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Blue Skyの神様へ  作者: 大橋なずな
第4章ノ壱 シルメリア・ドドンガ共同駆除作戦編
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第4章 9幕

 その場所は見覚えがあった。いや、あるのだろうか……。レインは巨大な空間を見つめ大きく深呼吸をした。

 これはきっと自分が知っている場所ではない。魂が……自分の魂が知っている場所だ。シラが歌った唄のように、レインの中に眠る魂が知っているため身体が覚えているのだろう。

 レインは通気口の出口から歩き出し、大きな空間を進み始める。

 足元には底が見えない巨大なプールがある。その真ん中には橋のように道が掛けられており、そこを歩いた。

 劣化している為、足元がギシギシと鳴る。しかし落ちるかもしれないという恐怖は感じなかった。

 プールは遥か彼方まで続いている。大きな空間を照らす青白い間接照明は途中から消えている為、先がどこまで続いているのか分からない。

 真っすぐ進んでいく。この先に何があるのか何となくわかる。しかしそれが何かがはっきり思い出せない。

 不安が頭をよぎっているにも関わらず、足を止めることが出来ない。それは自分が何者なのかを知る手掛かりがあると確信しているからだ。何も知らない。なのにこの先に何かがあるのが分かる。

 不思議な感覚に苛まれながらレインは歩き続けた。


 程なくしてプールの真ん中に架けられた橋は終わりを告げ、その先は行き止まりだった。

 レインはその行き止まりまで歩ききる。その場所はプールの中央に位置していた。太い柱が建ち、その柱には電気配線やモニターがびっしりと繋がっている。配線や機械が柱になっているようだ。

 それは大樹の幹のようにプールの中央にそびえ建つ。

 頭上を見上げてみる。電気配線や機械達は柱を上り遥か彼方に見える天井にまで蔓延っていた。天井は遠すぎてはっきりとは見えないが、まるで大樹が枝を広げているように見える。


「これ……」


 レインはその柱を見つめた。


「知っている。俺……これを知ってるんだ」


 ーー懐かしい。これを造るのにあいつは苦労していた。


「あいつって……誰?」


 レインは自分に問う。しかしそれが分からない。

 柱に向かってそっと手を伸ばす。


 ーーこれに触れれば……。そう思い、レインは伸ばした手を止めた。


 このシルメリアで生活し遺跡に通い始め半年。自分とは誰なのか。過去に何が起こったのか。彼女……シラとの魂の関係は何なのか。それを知りたかったはずなのに……。急な恐怖に刈られた。

 これに触れれば何かを得られるだろう。しかし何かを失うかもしれない。自分が自分でいれる保証はない。そう思えてならない。魂が叫ぶのだ。この地に何かを感じると。

 レインは伸ばした手を見つめる。そして大きく深呼吸した。


「俺は……世界の何なんだ?」


 その問に誰も答えてくれない。


「俺は……」と手を伸ばす。そして目の前にあるモニターに手を添えた。


 その瞬間、モニターが何度が点滅し光だす。

 手を添えたモニターが光始めると、他に埋め込まれたモニターも一斉に光り出した。

 埋め込まれた機体たちが息を吹き返す。ランプが点灯し、モ二ーターの画面に砂嵐が映し出される。

 その現象は徐々に上へ上へと上がり、樹木が命を吹き返し芽吹くように明るくなっている。やがて天井に伸ばした枝まで光始めるとその場が一気に明るくなった。足元のプールも合わせるように青く光り出す。

 辺りはプールの中で揺れる水面を照らしながら青い光に包まれた。それはまるで空の中にいるかのように錯覚するほど……。


 ―――シラ。


 レインは彼女の名を呼んだ。

 しかし実際、口に出した名は違う。


「―――ゼウス」


 そう声に出していた。






 レインは機械の柱に手を添えた状態で目の前のモニターを見つめる。

 すると目の前のモニターだけが砂嵐ではなく何かを映し始めた。

 どうやら白衣を着た金色の髪の女性のようだ。その女性は赤い眼鏡を掛け、金髪の髪をポニーテールにしている。白衣は少し大きくダボついていた。背中には白の翼も、黒の翼も生えていない。

 何かをこちらに向かって話している。嬉しそうにはしゃぐ女性は青い目を輝かせながら、なにかの説明をしているようだ。映像が所々途切れる。数十秒後、その映像はやがて砂嵐になって消えた。


