表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Blue Skyの神様へ  作者: 大橋なずな
第4章ノ壱 シルメリア・ドドンガ共同駆除作戦編
86/128

第4章 2幕

 焦げ臭い煙があちらこちらから上がる瓦礫の隙間からヤマトは遥か先に見える茶色の塊を眺めていた。茶色の塊は先ほどのビーストの兄弟だ。食料と衣類を渡し旅立たせ、それを市街地の隅から見守る。

 そんなヤマトの背中を見つめポルクルは大きな溜息を付いた。


「何を企んでるんですか? 閣下」

「別に、何も考えてないさ。丁度あいつに何か言ってやろうと思っただけ」


 ヤマトはポルクルに背中を見せたまま返事をする。その顔はどう見ても面白そうだ。


「あいつってレイン熾天使のことですよね? 何でシルメリアにいると分かるんですか?」

「ん~~。ま、いろいろあってな」

「いろいろ……ですか」


 はぐらかす言葉にポルクルは冷たい目線で言葉を返す。


「ま、いいじゃないか。別に非戦闘員を無事に保護して解放した。なんの問題もないだろう?」


 ヤマトは小さな塊が見えなくなったのを確認し、ポルクルの方を向く。


「別に僕は何も言ってませんよ。質問しただけです」

「そうか? ポルクルはいっつも何かしらグチグチ言って来るからなあ~」

「いつもおかしな行動をする閣下が問題なんです」


 そんなお決まりの会話をしていると、オルバンが瓦礫の隙間から現れ「二人とも何してるんですか? もう撤退しますよ」と声を掛けてくる。


「ああ、今行く」


 オルバンの方に歩き出すと、何やら大通りが騒がしい。誰かが叫んでいるような声が聞こえる。

 三人はそんな声にお互いの顔を見合わせ、その広場に向かった。


「オルバン大佐! オルバン大佐はおられますか!!」


 どうやらオルバンを探しているようだ。

 オルバンはヤマトより先を歩き始め「ここにいるよ」と声を上げる。その登場に大通りにいた一人の兵士が安堵の顔をした。そしてその後ろを歩くヤマトの姿を見るとさらに「ああ、よかった。ヤマト元帥もおられましたか」と声を出した。


「どうした?」


 ヤマトが声を掛けるとその軍人は敬礼をする。


「お二人に見て頂きたいものが……」

「見せたいもの?」

「はい。先ほど発見しまして……。九番隊が現場に到着したのですが、お二人に見て頂かないことには……と」

「九番隊? 研究開発の部隊は今回、後方でカラクリの試作品の導入チェックをしていただろう?」


 ヤマトの声に兵士は頷く。

 九番隊とは本来、人間界で使われている科学技術などをこちらの世界でも開発出来ないかと開設された研究チームの部隊だ。他にも人間の頃の知識などで兵器開発を行っている。今回も新しく開発したカラクリの仮導入をしたいとこの戦場に同伴して来ていたのだ。


