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Blue Skyの神様へ  作者: 大橋なずな
第3章 シルメリア・ビースト会合編
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第3章 22幕

「薙ぎ払え」ライの言葉の通り、レインは刀を振り回し目の前のエルドラドをテーブルの上から払い落とそうとした。


 しかしエルドラドは長い剣を向け攻撃を受け止める。レインは身体が細身の為、重みのある攻撃が出来ない。

受けとめられた刀を踏み込むことはせず身体を捻らせ、今度は下から上へと斬りつけた。レインの次なる攻撃にエルドラドは身体を剃り返す。そして長剣をこちらに向かって振り込んできた。

レインはその攻撃をまるでダンスを踊るかのようにひらりと交わす。

そんな攻防を二人は何度も繰り返した。

 テーブルの上での戦闘に、並べられたカトラリや果物がガシャガシャと音をなして床へと落とされる。クロスは二人の動きに合わせうねり、所々破れていった。

 その光景をライは先ほどと同じ場所に座ったまま頬杖を付いて見物する。


「兄貴! そこは危険だ」とルイの言葉にも右腕を上げ返事をするだけで、それ以上動く気配はない。


 一方バエーシュマは早々に立ち上がり、その場から数歩後ずさりしながら二人の戦闘を見守っている。

 レインは軽いステップで飛び上がると、ライが頬杖をついている真横にストンと着地し、刀を一回大きく振り回した。その動きでライの髪がフワリと揺れる。


「お前の力はそんなものか?」

「……」


 ライが淡々とこちらに話掛ける。レインは何も反応せず、目の前の敵であるエルドラドをきつい目付きで睨んだ。


「全力で行け。じゃないと()られるぞ?」


 ライの言葉に合わせレインはその場から一気に走り込む。そしてエルドラドめがけて刀を振り下ろした。

 刀のぶつかる音に合わせ、その場の空気が凍る。それは戦闘している二人が同時に同じ氷結系の能力を発動したからだ。テーブルが二人の足元から徐々に凍り出す。ガリガリガリ……と氷の柱が線を作りながら二人の間を走る。


「面白い」


 刃越しでエルドラドがレインに声を掛けてきた。


「来い!」


 エルドラドのその挑発。レインはその言葉通り発動させていた氷結の能力を解き、代わりに身体の中に眠るもう一つの能力を発動させた。

 刀が一瞬で炎に飲み込まれる。赤々と燃える炎。その刀の炎はレインの腕、肩、そして顔へと移っていく。そして顔が炎に飲まれると同時に左目の紅い瞳がさらに赤く燃え、若草色だった髪は炎が広がるにつれ瞳と同じ紅く染まっていくのであった。







「ねえ~リリティさん。こんなの見てどうするの?」


 そう言ってイレアは、ウキウキしながら望遠鏡を覗くリリティに質問した。

 二人は監視塔の最上階下にある研究結果報告会の会場の隅にある窓を開け、遥か先にある街役場の長室を覗き見していた。

と言っても望遠鏡は一つ。二人は代わる代わるその筒状の物を覗き込んでは、何をするわけでもなくのんびり過ごしている。

 そんなのんびりした空気にイレアは少々飽き始めていた。どうせここからレインを見てもモヤモヤが晴れるわけでもない。なのに自分は何をしてるんだろうか……と気が付いてしまったからだ。


「にょほほほほ~~」と、イレアの質問にリリティが望遠鏡を覗く。


「だってバルベドの街長バエーシュマとシルメリアの長の会合ですぞ? 何もないわけないでしょう! わたくし昔、バルベドに住んでいたことがあったのでバエーシュマをよく知ってるんですが、あの方とライ殿が合うはずがない」

「と言うと?」

「まず性格が真反対ですな。そして街に対する考え方も……そんな二人がこうして話している。そんなの『何かイベントが始まりますぞ~』と言っているようなものでしょうぞ!!」


 リリティは微笑む。そして順番を変わろうと望遠鏡から離れた。


「な、なるほど……」


 イレアはその答えに少し戸惑いながら望遠鏡を覗く。自分は『気になる男性を覗いてます』なんて絶対言えない……と思いながら。


「ん?」


 イレアが望遠鏡を覗くと、なにやら長室で動くがあったようだ。


「本当に何か起こってるみたいです」

「おおおおおおお!! やはり! どうなっているんです?」


 イレアの言葉にリリティはピョンピョンと跳ね喜んだ。


「え? レインさん?」

「ええ!? レイン殿がどうしたんです? 何があったか教えてくださいイレア殿!!」


 イ説明不足に少し不満そうに叫ぶ。


「レインさんが戦ってます。相手は……この前コハルちゃんをさらおうとした人だ!」

「戦闘キタ――――――!!」


 リリティがさらに大きく叫んだ。

 イレアはレインが長室の中で華麗に舞い戦闘しているのをただ見つめる。なぜか胸のあたりがざわついた。

 すると長室が急に明るくなる。それは窓の外にも分かるほどの炎が上がったからだ。


「あ! レインさんが炎の能力使ってる!」

「ええ~~~イレア殿! 見たい! わたくしも見たいですぞ!!」

「あ、すみません。代わります」


 イレアはピョンピョンと跳ねるリリティへと席を譲る。流石にこのまま自分が観戦するわけにはいかないなと思ったのと、あのままレインの戦闘を見ていると胸の中のざわついた何かに押しつぶされそうだったからだ。