人間王(イヴ)……?」


 レインは消えてしまった画面を見つめる。


「そうか……これが完成した時の映像か」そう言って手を放した。


「イヴはものすごくはしゃいでたな。あの時からこの場所は何も変わってない。そうか……。あれから何千年……何万年の月日が流れていてもお前はここにいたんだな」


 目の前の柱に声を掛ける。


「アダム」


 そう、この柱は……この建物の名は『アダム』、あいつの愛した全てだ。


(サタン)はあいつを応援してた。この世界をより良い物にする為に、科学技術を発達させるっていうあいつの夢を。親友の追いかける夢を応援してたんだ。そして彼女(ゼウス)と三人で笑ってた。こんな素敵なことは無いって」


 レインは自分の手を見つめる。


「そうだ……アダムが完成して……世界は更に機械が溢れた。人間の領地は栄え続け夢が現実になった。けど……」


 手を見つめるレインの瞳がどんどん曇っていく。


「世界は汚れ……壊れていった」


 思い出される光景。スモッグの空。濁った水。苦しむ人々……。


「イヴは何も悪くない。あいつはより良い世界を造ろうとしたんだ。だから……科学を発達させた。なのに」


 世界はどんどん歪み始める。人間のもたらしたものは便利なものではなく、痛みを伴う汚れた世界。

 痛みを伴う技術を避けようと天使、悪魔の領地は機械の取入れをしなくなった。それでも世界の汚染は止まらなかった。人間達が機械化を辞めなかったからだ。便利になった生活を覚えた人間達は、汚染していくと知っていてもそれを辞めれなかった。


「そこで……異変種(ビースト)が生まれた」


 異変種は天使のみに現れた。獣の身体をした者、特殊な力を持った者……人を襲う知能が低い者まで現れた。その根源を造った人間を天使は憎しみだす。そして……。


「天使は人間を制圧し始めた。機械化を止めさせるために。世界を覆った恐怖を止める為に」


 しかし人間も反発した、そこで起きたのだ。


「戦争が……」


 レインは掌を見つめその言葉を噛みしめる。


「俺は止めたかった。共に生きていきたかった。なのに……」


 人間と天使の戦争が激化した時……。


「そうだ、そこで……人間は世界に『()()()の核爆弾』を落とした」


 七十二の核爆弾は世界を覆した。それは天使の領地、人間の領地を火の海にした。もちろん悪魔の領地も。

 世界は更に汚染された。人が生きるのも難しいほど……。


「だから……俺は……」


 つぶやくレインの瞳に光が戻って来る。

 数回の瞬きをした後、レインは我に返り、目の前の嘗て『アダム』と呼ばれていた柱を見つめた。


「俺、今……」


 数歩後ずさりする。


「アダム? イヴ? 世界が汚染されていた? 古き時代の三種族戦争の発端は……ビーストが誕生したから?」


 自分が語った言葉を繰り返す。


「七十二の核弾頭……」と、レインは後ろを振り返った。


「この遺跡は……核の製造をしていた?」


 初めてこの遺跡に足を運んだ時、ミネルが何かの発電所だと言っていたのを思い出す。


「そうか……人間遺跡(ここ)は原子力発電所」


 その瞬間、まだ別のビジョンが身体を突き抜けた。レインの意識はそのビジョンに染まる。

 青い髪の女性。彼女があの戦車の前で刀を握り、佇む姿だ。

 身体は返り血で真っ赤に染まっていた。そんな彼女の名を呼ぶ。すると彼女はこちらを振り返った。


「ゼウス」


 あまりにも鮮明に思い出されるビジョンにめまいを起こし、レインはその場に膝を付く。

 振り返るゼウスは今にも泣きそうな顔をしてこちらを見つめる。彼女の先にあるのは首の落とされた白衣の身体だった。切り落とされた首からは真っ赤な血が溢れている。彼女の足元には赤い眼鏡が……。


「何故、殺した」


 レインはそれだけを振り絞って吐いた。


「俺の友を……あいつはみんなの為に世界をより良くしようとしてただけなのに……何故……」


 自分の愛する彼女は、自分が親友と呼んだ人を斬り殺した。


「そして……何故、俺を裏切った? 何故、俺を殺した」


 胸の苦しみに耐えきれず、その場にうずくまる。


「こんなの……こんなのない」と、声に出す。それはレインの言葉だった。


 すると全てを伝え終えた、と言うかのようにアダムの電気機器が光を失い始める。光は徐々に消えていき、やがて元の青白い照明だけになった。辺りは静けさが広がり、青白い光の中、身体を強張らせる。


「こんな……こんな……」


 レインはそのままうずくまり声を出して泣いた。






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