなとは思ったけど、そういうところ鈍感」

「はあ!? す! すすすす好きとか! そんな!! そんな!!」


 ミネルの笑い声をかき消すようにルイはレインに怒鳴る。


「へ~~。ルイがイレアをねえ~」


 レインは冷静にそうつぶやくと、腕を組んで「なるほどなるほど」と納得した。


「今までの行動はそういうことか。なるほど」

「レイン君、面白い。見てて分かるでしょ?」

「いや、そういう風に見てなかったから」

「他人に興味無さすぎ」


 レインとミネルの会話に被せるようにルイは「ああああああ! もういいから!」と叫び続ける。

 そんなルイにレインは少し畏まって声を掛けた。


「ルイ。それでも今回イレアをこの場所に連れてきたこと。それはどういう意味かをしっかり理解した方がいい。彼女が大切なら尚更だ」


 その真剣な顔にルイは叫ぶのを止め、落ち着いた。


「守るものを背に戦うのは難しい。それが大切なものであればあるほど……」

「それは……分かっている!」と自分の拳を見つめる。


「大切だ。だから……あの時から……俺は……」


 ルイの顔が少しづつ暗くなる。

 ミネルはそんなルイを心配そうに見つめた。


「あの時?」


 レインは引っかかる言葉を口に出したが、二人の空気にそれ以上は何も聞けなかった。

 なんとなく嘗ての自分とルイの姿を重ねてしまう。大切なものを守ろうと、誰かを想い苦しむ姿を。


「ルイ」


 レインはゆっくりと抜刀しながら声を掛ける。


「その気持ち。出来るだけ早く伝えておけよ」

「はあ!?」


 突然の言葉にルイはまた叫んだ。


「後から後悔する前に想いは伝えておけ。じゃないと……」


 そう言ってレインは力なく笑った。


「俺みたいになるぞ?」


 ルイは喧嘩腰に睨んでいた顔を崩す。あまりにも切なそうな微笑みに驚いた様子だった。

 しかし、何かを問おうとした時、目の前の洞窟に似た巣穴から爆発音が鳴り響く。どうやら作戦が始まったようだ。離れたジャングルの奥地からも同じように爆発音が聞こえ始める。

 木々から鳥の群れが飛び立ち、動物たちがざわめき出す。

 騒音の後に巣の入り口から先ほど合流したバルベドの衛兵が飛び出してきた。直後から煙も舞い始める。


「来るぞ!!!」


 ルイは二本の刀を抜き、ミネルはホルスターから拳銃を取り出す。


「さ、おしゃべりはおしまい!」


 ミネルの言葉に合わせレイン、ルイは腰を落とし戦闘態勢に入った。






「だから! 踏み込みが半歩足りないんだ!」


 レインはそう言いながらルイの間合いに飛び込み、目の前で牙を向ける猪に似た獣を切り倒す。


「うるさい! お前の指図は受けないんだよ!!」


 自分の刀をすれすれに避けながら次の獲物に目線を向けるレインを睨み付け、ルイは叫ぶ。もう一言言葉を発しようとするが、次なるドドンガがこちらに向かって突進してくる姿を捉え、二本の刀を握り直した。

 黒い毛むくじゃらの姿に小さな赤い瞳。頬に大きな牙を振りかざす獣たちは、巣を攻撃されたことで混乱しているのだろう。数体があちこちで右往左往している。

 巣の中での爆発は一回だけのようだ。しかしその煙は今も上がっている。何かの薬品を使っているのだろうか。辺りには刺激臭が漂う。この匂いを巣の中で起こし、ドドンガを外へと誘導する作戦らしい。バルベドの衛兵二人も巣の入り口でこちらに合流すると、出て来る獣の駆除に当たり始める。

 総勢五人のメンバーで次々と出て来るドドンガへ攻撃する。ドドンガは興奮したまま走り込んで来ては誰かに牙を向け、やがて倒されていった。

 血しぶきを上げつつ倒れる獣が少しずつ増え始める。といっても数が少ないと事前報告があった通り、あまり巣からドドンガは姿を現さない。周りを数えてもざっと数体しか倒していなかった。

