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Blue Skyの神様へ  作者: 大橋なずな
第3章 シルメリア・ビースト会合編
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第3章 3幕

 シクスのゆっくりとした足取りで二人は銀色の門までたどり着く。

 目の前には門に合わせるように街を囲む銀色の柵が永遠と見えていた。


「この門のショートゲートをくぐって街の中に入ります」


 イレアが門の説明を始める。


「銀色の柵が分厚いから外からの侵入がまず無理なんです。街に入るには四か所の各門で入場登録してからじゃないと入れないんですよ」

「なかなか厳しいんだな」

「いえ、そこまでじゃないですよ。この街シルメリアは商売の街なのでいろんな人達が来ます。中で問題があった場合の事を考えてのものなので、審査みたいなのは一切ないし、門前払いもまず無いです」


 イレアは不安そうな顔をするレインに微笑んだ。


「とりあえず入場申請ですね」

「ああ、そうだな」と、レインはイレアを抱えるとシクスからひょいっと降りた。


 彼の急な行動に一瞬「キャッ」と声を出す。顔を赤らめイレアは地に足を付けた。

 するとその声を聞いたのか門の管理室から見覚えのある顔がひょっこり顔を出す。


「ああああ! イレアが帰って来た!」


 その声は今日の朝聞いた狼人族の青年ダングだ。


「おやじ! やっとイレアが帰って来たぞ!」

「おお!? やっとか」


 ダングの叫びに大きな狼スグローグも顔を出す。


「しかも……男連れて」

「それは大事件だな」


 二人の言葉にイレアは髪を逆立てて顔を真っ赤にした。


「そんなんじゃない!!」


 叫びも虚しく、ダングとスグローグは「ふーん」とレインをまじまじと見てほくそ笑む。

 彼はそんな二人の視線に少し戸惑いながらイレアの手を引いた。

 足の怪我の為に歩くのが困難なイレアは、レインの手を握って門の管理室までたどり着く。


「ってか、ダングもスグローグおじさんも朝はショートゲートの内門に居たのに、何で外門にいるの?」

「まあ、交代制だからな。昼からは外門担当なんだよ」


 イレアの質問にニヤニヤを隠せないダングはレインを見ながらそう話す。


「で? そちらサン、誰?」

「ジャングルでドドンガに襲われたところを助けてくれたの」

「ドドンガに?」

「そう、ちょっと……ね」


 イレアの歯切れの悪い声に、ダングとスグローグはお互いを見ると大きく溜息を付いた。


「なかなか帰って来ないから、まさかとは思ったが……そんな奥地に行ってたのか?」


 スグローグが少し呆れた声を出す。


「アカギクが心配してたぞ……」

「ギクリ……」


 イレアは自分の顔がどんどん青くなっていくのがわかるほど血の気が引いていくのを感じた。

 しかし、気を取り直すように大きく深呼吸をすると、レインに向かって「入場申請をしましょう」と声を掛ける。


「は~い、こちらに名前書いて~字書けないなら俺が書きますから~」


 ダングがレインを面白いものを見るかのように、笑いながら紙を渡して来る。


「あ、どうも」


 そんな視線に戸惑いを見せながらレインは名前を書いていった。

 イレアはレインの手元を覗き込む。名前以外は記入するところが無い。それはそれ以上の個人情報を必要としていないという事のようだ。


「で、このカードを街にいる間は持っててくださ~い。身分証明なので、街を出る時に返してください」


 ダングから小さなカードを渡されたレインはそれをまじまじと見つめた。この街に来たことのない者にとっては珍しい物だろう。


「次は私ね!」


 そう言うとイレアは左腕をダングに見せる。


「ほいほい」とダングは声を出し、イレアの腕にある入れ墨にグレーの色の箱を持っていくと赤い光線を当てた。


「え?」


 イレアはレインの驚きの声に振り返った。彼はその小さな箱を驚いた顔で見つめている。


