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Blue Skyの神様へ  作者: 大橋なずな
第3章 シルメリア・ビースト会合編
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第3章 15幕

「ここに来るのも久しいな」


 ヤマト大佐は目の前に永遠に続く石畳の階段を進む。

 その階段の両脇には鳥居が続く。煌びやかな色合いをしているのが数えきれないほど並んだ鳥居は綺麗なのにどこか不気味みに感じた。

 初めて訪れたポルクルはそんな光景に言葉を失い息をのむ。


「これが神殿の階段……」

「なに? ポルクル大尉は初めて来たの?」


 オルバン中佐はポルクルの独り言に反応し聞いてくる。


「はい。天界の城に親衛軍として数年住んでいましたが、この区画は立ち入り禁止ですから。しがない一般兵はここまで来ることなどありませんよ。オルバン中佐はあるんですか?」

「うん。昨年ジュラス元帥と一緒に入り口までね」

「なるほど……」


 二人は会話をしながら黒騎士、ヤマト熾天使大佐の後に続く。

 久しぶりに帰って来た天界の城。しかし、そこはもう半年前までに自分が住んでいた場所とは思えないものだった。

 半年前に起きた悪魔襲撃戦、その傷跡はまだ大きく残されており、どこもかしこも修復が行き届いていない。嘗て自分の上官だったフィール元帥が愛でていた中庭は手入れもされずそのまま放置され、兄が殺されたあの渡り廊下は継ぎ接ぎだらけの板が敷かれていた。何とも無様だった……。


「人間の知恵を借りればもう少し早く復興もできるだろうに」と、その光景を見ながらオルバン中佐は嘆いた。元人間から見てもその光景は悲惨なもののようだ。


 さらに悲惨なのは親衛軍の現状だ。悪魔襲撃戦で上層部の者達がフィール含めほぼ戦死。その為、その全ての軍務を天界軍に任せている。貴族出の者達で構成された軍だ。皆が一致団結などするはずもない。自分が上層部の椅子に座るのだと皆が周りを蹴落とし合い、その結末がベルテギウスの元帥昇進という異例の事態を招いた。

 そんな現状を見てポルクルは自分がいた場所は何て脆く悲惨なものだったかを再認識する。自分が見て来たもの、信じていたものとは一体なんなのかと……。


「何か考えごとかい?」


 下を向いて黙っていたポルクルにオルバン中佐が声を掛けてくる。


「あ、いえ……」

「急にあんな風に扱われては君も驚くよね?」


 あんな風にとは先ほどまでの親衛軍のこちらに対しての扱いの事だろう。『元人間』『転生天使』『劣等種族』そんな目をこちらに向けてくる。黒の軍服に身を通しただけで、ここまでの迫害を受けるとは思わなかった。そして、嘗ても自分はあちら側だったのだと恐怖した。

 中界軍に入り、ヤマト大佐の後を追いかけて半年。いろんな価値観が変わった。今までの狭い視野が一気に広がった。

 貴族、天界天使……転生天使、元人間。それは自分たちが恐れ避けるほどのものなのだろうか。こうして今ともに行動している二人は元人間だ。しかし、自分と何か変わったところはあるか? 笑い、怒り、助け合う……。

 一度死を経験している。それ以外我々との違いは果たして……。


「もう着くぞ」と、前を歩くヤマト大佐が声を出す。


 永遠に続くかと思われた階段がようやく終わりを迎えた。

 階段を上り切るとそこには小さな瓦屋根の家屋があり、先には白い壁の大きなドームがある。

 門をくぐりその家屋の庭へと入った一向は、目の前に立ってこちらを見る少女の姿を見つけるのだった。







 ヤマトは神殿の入り口に立つ少女の元へ歩みを進めた。すると少女はヤマトに深々と頭を下げる。


「お呼び建てして申し訳ございません。巫女様が中でお待ちでございます」


 その声は透き通っていて、鈴の音のようだ。

 目の前の少女は頭を上げるとヤマトをしっかりと見つめる。この少女自身が天界巫女その人であることは最神であるシラと、熾天使の騎士のレイン、ヤマト以外は知らない事実……。ヤマトは目の前の少女『アカシナヒコナ』を見つめたが、何も言わずに後ろにいるオルバンとポルクルに振り向いた。