 ルイはこちらに向かって来たドドンガの牙を刀で受け止め、跳ねのけると斬りつける。重量がある為、少し歯を食いしばり肉を斬る。そこへ発砲音がした。背中の方数か所穴が開く。その鉄の塊を受けたドドンガは前足に力が入らなくなったのだろう、がくんと膝を折りそのままゆっくりと倒れた。


「ミネル! 俺の獲物だぞ!」

「はあ? 助けてあげたのにその言い草無くない?」

「せっかくサポートしてあげてるのになあ~」

「余計なお世話だ!」

「はいはい」


 ミネルは拳銃を構え直しながら微笑む。

 数体の獣がさらに巣から飛び出して来るのが見える。レインは二人の会話を遮るように「次が来るぞ」とそっけなく言った。


「レイン! さっきのあれは俺でも倒せたんだからな! 邪魔するんじゃねーよ!」

「あのままだったら足を食いちぎられてた」と、レインは大きく深呼吸をすると軽くステップを踏み前方へと走り込む。

「あ! おい! 待て!!」


 ルイも追いかけるように巣に近づく。


「ああ~~もう! 喧嘩はしないでって言ってんのになあ~。似た者同士は……まったく」


 ミネルは微笑みつつ後方へと移動し、二人のバックアップに回った。

 二人は数体のドドンガに斬り込んでいく。レインの動きに必死について行こうとするルイの構図はなんだかんだいって成り立っており、バランスが取れていた。お互いの刀の範囲を把握し、無駄のないように動く。一体、また一体と二人の前でドドンガが倒れる。


 程なくして巣の中のドドンガは全て出てきたのか、辺りに静けさが戻った。少し離れたジャングルではまだ戦闘が行われているのか、爆発音や騒音が聞こえてきている。


「こんなもんだろ?」と、刀を収めバルベドの衛兵がこちらに向かって来る。


「お前達、若いのにいい動きしてるな。息もぴったりだし、さすがシルメリアの戦力といったところか」


 バルベドの衛兵二人は緊張から解放されのか、微笑みながら三人に声を掛けた。


「息もぴったり……ねえ~?」と、ミネルが面白そうに笑う。


「どこが!」「全然……」


 二人の声が重なり、さらに笑うミネル。


「俺達は巣の中を見て来る。まだ残っている可能性もあるしな」


 バルベドの衛兵二人はそう言って巣の方へと向かい始める。

 そんな二人を見送り「これからどうするんだ?」とレインはリーダーであるルイに問う。


「他のチームの手伝いに回るのがいいんだろうが……こっちには非戦闘員が二人もいるしな。一旦街に戻って……」


 そう声を上げた瞬間、「うあああああ」と、大きな悲鳴が聞こえた。


 叫び声のする巣を見つめる。そこには血だらけのバルベド兵が倒れ込んでいる姿があった。

 一人の姿しか見えない。もう一人は!?

 三人が巣の方へと動こうとしたのだが、今までのドドンガを遥かに超える雄叫びが巣の中から聞こえて来る。耳を塞ぎたくなるほどの叫び。頭の中をかき回すその声にレインは聞き覚えがあった。前進の毛が逆なでする。この場の空気が一機に変わっていくのが肌で感じ取れた。


「下がれ!!!」


 レインの声が雄叫びにかき消される。

 叫びはやがて収まり、今度は大きな呼吸がこちらに向かって来る気配を感じた。その呼吸が鼻息であるのは分かっている。

 三人は巣の方向に向かって構えた。

 草木を踏みしめる足音と共に現れたのは、先程相手をしていた獣の約三倍。人の十倍……いや、それ以上のサイズのドドンガ姿を現す。

 口元には姿の見えなかったバルベドの兵が咥えられている。ぐったりとした身体からは生気を感じられない。血が口元から滴り落ちる。

 その光景を目にした三人はその場で息を飲んだ。


「ドドンガの……ボス」


 ミネルの言葉に巨大なドドンガは咥えていたバルベドの衛兵を離す。ドサリと落ちた兵は本来、人の動きでは出来ない方向に身体が曲がっていた。


「くそ!!!」


 ルイは叫びながら後ろに後退する。ミネルもそれに続く。間合いを詰められると一気に突進してくるからだ。


「レイン君!!」


 ミネルの言葉にレインの後退しようと足を動かす。そして目の前のどす黒い塊に向かって言い放った。





「よお。久しぶりだな……」と。





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