「どうしました?」

「それは……」

「遺跡の産物だそうです。ここの住人はこうやって腕にタトゥーを入れて登録してあるんです。この箱が遺跡と繋がっていてその管理をしているそうですよ」

「……」


 イレアの言葉にレインは少し険しい顔になり、ますます箱を睨む。大体の天使はこの箱を不思議がるのだが、彼の驚き様は何かを感じているように見えた。

 しかし、イレアが不思議そうに見ているのに気が付くと「何でもない」と彼は笑って誤魔化す。


「はい、ゲートくぐってよ~し」


 ダングはそんな二人の会話をニヤニヤと見守り言った。


「早くアカギクに会って来なさい。心配しているだろうから」


 狼のスグローグに言われ、イレアは苦笑いをしゲートへと進む。

 レインはそんなイレアを支えながらカードを上着のポケットへとしまった。


「ようこそレイン。『要塞遺跡都市・シルメリア』へ。歓迎するよ」

「ありがとう、少しの間、邪魔をする」と、彼は微笑む。


 ダングは手を振って答え、スグローグはしっぽを振った。

 イレア、レイン、シクスの順でゲートを通過すると同じような門の管理室が目の前に現れる。それが街の内門だ。


「アカギクってのは誰なんだ?」


 レインの急な質問にゲートを抜けたイレアは恐怖に肩を震わせる。


「え~っと……私の兄です」

「兄貴?」

「はい……」と、それだけしか発することなく歩き出す。


 その先には長い坂道の街並みが見える。

 赤土のレンガで出来た家屋が続き、山頂辺りから翼で飛行している天使の姿も見える。

 日が少し傾き出したそんな時間。いつもの街並みだ。


「と、取り合えずマーケットに行ってもいいですか? このまま……家に帰れない」

「何かあるのか?」


 イレアは少し照れ笑いし「プレゼントを買いに行きたいんです」と言った。


 ◇


 二人は坂道になっているマーケットを訪れる。

 日よけの為に張られた布テントに、地面に広げられた敷物に並べられた商品。

 壺や民芸品の店が所狭しと並び、その先に食料品の店が並ぶ。

 立ち寄った店はそんな出店の奥にある専門店だ。

 イレアはおぼつかない足取りで店内に入ると、目的の商品に向かって「これ! 下さい!!」と叫んだ。


「はい、毎度あり」


 店主が手際よくその商品を高級そうな箱に詰めていく。

 イレアは先ほど薬草のクリプトポダを換金した金貨を店主に渡した。


「はい、確かに」


 店主は銅貨のお釣りと、丁寧に小さな箱をイレアに渡してくる。

 イレアはその箱を大事そうに受け取った。

 顔がついついニヤケる。それもそうだ。一か月も前からこの商品を狙ってたのだから。

 そんな自分を若草色の髪をしたレインという青年は店の外で待っている。どうやら街並みが珍しいようだ。店先で腕を組み、辺りを見つめている。


「終わりました!」


 イレアが店から出ると彼は笑いかけてくる。そんな少し大人びた微笑みに顔を赤らめた。


「で、もう家に向かえばいいのか?」

「はい、すみません。なんか……成り行きでここまで付き合わせてしまって」

「構わないよ。街に入る方法とか知らなかったから俺も助かった」


 そう言ってレインはイレアをシクスに乗せる。

 あれからシクスは少し信用してきたのか、イレアだけ背に乗せても抵抗しなくなっていた。


「道案内頼むよ」


 レインがシクスの手綱を引き歩き出す。

 夕方に差し掛かる時間。やはりマーケットは賑やかだ。道は込み合い、なかなか前に進めない。

 シクスに乗っているイレアはいつもと違う高い目線での光景に心が躍っていた。

 野菜や果物のお店や飲み水専門店はもちろん、この街の名産であるシルクの販売店がいつもより良く見える。

 いつもは見えない店の奥に飾られた刺繍が入った布地が目線が高くなることで目に入る。イレアはその煌びやかな色合いに目が奪われた。


 ーーあんな高級な刺繍のお洋服なんて、結婚式とかでしか着れないんだろうな。


「どうかした?」

 

