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Blue Skyの神様へ  作者: 大橋なずな
第3章 シルメリア・ビースト会合編
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第3章 11幕

 大型バス、太陽光パネル、冷蔵庫……。その上を慎重に歩いて行く。目の前にあるのは中に木々が生えてしまっているドラム缶洗濯機。レインはそんな光景を見ながら二人の後を追った。

 日差しが照り付けている遺跡の入り口だが、所々から大きな木々達が木陰を作っているのでそこまで暑く感じない。その足元はもちろん人間の作った過去の産物だ。


「ここまで……中界の物と変わらないなんて」


 レインは目の前にある洗濯機を撫でながら言った。表面はすでに劣化していて、ざらついている。動揺を隠しきれない一言に、前を歩くミネルが振り返った。


「中界って今人間が住んでる世界の事だよね? この世界より下にあるっていう」

「ああ、そうだよ」


 レインはそう言ってミネルの方へと歩き出す。

 沢山の過去の産物が山になり、その山は巨大なビルのような建物に続いている。そのビルがどうやら遺跡のようだ。急斜面になっているその場所に向かって足を進める。


「じゃあ、レイン君はここら辺にある物がどんな用途で使われてたのか分かるの?」


 ミネルは横を通り過ぎるレインを見つめながら、歩くスピードを合わせ会話を始めた。


「大体はな。見たことのない物もあるけど、俺が人間界で使っていた物に近いのは多いよ」

「すごい!! 何で同じ形状の物なんだろ?」


 ミネルは目をキラキラさせながらレインを見る。


「さあ、天界で生活していた祖先が今の中界に生きる人間だから……中界の人間たちは過去の記憶を元に復元してるのかもな」


『間は天界に住んでいた頃の記憶を薄っすらと覚えていて、それの擦り合わせで現代の神話やファンタジーなどを空想上の産物として認知させている』、という過去にしたヤマトとの会話を思い出す。

 今、中界に住んでいる人間達が開発したと思われている鉄や電気機器、ダイナマイト……それは過去にこの天界ですでに開発していた物で、それの再現を現在の中界に住む人間が行っているのであれば、この世界にこのような遺跡があってもおかしくない。


 その開発を行わなくなったのは天界に人間がいなくなったこと、そして天界天使が人間を迫害していることが大きいだろう。

 レインはそんな仮説を考えながら目の前の険しい道のりを上っていく。

 ミネルは次なる質問をしようと口を開けたが、険しい顔をしているレインの横顔を見ると、口をそっと閉じた。


「おい。遅いぞ」


 すでに遺跡の入り口に辿り着いたルイが不満そうに二人を見下ろす。

 そのふて腐れた顔にレインは一瞬苛立つが、何食わぬ顔でその入り口へと向かった。

 入り口はビルの屋上近くに開いた穴だった。ビルは周りの瓦礫山たちに支えられているように佇んでいる。場所は大体十五階辺りだろうか。上を見上げると、あと一、二階を残していた。形で言えば学校校舎に似ている。しかし、その全容ははっきりと見えない。それは古き時代からの長い年月で起きた劣化や、ジャングルの植物が生い茂っているからだ。


「すごい景色だな」


 入り口から先ほどまで登って来た瓦礫の山を見下ろしつぶやく。


「そうだね。ここまで山積みにする必要ってなんだろうね」


 ミネルはレインの横に来てそう言った。


「元々、今の居住区にも人間の瓦礫はあったらしいんだけど、街を作り始めた先代達がこの区画に要らないものを集め始めたのが始まりって聞いてるよ。その瓦礫を取り除いて出来たのが今のシルメリア」

「こんな瓦礫なんて邪魔なだけだからな」


 ミネルの言葉にルイが鼻を鳴らしながら付け加える。


「あっち側は?」


 レインはさらに南の方を指さす。そこは瓦礫が崖崩れを起こしたように投げれ落ちている区画だった。雪崩の始まりはこのビルの端からのようだ。何か大きな影響によって瓦礫が一気に雪崩れている。


「ああ……えっと……そこは」とその質問にミネルは言葉を濁した。


「??」


 レインが不思議そうにミネルの顔を見ると、ミネルはルイの顔色を窺う。


「そんな事より、中に入るぞ」


 ルイはその視線に少しばかりアイコンタクトをして、顔を背けるとズカズカと中に入って行く。


「う、うん」


 ミネルはバツの悪そうな顔をしながら彼の背中を見つめた。


「さ、中に入ろ」


 ミネルはパッと明るい声色に変えレインを中に促す。


「……ああ」


 レインは二人の不穏な雰囲気を感じながら中へと入って行った。






 ビルの中に入ると、そこは何かの実験施設だったようだ。大きなプロジェクターや電子機器が壊れた状態で残っている。パソコンらしきものや、電子メーターに近いもの、大きなパイプ管も通っていた。


「足元に気を付けてね。たまに穴が開いてるから」


 ミネルの声を掛けに辺りを見回しながら歩いていたのを止め、レインは足元を注意した。

 中は薄暗いが、ガラスの割れた窓から外の日差しが差し込んできている。ジャングルの木々達もそこから中へと侵入して来ていた。


「多分博士は下の階にいると思うんだ」とミネルが説明する。


 一番前を歩くルイが一瞬立ち止まるとこちらを振り返った。


「このまま最下層に降りるぞ」

「うん」


 するとルイは立ち止まった場所で大きく翼を広げつつ前へ倒れ込み、そのまま下へと消えて行った。


「大きな縦穴があるんだ、ここから下降して遺跡発掘をするんだよ」


 ミネルは翼を広げながら説明する。


「ここはなんの施設なんだ?」というレインの質問にミネルはすこし困った顔をした。


「何だろうね。長年ここの調査をしてる博士は人間が生活に使っていた『電気』を生成する場所なんじゃないかって言ってるけど。どうやってその電気を生成していたのかはまだ分からなくて」

