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Blue Skyの神様へ  作者: 大橋なずな
第3章 シルメリア・ビースト会合編
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第3章 2幕

 目の前の滝面が凍る水辺に佇む青年を見つめた。

 先ほどまでの戦闘が嘘のように辺りが静かだ。

 その静かなジャングルの中に、まるで昔読んだおとぎ話のように……水面に青年が立つ。


救世主(メシア)


 イレアの言葉と同時に彼は水面にある岩から歩き出し、こちらに向かって来る。


「大丈夫?」


 青年はイレアの隣まで来るとそう声を掛けて来た。


「あ、えっと……」


 茫然としていたイレアはその声にとっさに反応する。

 しかし、彼の恰好を見て「わわわわ!」っと声を上げた。


「え? あ! ああ! ごめん!」


 イレアが顔を真っ赤にしていることで、青年は自分が下着姿だった事を思いだし、慌てて声を上げる。

 そしてバタバタと地龍の近くに走って行き、置いてあった服をモソモソと着始めた。

 イレアはその光景を見ないように滝面の方を向く。

 少しすると彼はまた同じようにイレアの前に立ち「ごめん! 怪我してない?」と顔を覗き込んで来た。

 カーキーのパンツに黒のブーツ。彼の若草の髪は赤のリボンで括られている。

 座り込んで動けないでいたイレアはその言葉に「はい」とだけ返事をして立ち上がった。


「ィッた……」


 イレアは急に左足へ痛みを感じ、グラリと身体が揺れる。そんなイレアの身体を青年は「おっと」と支えた。


「足、腫れてる」


 自分の足を見ると、くるぶしが真っ赤に腫れていた。


「逃げるときに捻ったのかな? 気が付かなかった」


 イレアは自分の足を見つめる。


「立てる?」と、青年がイレアの手を引いく。


 イレアはそんな青年の手の温もりに顔を真っ赤にしてしまった。


「あ! ごめん! 嫌だった?」


 そんなイレアの顔を見て青年が手を放す。


「いえ! そんなこと!」


 イレアは首を大きく振って答えた。


「けど……ごめんなさい。足場が悪くて歩けそうになくて」


 イレアはそう言って自分の足場の大粒の砂利や岩を見た。

 滑りやすい上氷結系の能力を使っている場の為、さらに動きにくくなっている。


「ああ……」


 青年はそんな足元を確認すると声を出す。


 そして「ん~~。ごめん」ともう一度謝る。


「へ?」


 イレアはそれだけ声を出すと、自分の身体がフワリと宙に浮くのを感じた。

 彼の若草色の髪が自分の顔の前に来るのが見える。

 ここで初めて自分がお姫様抱っこをされているのに気が付いた。


「ええええ!」


 思わず声が出る。


「少し我慢して」と、足元の岩や砂利をテンポよく踏みながら移動していく。


 軽い動きにイレアは彼の首にギュッと抱き着いた。

 青年は自分の荷物が置いてあるたき火の前にたどり着くとフウッと溜息を付く。


「もういいよ」


 青年はそう言ってゆっくりイレアを下ろす。


「え? あ!」


 そう言われてイレアは青年の首に回していた腕を解いた。

 お互いが手を放しそっと離れる瞬間ーーグウウウウウウウウ……。


「……」

「……」


 二人がその音に沈黙する。

 数秒経つとイレアは真っ赤にしていた顔を更に赤くさせる。

 それは間違いなくイレアのお腹の中が「空腹です!」と信号を鳴らした音だった。

 そう言えば夜明けから薬草取りに専念し過ぎて食事を取っていなかった。本来の予定で行けば朝食までには帰るつもりだったのだから、もちろん食料を持って来ていない。


「えっと……怪我の応急処置をしてから昼食にでもしようか?」


 青年は微笑みイレアに声を掛ける。

 イレアは恥ずかしさがピークになり「はわわわわわわわわ!」と声を出した。


「俺はレイン。君、名前は?」


 顔を真っ赤にしつつ「イレア……です」と縮こまりながら名前を伝えた。


「イレア……ね。昼食を取ったら家まで送るよ。その足だとまともに歩けないだろ?」


 腰のウエストバックから包帯を取り出しレインは話す。


「え? でも……」