 そう声をかけられたイレアはレインに向かって首を振る。まさか自分の花嫁衣装を思い浮かべていたなんて言えない。

 レインは首を傾げて不思議がるが、混雑したマーケットを進むために前を向いた。

 しばらく賑やかなマーケット大通りをレインと会話をしながらゆっくりと抜けて行く。彼にこの街の説明をするのはとても楽しかった。

 そんな二人は賑やかなマーケットを見下ろすまで歩き続け、住宅地に進んだ。

 イレアの家はそんな山の中腹にある住宅地の中にある。ようやく家にたどり着いたと胸を撫で下ろしていたイレアは自分の家の屋根を指差し声を上げた。


「あれが私の家で……」


 しかし、目にある人物が見え始め言葉を発するのを止める。明らかに怒りを露わにしているその人物に冷や汗が止まらない。

 その人物はマラカイトグリーンの髪に特徴的な真っ赤な瞳。身体には植物が生えており、額には葉で出来たバンダナを付けている。背丈は年齢にしては低く、今日で二十五になる歳とは思えない幼い見た目だ。


「あ……兄様(あにさま)

「え?」


 レインは目の前の家の前に佇むその青年を見つめる。


「い~~れ~~あ~~」


 こちらに気が付いた青年は怒りのこもった声で叫んできた。


「ひ~~~~~!」


 イレアは真っ青な顔をして背筋を凍らせた。

 兄はそんな妹のところまで歩いてくるとギロリと睨み付ける。


「お前! 今までどこに行って!」

「兄様! 待って、待って待って! 説明する! 説明するから!」


 兄の怒りの雷を避けようと、イレアはシクスから降りようともがく。

 そんなイレアをレインは支えゆっくりと降ろした。


「これ!」


 そう言ってイレアは怒りで顔が引きつる兄に向かい先ほど購入した箱を差し出す。

 箱を開けた。中にあるのは赤いベルト、細かな装飾の付いたカラクリ腕時計だった。


「兄様、誕生日おめでとう!」

「……は?」


 突然の言葉に兄は怒りの言葉を飲み込んだ。


「前から時計が壊れたって悲しんでたから、どうしてもこれをプレゼントしたくて……」と、震える手で兄にその箱を渡す。


「前からずっとお金溜めてたんだけど……全然足りなくて。クリプトポダを採取して換金すれば、ギリギリ足りる金額だから……朝採りに行ってて」

「一人であんな危ない地域に!」

「すぐに見つけられると思ってたの……だけど、なかなか見つからなくて」

「……」

「で、危ないところをこの人に助けてもらったの」と、隣にいるレインを紹介する。


「お前が?」


 兄はそう言って彼をまじまじと見た。


「それで……足を怪我しちゃって……ここまで送ってもらったの」


 イレアが不安そうに兄の顔を覗き込む。

 上目遣いなイレアの視線に、兄は大きな溜息を付きこの状況を飲み込んだ。


「分かった。詳しくは中で聞くとして……プレゼントは受け取っておく」と、イレアの頭をポンポンと撫でた。


「で? うちの妹が世話になった。アカギクだ」


 アカギクは自己紹介をするとレインに握手を求める。


「レインです」


 レインもその手に答えながら名前を名乗った。


「旅の者か? 今晩の宿は?」

「いや、まだこの街に来たばかりで」

「わ、私が買い物に付き合わせちゃって……」


 アカギクとレインの会話に急いでイレアが入り込む。


「分かった。礼に夕食をごちそうする。離れにある小屋に使ってないベッドがあるから、今日はそこに泊まるといい」


 アカギクの微笑みにレインは「いいんですか?」と言う。


「なんのもてなしも出来ないけどな」


 アカギクの笑顔にイレアは胸をなでおろしたが、「ただ、説教は夕食が終わってからだな」と、こちらを睨まれる。


「はわわわわ~」


 恐怖を感じ、イレアは今日一番の声で叫んだ。

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