「電気……発電所ってことか?」


 ミネルの言葉に辺りを見回す。先ほど瓦礫の山の中に太陽光パネルを見たが、それに関連しているのだろうか。場所的にはスコールなどで起こる水力発電? いや、何万年前のこの土地は今と同じ地形や気候とは限らない。なら別の何かでの……。


「レイン君?」


 ミネルはレインの顔を覗き込み不安そうに声を掛けてきた。


「あ、ああ。悪い」

「ううん……」


 ミネルは首を振り、微笑んだ。


「嫌な思いさせてない?」

「え?」

「昔の事……思い出しちゃうんじゃないかなって」

「ああ……人間の頃のってことか?」


 彼の不安そうな顔にレインは首を振った。


「むしろ懐かしいよ。死ぬまでの間使っていたものに近いものが見れたり、触れられたから」

「そう」


 そう言ってミネルは縦穴を覗き込む。


「さ、ルイに怒られちゃう。下へ降りよう」

「そうだな」


 そう話を済ませ、二人は翼を使いビルの中央に広がる大きな縦穴に向かって飛び降りた。






「うう……」と、声を上げながら身体を起こす。

 ここはどこだろうか。何度か瞬きをしながら、辺りを見回す。

 黒髪のストレートが動き、頭の上に置いてあった濡れたタオルがボトリと膝の上に落ちた。


「ああ! コハルちゃん起きた?」


 そう言って声を掛けてくるのは、親友のイレアだ。ピンクの髪、紅い瞳。そして緑人族特有の身体のあちこちから生えた植物が印象的な彼女。声を掛けられたコハルはそんな彼女の透き通った瞳と目が合い恥ずかしくなる。


「イレアちゃん……あの、私」

「も~ビックリしたよ~突然玄関で倒れるから」


 イレアはそう言ってコハルにコップ一杯の水を渡してくる。コハルは差し出されたコップを受け取り、辺りを見回した。


「イレアちゃんのおうち……?」

「うん。そうだよ。朝コハルちゃんがうちに来て玄関で倒れたの。覚えてない?」


 そこでやっと今までの経緯を思い出し、顔を真っ赤にする。


 そうだ。自分は昨日助けてもらったお礼を言いにイレアの家にまで来たのだ。なのに本人を前にして人見知りの自分は気絶してしまった……。


「ご……ごめんね」

「ううん。いいよ」


 コハルにイレアは微笑みながら近くの椅子に座る。

 ここはイレアとアカギクの家のリビング。コハルはそのリビングのソファーに寝かされていたようだ。開け放たれた窓の外はもう日が照り付けている。


「あ、あの人は?」

「あの人? レインさんのこと?」


 イレアは首をかしげながら答える。


「長に呼び出されてルイと兄様と役場に向かったよ」

「そう……」


 コハルはコップの水を見つめながら「レイン……」と名前を心に刻む。


「名前、レイン様って言うんだ」

「そうだよ。コハルちゃんをここに運んだのもレインさん」

「ええええ!?」と、つい大きな声を上げる。


「倒れたコハルちゃんをね、ひょいってお姫様抱っこしてね! かっこよかったんだよ~」


 そんなこちらの驚きの声に合わせイレアは話を続ける。


「お……お姫様だっこ」

「私も足を怪我た時にしてもらったことがあるんだけどね! かっこいいのぉ~」


 真っ赤にして頭から湯気を出しているコハルの横で、イレアは叫びながらもだえる。


「レインさん! きっと私の運命の人だよ! うん! そうに違いない!!」


 イレアは急にその場に立ちあがり、天井を見ながら叫ぶ。


「う、運命の人?」と、コハルはイレアの動きを見つめ質問する。


「そうだよ! ジャングルの中でね、私を助けてくれた時にね、感じたの!! ビビーーって」

「びびぃ……って?」

「そう!!」


 コハルははしゃぐ彼女を茫然と見つめる。


「け、けど……イレアちゃんは、ルイ君が……」

「あああああああ!! ダメダメ! ルイは駄目!!」


 その言葉をイレアは大きな声で遮った。


「ルイは幼馴染なだけ! 小さい頃、仲が良かっただけ!」

「そ、そうなの?」

「そうなの!!」


 イレアは大きく手を振り、否定するとまた椅子に座る。


「ルイなんて、いつもふて腐れた顔してさ。長の弟だからって態度デカいしさ。いいところ見つける方が難しいくらいだよ」

「そ、そうかなぁ」

「けど、レインさんはクールだし、強いし、優しいし!」

「う、うん」

「絶対! 私の運命の人だよお」と、イレアはうれしそうに話を続ける。


「おとぎ話に出てくる救世主様に似てない?」

「他の街から来た英雄の話?」

「そう、この街を守る為に来た英雄の救世主」


 イレアの言葉にコハルは「どうだろう」と、少しくぐもった声を出した。

 そして「救世主様……」と声に出す。


「レイン様が……救世主様」

「そう! どう? 街巫女のコハルちゃんはどう思う?」と問いかける。

 しかし「ん?」と、何かを思い出したように声を上げた。


「そう言えば、昨日コハルちゃんレインさんのことなんて言ってたっけ?」

「あ、ええっと……なんだったかな?」と慌ててはぐらかす。


「ま、いっか! コハルちゃんお腹すいてない? お昼にしようよ」


 嬉しそうに微笑む彼女は席を立つとキッチンへと向かっていった。

 そんな姿を見つめコハルは噛み締めると言葉をこぼす。


()()()()()()()……レイン様は我らの救世主様なのでしょうか。それとも……」





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