「と、とにかく……口での説明よりも」

「実物を見ろってか? 分かった。案内しろ」


 ヤマトの言葉に兵士は「こちらです」と歩き出す。三人はその後に続いた。







 戦場の瓦礫の間を突き進み、たどり着いたのは大きな建物だった。倉庫だったようだが中は何もない。この街の食料不足や物資不足の悲惨さが見える。


「この下です」


 兵士はその建物の中へと進み、丁度真ん中に位置する場所に空いた大きな穴を指さした。

 その穴を覗くと中は階段が続いている。


「地下……ですか」

「しかもかなり深いな」


 オルバン、ヤマトはそう言いながらも、なんの躊躇もなく階段を降り始める。


「ありがとうございます。後は大丈夫ですので撤退の作業に戻ってください」


 ポルクルも二人に続きながら兵士に声を掛ける。兵士は素早く敬礼し歩き出した。

 三人は地下へと続く階段を降りていく。階段の幅は人が四、五人ほど横一列で歩けるほどのサイズで意外と広く、暗闇の先に続く階段はかなり長いようだ。

 コツコツと足音が響く。石で出来ているその階段を降りて行くと、頭上にあった外の光では足元が心細くなってきた。

 すると階段の下の方に明かりが見える。声もするということは九番隊の者達だろう。


「待たせたかな?」


 オルバンの声に九番隊の数人は会話を辞め、こちらに敬礼して来る。松明を数本持っているようで辺りが少し明るい。

 階段の終着地点にたどり着いた三人はその場所を見渡す。空間にして二十畳ぐらいだろうか。少しばかり開けているようだ。


「お待ちしておりました。元帥、大佐、中佐。こちらをご覧下さい」


 そう言って兵士は目の前の壁に松明を近づける。その壁は他の塗り壁のような材質とは明らかに違う。


「これ……」


 オルバンはその壁に向かってそっと手を添えた。


「鉄……ですか?」

「はい。まさしく。しかも、我々が開発しているものより高度な技術の代物です」


 兵士は松明をさらに近づける。


「分厚さもサイズも……この天界では見たことがないものです。天界天使の技術ではここまでのものは作れないでしょう」

「何故こんなものが? もしかしてビーストの技術?」


 オルバンの言葉に兵士は首を振る。


「いえ、違うでしょう。この建物や地盤を見ても、ここ数十年で作られたものではないです。これは……」

「古き時代のものか」


 ヤマトが突然、言葉を発したことに兵士は一瞬驚いたが、大きく頷いた。


「数万年は経っているでしょう。今まで見つけられなかったのは、ここまで深い地層に作られていたからかと」

「この周辺に似たようなものは?」

「いえ、まだ発見しておりません。しかしもう少しお時間を頂き調査をすればもしかしたら」


 その言葉にヤマトは少し考え込む。

 一年前に起こった城下街でのテロ。ガナイド地区の男達の所持していた爆弾。シルメリアのビーストが持っていた弾薬。


「ヤマト元帥。お気付きになられましたか?」


 兵士は暗い顔のヤマトに声を掛ける。


「ああ、大体はな……」

「この壁に何か?」


 今の話の流れがつかめないポルクルは、兵士に質問をしながら前の壁を見つめた。その言葉に兵士は一瞬ヤマトを見ると、ヤマトは顎に指を添え考え兵士にアイコンタクトで答えた。すると兵士はポルクルに話を始める。


「元々、我々にはある大きな仮説がありました」

「仮説……ですか?」

「はい。それはこの天界と中界、我々の呼び方で人間界と言いますが、二つの世界で起こる謎についてです。

 ご存じのとおり人間は古き時代、この天界に天使と共に生活しておりました。翼と能力を持たない彼らは自分達の知識のみで生活していたと記されております。そして天界で起こった『三種族戦争』で敗北した彼らは初代最神の手によって中界に落とされ、この世界での記憶を抹消された。

 しかしその記憶は個々の中にかすかながら残っており、その記憶を寄せ集め『神』という崇め奉る存在を作ったとされております。それがこの天界(せかい)には生まれなかった『宗教』の始まりです。それに合わせ、人間界には存在しないドラゴンや魔法(のうりょく)は架空のものだという認識ではありますが、多くの人間に知られております。

 そして中界に住んでいる人間は独自の技術を発達させ、今日こんにちまで生活しています。科学技術も発展し、機械社会を築いて豊かな暮らしをしている……ここまではお分かりですか?」


 兵士の言葉にポルクルは頷く。


「はい。中界軍に入る時に勉強しました」


「ここからが本題なのですが」と兵士は前置きを話すと暗い顔をした。

「では、同じように……()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()、と考えられませんか?」

「科学技術を?」

「はい。ここの記憶をまとめ、出来上がった人間界の『神』という存在。架空の生物の認識。そして一年前に起こったテロでシルメリアの者達が持っていた『爆弾』『火薬』『拳銃』……」

「そして今回のコレ……か」


 兵士の言葉を遮りヤマトが声を出す。


「はい。ジュラス元帥閣下の仮設が正しければ古き時代の遺跡などを探せば、この世界での鉄の生成や火薬の調合、科学技術の発展に光が見えます」

「でも何万年前に滅んだ時代の代物ですよね? 遺跡など殆ど残っていないのでは? 三種族戦争は大規模な世界大戦で当時を知りうる為のものはほとんど存在していないと聞きましたが……」


 ポルクルはそう話ながらふと何かに気が付いたような顔をした。


「シルメリア……要塞遺跡都市」

「そう、それだ」


 ヤマトはポルクルの出した答えにニヤリと笑う。


「シルメリアは人間の残した唯一の遺跡を拠点として街を作っている。そこに何かヒントが眠っていると考えられるね」とオルバンが付け加える。


「しかし、どうして今までそのことに気がつかな……」


 ポルクルはそこまで声に出したがぐっと口を紡いだ。


「俺達、転生天使はその古き時代、人間が中界に落とされたことで生まれた種族だ。そしてこの世界、天界天使にとってはいらない存在」


 ヤマトがポルクルの疑問に答えるように話し出す。


「その存在が疎ましいと思った天界天使は、元人間を天界の限定された地域以外での生活を禁じた。俺達が住む転生天使の居住区以外はな。だからその遺跡があるという情報はここ最近になるまでは知らなかった。

 そう、七年前に起こった悪魔との全面戦争までは……。ジュラス元帥率いる『転生天使特別部隊』、今の中界軍の元になる部隊の編制時、初めて俺達転生天使は自由に天界の地を歩いた。そこからこれほどまでの軍にするまで七年」

「こんな状態では反政府組織、シルメリアが人間の遺跡で街を作ったことも僕達の耳には入っては来ないよね」


 ヤマトの言葉にオルバンも付け加える。


「もちろん僕達、天界天使は人間の遺跡なんて興味ないし……ましてや人間や転生天使は迫害対象。過去の産物なんて必要ないもの。長い月日の間にすべて消してしまった。そして科学技術なんて、能力の使えない下等生物の考えた気持ち悪いものという印象だけが残った……ですね」