「悪い、ここで待っててくれ」

「はい、大佐」

「ごゆっくり」


 ポルクル、オルバンの言葉を聞き、ヤマトは腰に挿していたサーベルをオルバンに渡す。


「行って来る」と、前を向き少女の後を歩いた。






 プラネタリュームのような半球状の部屋げ広がる空間は相変わらず透き通っていてひんやりと涼しい。

  少女が空間の真ん中を歩くと、歩いた足跡がまるで蛍が光るように柔らかい光を放ちだす。

  ポンッ。ポンッ。光は水面を波紋するように広がり、壁にぶつかると反響する。その後をヤマトも歩くと同じように足元が光を放つ。半年前に見た光景と同じだ。


「ここで……レインは」と、言葉を止める。その先を言うのを躊躇した。ここで魔王の目玉を埋め込まれ、シラを手に掛けようとした。そしてフィール元帥を殺した場所……。


  半球の空間の先には小さな祠が見え始める。その場所の松明だけ妙に明るい。その祠の両サイドには壺が要されており、その壺には榊が祭ってあるのが見えた。

 ヤマトはその祠の前に着くと座り深く頭を下げる。

 すると目の前に立つ少女はクルリとヤマトの方を振り向き、ヤマトの目の前に座ると同じように深々と頭を下げた。

 その瞬間、祠を照らしていた松明が音もなく消える。辺りは暗闇に包まれ、無音が訪れた。

 沈黙が数秒続く。すると、足元から先ほどの光の球が舞い始める。一つ、二つ、三つ……。

 無数に増えるそれは、何か規則性により増えたり減ったりしていく。まるで蛍が夜空を舞うように光が部屋を舞い始め、地面の水面がそれを反射させる。


「顔をお上げになってください」


 ヤマトは無言で顔を上げる。少女もヤマトを見た。


「急にお呼びだてして申し訳ありません。ヤマト様」

「いえ……。して、私をお呼びになったのは……」


 ヤマトの言葉に天界巫女『アカシナヒコナ』は微笑む。


「いつもの口調で構いません。この度はわたくしと二人、他の者に聞かれることはございません」

「……」


 少女の顔を見つめ、ヤマトは少しの間考える。しかし「分かりました」と、返答した。


「では、巫女様。何故、今回自分だけをお呼びに? この地には元帥又は最神と共にしか入れぬ土地。本来は姫様も呼ぶものがどうりでしょう」

「それは、今回の事を姫様にお話しするかを私が決めかねているからでございます」

「……?」


 ヤマトの不安そうな顔を見て、アカシナヒコナは少し困ったような顔をした。


「では、お話しします。わたくしは千里眼の力を持つ巫女の家系に生まれた者。力を使い現在、未来を見る者の末裔でございます。今回、わたくしは新しいお告げと、真実を授かりました」

「……」

「レイン様の消息が分かりました」

「レインの!?」


 その言葉にヤマトは一瞬声を上げた。


「はい、あのお方は今、要塞都市シルメリアにおられます」


 喜びの声を上げたヤマトはアカシナヒコナの淡々とした言葉に唖然とする。


「シルメリアって。あいつ……また、どえらいところに身を隠して」と、ヤマトは地名を聞いて大きく溜息を付く。

「いえ……これはレイン様のご意志ではございません」


 アカシナヒコナは顔色を変えずにヤマトを見つめる。


「と、言いますと?」

「はい。彼は私の妹と行動を共にしております」

「妹? 巫女様は妹君がおいでだったのですか?」

「はい、双子の妹です」

「で、何故レインとその妹君が一緒に?」と、話掛けてヤマトはふと気が付いたようにアカシナヒコナを見つめる。


「巫女様はこれを予測してレインを脱獄させた……のですか?」


 アカシナヒコナは首を縦にも横にも振ることをしない。


「世界が変わろうとしています。レイン様がもしこの天界の城に残っていたら……世界が、また同じ過ちを繰り返す……そうわたくしは感じたのです」

「……?」


 ヤマトはその言葉の意味が理解できず口を閉ざす。


「世界を変える力とは……初代最神ゼウスの魂を持つ『シラ』様。初代魔王サタンの魂を持つ『レイン』様。そして『ヤマト』様、貴方でございます」

「はい。それは以前お聞きしました」

「ヤマト様、あなたの魂は天使階級最高位、力と戦を司る『セラフ』その人。『熾天使セラフ』の魂の所有者であり、この地で()()()()()()()()()()()()()()()()()です」

「……え?」


 その言葉にヤマトは一瞬間抜けな声を出す。


「じ、自分がセラフの生まれ変わり……と? あの熾天使の騎士階級の元になった六枚翼。ゼウスの片腕……とおっしゃるのですか?」

「はい」

「で、でも……シラもレインも魂の所有者という自覚が半年前の事件で起きています。自分にはそれがありません。過去の記憶が呼び覚まされることも無い。なのに……?」

「はい」


 動揺したヤマトの言葉にもアカシナヒコナは淡々と答える。


「それは……」と、ヤマトは告げられた真実に戸惑い大きく溜息を付く。

 そして何かに気が付き、細めていた目を見開く。


「お待ちください巫女様……では、俺がレインと共に感じていた『腐れ縁』とは……まさか」

「はい。お察しの通りでございます」


 アカシナヒコナは顔色を変えていくヤマトを見つめる。






「前世であなたはサタンを……()()()()()()()()()()()()()()()






 その言葉を聞いて息を飲む。


「俺が……レインを殺した?」

「はい。正確にはセラフがサタンを殺した、ですが」

「……おいおい。まじかよ」


 ヤマトは小さな声でつぶやく。


「俺があいつとは前世からの腐れ縁だって言ってたのは……俺があいつを殺したからだった……ってか?」

「……」

「これは、シラには言えないな……」

「……」


 ヤマトは顔を伏せ、手を額に持っていく。


「悪い冗談だ」と、ヤマトは独り言のように話し出し、天界巫女はその言葉を何も言わずに聞いた。


「それで? 巫女様はレインがこの天界の城に残っていたら、世界が同じ過ちを繰り返すかもしれないとお考えになったということは……」

「……はい」

「はぁ。頭がキレると嫌な部分まで見えちまう……クソッ」と、ヤマトは苛立ちを隠せずに声をだす。


 そして伏せていた顔を上げ、巫女の顔を見つめた。


「このままレインがこの地に留まっていたら、いや……。俺達三人が同じ場所に留まっていたら、世界は過去と同じになる。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()ってことでしょ?」


 ヤマトの出した結論にアカシナヒコナは何も言わずに首を縦に振った。




「つまり、()()()()()()()()ってことでしょ?」








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