「やっほ~~い! 事件ですぞ~! 事件事件!!」と、リリティはイレアと席を変わり、望遠鏡を覗く。


 しかし中を覗いた瞬間、リリティは先ほどのテンションはどこへ行ったのか、ピタリと動かなくなってしまった。ただ望遠鏡で遥か先を見つめている。


「リリティ……さん?」


 異変に気が付いたイレアはリリティの顔を覗き込む。リリティは声を掛けられたのも気が付かないようだ。ずっと望遠鏡を見つめたままその場で固まっていた。







 炎に包まれたレインはエルドラドの能力で凍ったテーブルを溶かしていく。

 相手は赤く染まっていくレインの髪と、彼の首筋に見え始める首を絞めたような文様を睨んでいる。そしてニヤリと笑った。いや、笑ってしまった……という言い方の方がいいだろう。綻んだ顔をすぐに戻す。

 そんな顔をするエルドラドをよそにレインは更に攻撃を仕掛ける為、ステップを踏む。そして斬り掛かって行った。

何度も繰り広げられる攻防、お互い一向に引かぬその攻撃。金属音が何度も部屋に響き渡る。そんな光景がいつまでも続くように思えた。


「長ッ!!!!!」


 突然、長室の入り口が開け放たれる。戦闘に水を挿された二人は同時に攻撃を止める。エルドラドはゆっくりした足取りでバエーシュマの元へ向かい、レインは飛び跳ねライの隣へ着地した。


「長! 大変です」


 部屋に入って来た伝令班の半獣がライの元へ駆け寄り声を出す。


「街の壁の外、三方面から敵勢。こちらに向かって進軍中です」


 頬杖を付いたままの体勢のライは、伝令班の言葉を無言で聞く。


「数は!?」隣にいたルイが質問すると「はっきりとは掴めてません! ショートゲートを使ってるみたいで……今言えるのは三方面に展開している奴らはどうやらこの街を取り囲むように進軍しているってことだけしか……」と言葉を渋らせる。


「へえ~~」


 ライはそれだけ言ってバエーシュマを睨む。


「言ったであろう? この街が安全というのは立証されてはおらぬじゃろうと」


 バエーシュマが笑う。


「最初からこうするつもりだったんだろ?」

「ふん、どうじゃろうな。お主がもう少し利口に話を進めてくれておったら、こうはならんかったかもしれんじゃろうがな」

「よく言う」


 ライは笑いながらも、また先ほどと同じように口から煙を出す。


「さあどうする? ワシらと同盟を結ぶか、戦争するか。答えを聞こうじゃないか? お主の自慢の()()()は特別な任務でこの街におらぬのだろう? 戦闘になればどうなるんじゃろうな……? 戦えぬ龍よ」


「……」


 すると開け放たれた長室の入り口から続々とバルベドの兵達が入って来る。


「さあ、降伏してもええんじゃけどなあ?」


 ニヤリと笑うバエーシュマの周りはあっという間にバルベドの兵達が囲んでいった。一番前にエルドラドが刀を握りこちらを見ている。

 部屋の入り口付近はバルベドの兵だらけ、部屋の真ん中にあるテーブルを挟んで街長同士が睨み合う。自分達の後ろは窓のみ……。


「レイン、もういい下がれ」


 ライにそう言われ席に着いたままの彼を見た。テーブルの上からではライの表情は見えない。

 レインは命令通りテーブルの上から飛び降り、刀を数回振ると鞘へと戻した。刀を鞘に戻すと体の炎も小さくなり、やがて消えていく。髪の色も若草色に戻り、首元の手形の文様も一瞬で綺麗に消えていった。