「流石に怪我した女の子放置してってのは……」と、微笑む。

「家遠いの?」

「そんなに遠く無いです」

「集落がこの近くに?」

「いえ、街があります」

「街? こんなジャングルの中に?」


 そんなレインの言葉にイレアは首をかしげる。


「レインさんは街に来たんではないんですか?」

「いや……ゲートを使ってバルベドって言う街まで来て、そこから宛も無くフラフラ旅をしてたから。地理は全くで……」


『バルベド』という街はここから北に行けばある隣のビーストの街だ。自分の住む街よりは小さいが、そこそこ栄えているらしい。らしいという言い方なのは自分はその街まで行った事が無いからだ。


「バルベドから結構距離ありますよね?」

「そうだな。もう二週間ってところかな?」

「そんなに……」

「まあ、旅をしてるとそんなもんだよ」


 レインはそう言ってイレアの足に向かって人差し指を当てた。指先がひんやりと冷たい。氷結系能力を使っているのだろう。


「でも、こんなジャングルの中に街だなんて」


 レインが話を続ける。


「あ、ジャングルが濃いのは北の方だけで、南の方は街道があります」

「なるほど」


 レインはそう言ってイレアの足を冷やすと添え木をしながら包帯を手際よく巻いていく。


「回復能力は専門外だからこれで」

「はい。すみません」


 イレアは治療をしてくれたレインに向かって頭を下げる。


「いや、俺がもう少し周りに気を使って戦えばよかったんだ。ごめん」


 彼は立ち上がると申し訳なさそうに苦笑した。


「で? 君の住んでる街は何て名前?」


レインは包帯を元に戻しながら質問してくる。


「えっと……『シルメリア』です」


 そうはっきりと答えるとレインの顔が一瞬曇ったのが見えた。


「シルメリア?」

「はい。聞いたことありませんか?」

「あるよ。有名だ……」と、彼は右手を唇に当てて少し悩む。

「反政府組織……シルメリア」

「はい。外ではそう言われてます。けど、実際は普通の街と変わりませんよ?」


 イレアは自分の感じていることを伝えた。自分の兄も、街の長もみんないい人だ。政府に楯突くような人じゃないことぐらい知ってる。外で『反政府組織』何て物騒な名前を付けられているのが不思議でならないほどだ。


「本当の名前は『要塞遺跡都市、シルメリア』です」


 イレアの言葉にレインは首をかしげる。


「要塞?」

「はい」

「ふ~ん」


 少し悩んだ素振りを見せたが、イレアに「分かった」とだけ言い、近くに置いてある荷物から干し肉やパンなどの食料を取り出した。


「食事にしよう。お腹すいてるんだろ?」

「……!」


 イレアは先ほどの大きなお腹の音のことを思い出し、また顔を赤くした。

 そして二人は遅めの昼食を取ることにしたのだった。






 昼食を取り終わり、二人はレインの地龍に乗ってゆっくりとした足取りで街に向かって進んでいた。

 本来一人乗りの鞍の上に二人で乗るのは難しい。最初はレインは歩く予定だったのだが、地龍のシクスがイレアだけを乗せるのを嫌がってしまい、なんだかんだ二人で無理やり乗った形になってしまった。

 乗り方もレインの膝の上にイレアが乗るようになっていて、イレア自身かなり恥ずかしい。

 彼もそんな状態を申し訳なさそうにしていたが、二時間程歩くと二人とも慣れてしまい、何事も無く話をしながらジャングルの中を進んでいったのだ。


「あそこです!」


 イレアは目の前の山のようになる街を指さした。

 赤土で出来た土壁とあちらこちらから生える巨大な木々。

 そして街の数カ所の遺跡の建造物が進行方向に見え始める。

 急斜面になった山そのものが街になっているため、全容がよくわかる形状だ。


「あれが……」

「はい! 私の住んでる街。シルメリアです」


 イレアは半日ぶりの自分の故郷に嬉しくなり、跳ねるように声を出した。


「シルメリア……か」


 レインの歯切れの悪い言葉を聞きイレアは首を動かす。


「いや、行こう」


 レインはイレアの不思議そうな顔を見ると急いでそう言った。

 そして二人は大きな銀色の門へとたどり着く。

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