 ポルクルの言葉にヤマトは肩をポンと叩く。


「この鉄でその仮説の信憑性がさらに出て来た。この街が辺境であったこと、この建物の下に眠っていたこと。そして地下にあったことで今まで存在できたんだろうな」

「はい。して……今後どのように」


 すると兵士は鉄の壁を眺め見つけたように覗き込む。


「閣下……これ、扉ではないでしょうか?」

「扉?」


 兵士はある一点を松明で照らす。そこには何やら凹みが見えた。


「開けてみよう」


 ヤマトの声で後ろにいた他の兵士達が、その扉を開こうと押したり引いたりを繰り返す。しかしその扉はびくりともしない。大の大人が数人かがりで動かそうとしても鉄の扉はまったく動く気配はなかった。


「こんな頑丈な壁、そうそう動かいのでは?」


 ポルクルは兵士を気遣いながらそう言う。


「う~~ん」


 ヤマトがその扉の持ち手を見つめ、試しにそっと触れてみた。するとガコンと大きな物音を立て、その扉がゆっくりと開き出す。


「おおおおお!」と先ほどまで開けようと必死になっていた兵士達が声を上げる。


「閣下、今何されたんですか?」

「いや、何も……ちょっと触ってみただけで」


 動かしたヤマトも驚きながらポルクルに答えた。しかしふとあることを思い出し、顎に手を当てて悩みだす。


「閣下、どうします?」


 オルバンの言葉にヤマトは悩んでいた顔を上げ「行こう」と声を掛ける。

 その言葉に合わせ、その場にいた全員が中の部屋に足を踏み入れた。

 中は真っ暗で何も見えない。しかしどこかに通気口があるらしく空気は流れている。感覚的にかなり広い空間が広がっているようだ。足音が響く。

 松明を持った兵士が辺りを警戒しながらヤマトの前を歩いた。


「何万年前の部屋……か」


 ヤマトの独り言に後ろを付いて来ていたポルクルはゴクンと喉を鳴らす。


「なんの空間なのでしょうか? 全く見えないですね」


 オルバンの言葉にヤマトは立ち止まるとその場で能力を発動させた。


 ヤマトの発動させた雷の能力で数秒だけ頭上が明るくなる。バチバチと音を立てた光は一瞬、目の前にそびえ立つ存在を明るく照らした。


「!!!!!?」


 その場にいる全員がその光景に息を飲む。不気味に光るフォルム。大きな機体……。

 一瞬で物の場所を把握した兵士が駆け寄りソレを松明で照らす。


「何なんですか? コレ……」


 ポルクルはその存在が何か知らない為、皆の反応に驚いた声に首を傾げた。


「人間の翼……だよ」


 ヤマトは松明に照らされたソレを見つめる。

 他の兵士がさらに辺りを確認していく。ソレは一機ではなさそうだ。


「戦闘機……やはり仮説は正しかったか」

「閣下!!!!!」


 突然、オルバンが叫ぶ。


「こ……こんなこと……。それにこんなものをこんな無造作に」


 オルバンは空間の隅で数人の兵士と一緒に何かを見つめていた。


「おかしい! だって……現代の人間界ではこんなこと……でも、それだけの技術が古き時代にはあったということでしょうか?」

「分からない。しかし……」


 兵士達が一気に会話し始め、どよめく。


「放射線は流石に……ないだろう」

「作られたのが何万年も前と考えるとな。けど現代のものも何億年と放射能を出すものがある。微量に出ていてもおかしくはないだろう」

「まぁ、今の我々には調べようがないがな」

「中界の人間より技術が進んでいると考えたら、今でもまだ使えるという場合もあるのでは?」

「そんなことが起こってしまったら……」


 そんな会話が続く場所にヤマトは近づきオルバンの隣に立つ。


「閣下……これを」


 オルバンは顔色を真っ青にしてヤマトに言った。


「このマーク……核です」


 黒の三枚の扇形の羽が円を描くような独特なマーク。人間界のメディアで何度か見たことがある代物だ。


「核爆弾……ここは核兵器の貯蔵庫のようです」

「何故……()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()?」


 ヤマトの言葉に皆、何かに感づいたように押し黙った。


「いや、逆だ。人間は……古き時代、このマークを使っていた。この兵器を使っていた……」


 押し黙る部下達に聞こえるほどの声でぼそぼそと話出す。


「人間は同じ歴史を繰り返している。古き時代に開発していた核兵器を現代の人間は中界で再現しているということか……」

「つまり……」


 オルバンの声にヤマトは頷く。


「近い未来、中界は古き時代の人間のようになるのかもしれない」


 その言葉に全員が自分の生まれた故郷を思い描いただろう。

 そして人間の行きつく先を……。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