 すると後ろにいたアグニスがライの側まで歩き、長く垂れ下がったウサギの耳がヒクヒクと動かした。


「ライ……」とアグニスは耳を動かし声を掛ける。


「ああ、分かってる」


 ライは低い声でそう返事をするだけで動こうとしない。


「さあ、ライ殿。この状況下でどう出る? まさか怯えて言葉も出ないんじゃあ……」


バエーシュマが話を始めると彼の左耳辺りの髪がふわりと動く。その後すぐにパーンッと軽い発砲音が鳴り響いた。


「ななな!!?」


 バエーシュマが叫ぶのと同時に、彼の左耳には微かに傷ができ、血が滲んだ。


「えっと……そろそろそのうるさい口閉じてもらってもいいですか?」


 振り返るとそこには笑顔で拳銃を構えているミネルの姿だ。構えた拳銃からは薄っすら煙が出ている。


「に、人間の造った兵器か!?」


 バエーシュマの叫びに周りの兵達は刀を抜き出す。


 それと同時に、「窓を開けろ!!!」と、ライが大きく叫んだ。


その言葉に合わせルイ、アカギクが後ろにある大きな窓を開け放つ。

 開け放たれた窓から突風が吹き荒れる。バサバサと巨大なタペストリーがたなびいた。

 その音に合わせて何か別の音が聞こえ始める。


「羽音?」


 レインは窓の外を見つめた。その羽音は数羽の鳥の音では無い。十、二十、いや、それ以上。

 すると日の差し込むカーペットとタペストリーに何羽もの鳥の影が映り込みだす。


「ななな!!」と、バエーシュマがまた大きく驚きの声を上げる。


 そこに一際大きな羽音が近付いて来ると、窓から巨大な鳥が部屋に降り立って来たのだった。

 いや、違う。鳥ではなく……。


「鳥人族……?」


 レインの言葉はその鳥人族の登場によってかき消される。


「ライ。これはどういう事だ?」と、部屋に入って来た鳥人族がライに声を掛ける。

レインの背丈の倍はある筋肉質な巨体。見上げるように彼を見ると口ばしは黄色く目は蒼い。髪は金髪、そしてアカギクと同じ首飾りをしていた。足は鷹などに似た爪を持ち、背中には茶色の翼が生えている。


「んん~~~ちょっと戦争?」と、ライはへらっと笑いその巨体な鳥人族に答えた。


「全く……わっちらがおらぬ間、何をしておるのだ?」


 急に女性の声が聞こえる。声の主はどうやら鳥人族の筋肉質な腕に座っている人物らしい。白のロングヘアー、薄手の布地で露出度の高い服装に身を包んだ女性がピョンと着地した。そして高いヒールを鳴らしながら歩き、ライが頬杖を付いているテーブルに座ると足を組みながらキセルを咥える。


「長はいつも面白いことに巻き込まれておるな」

「そうか? アリューク」と、豊満な胸を揺らし微笑む女性をライはそう呼んだ。


「いや、ライは子供の頃からなにかと首を突っ込む癖がある。だから誰かお世話役がいる」

「まあ、そう言うなクレシット」


 巨体な鳥人族に向かってライは微笑む。クレシットと呼ばれた大男はライの右側に立ち、大きな溜息を付いた。

 会合が始まってから全く動かず、同じ体勢のままのライは微笑みを続けバエーシュマを見る。


「護衛人……右腕のクレシットが帰って来るとは……。しかし! 街の外の軍勢はどうする!? 急な奇襲にお主も太刀打ちでき……」と、バエーシュマが声を出していると、突然部屋の入り口から伝令兵が血相を変えて駆け込んで来た。

バエーシュマに駆け寄ると耳打ちをする。彼の顔色が青くなっていくのがこちらからでも見て取れた。


「ああ、言い忘れてた。ジャングルとかはさ、俺の庭みたいなもんなんだ。もちろん俺の仲間もそうなんだが……」


 アカギクは青くなっていくバエーシュマの顔をおかしそうに笑い話す。


「そろそろ仲間(緑人族)がお前達の兵を取り囲んでると思うぞ? さっき帰って来た鳥人族と連携してるから、もう制圧してるかもだけどな」


 アカギクはそう言いながらライの左側に着いて笑いだす。


「……緑人族長アカギク」


 バエーシュマが低く唸る。


「お、お主……こうなることを予測していたのか?」


 バエーシュマの顔からは大量の汗が吹き出し始めていた。


「いや、ここまでは予測していなかった。けどまあアカギクには別の任務のついでに周りの警戒をさせていたし、クレシットも任務が問題なく終わったらこのタイミングで帰って来るかもなぁ、とは思ってたが」


 ライの言葉にアカギクは右腕をクレシットは左腕を出し、ライの頭の上でトンとぶつけ合い挨拶を交わす。


「さあ……誰が臆病者だって? 誰が戦えない龍だって? ぁあ?」と、椅子に座り頬杖を付いたままの体勢でシルメリアの街長は声を出す。

 バエーシュマはそんなライを見て「グヌヌ……」と歯を食いしばった。


「で? まだ俺達と戦争するわけ?」ライの声に合わせ後ろにいる全員が武器を構える。


 アカギクは緑人族特有の弓を、クレシットは拳を握り体勢を動かす。ミネルはリボルバーを握り、ルイは二本の刀を、レインはもう一度日本刀を鞘から抜いた。アグニスはライの後ろで眼鏡を上げ、アリュークはテーブルに座ったまま足を組み直しキセルから吸った煙を吐く。


「さあ、答えを聞こうじゃないか?」








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