表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Blue Skyの神様へ  作者: 大橋なずな
第3章 シルメリア・ビースト会合編
59/128

第3章 プロローグ

大変お持たせ致しました。

第三章の更新をスタートさせて頂きます。

 俺はあの時、まだ幼かった。

 母が死んだ日……。

 あの日はスコールがいつもより長く、ぼうっと外を眺めて過ごす一日だったのを覚えている。

 人魚の母は汚染水の影響で身体が弱かった。それを父はいつも気にかけていて、母へ澄んだ水をと研究をしていたのは知っていた。

 その日も父は母の住む水槽(プール)に顔を出していた。

 義母はそんな父をあまり良くは思っていなかったようだ。そんな義母はいつの間にやらこの街から消えていた。

 兄貴は腹違いの弟である俺にも優しかった。

 人魚とのハーフである俺とは違い、龍人とのハーフである兄貴は俺の何倍も強かった。

 そしてあの日、あの事件が起きた。父も母も死んだ。兄貴も……戦えない身体になった。

 俺はあの時に誓ったんだ。兄貴に変わって『この街を守る』事を生きる意味にしようと。

 そして、この街に住むすべての人の為に生きようと。


 シルメリア……それが俺の生きる意味だと。





――BlueSkyの神様へ――



 第三章 シルメリア編







チャプン……


 手足を動かすと水面が揺れる。水の音が心地よい。水の中で目を開ける。水面の方へ手を伸ばすと、その手の先に光が当たる。透き通った水は蒼く光り、木々の影から漏れ出た光は自分の元へと注がれていた。

 このままでいれば自分は息が出来なくなり、やがて死ぬだろう。それでもいいかもしれない、なんて思えてしまう。しかしこのまま底に沈んではいけないと、体を動かし水面へ顔を上げた。


「ぷはぁ……」


 空気を肺の中に送り込む。

 木々の中での空気は水と同じで澄んでいる為おいしい。

 青年はそのまま岸へ向かうように泳ぐと、足が付く場所でザバンッと立ち上がった。

 背丈は年齢よりは若干低いが、肉付きのいい体は滑らかな風格だ。細身ではあるが鍛えられた身体で腕や足は筋肉で少しばかり太い。

 髪はつむじ辺りは若草色だが毛先に行くにつれて、深緑へと色が変わっている。グラデーションになったその髪は周りの木々に負けないほどみずみずしく光っていた。水に濡れた髪は肩まで延び、水滴が身体へと流れて行く。

 さらに天使の特徴である長く尖った耳。左耳には赤のピアスに黒のカフス。

 右目の金色の瞳とはどことなく年よりも大人びて見え、左目には大きな傷と共に真っ赤な獣に近い鋭い瞳をしていた。

 そして背中には白い翼が生えている。これは自分が四年前に人間としての死を経験した証でもある。


 青年はその場に佇み水に濡れた翼を大きくはためかせた。

 辺りの水面がその風により揺れる。その周りの木々達もだ。

 辺りは小鳥のさえずりや、近くにある滝の音以外は何も聞こえない。滝面の向こう側でウサギのような天界特有の小動物が、水を飲みにやって来ているのが見える。密林地帯であるこのジャングルでこのように落ち着いた空間はそう無いだろう。

 周りの木々達はどれも大きな葉や変わった形のものばかりだ。人間の頃ではテレビや植物園でしか見れなかった、ジャングル生息の植物達がところ狭しとお生い茂っていた。

 青年は大きく溜息を付き、空を見上げる。

 真っ青の空は雲一つない。


 そんなジャングルの大きな木々の間から見える空。降り注ぐ太陽の光に目を瞑った。

 少し肩に力を入れ能力を発動させる。その瞬間、身体全体は炎を纏い燃え盛った。一瞬の炎で身体や髪は綺麗に乾いていく。少しだけ若草色の毛先が赤く光る。しかし、赤い色素は炎が収まるにしたがって消えていった。

 身体を能力で乾かすと、その場から歩き出し、近くに置いてある自分の荷物へと向かう。

 たき火をしている周りにはこれまで使い古してきた道具達が並べられ、隣の大きな植物の上には自分の服が掛けられている。

 青年はその中で下着を手に取り履くと、下着姿のままで大きく伸びをした。


「グルルル……」


 伸びをした体勢に鼻息を浴びせられ、驚いて振り返る。

 そこには緑色の身体に黄色の背びれ、青年と同じ真っ赤な瞳の地龍がいた。地龍の中でも大人しい分類に入るこの子は四足歩行で、足も爪では無く樋爪。見た目も馬に近いフォルムだ。

 今も青年を乗せる為に背中には鞍が付けられている。


「シクス、どうした? 腹減ったか?」


 声を掛け鼻先を触ると、シクスと名付けられた地龍は嬉しそうに「グルル」と喉を鳴らした。


 青年は微笑み、さらに地龍の頬や身体を撫でる。そんな主人の行動にシクスは嬉しくなったのか、鼻先にある髭をユラユラ揺らし身体を動かした。身体の揺れに合わせて緑色の鱗が光る。

 その身体を更に撫でた。人間として生きていたらこんな風にドラゴン族を触ることも無かっただろう。

 こんなジャングルで小鳥たちの声を聴きながら昼食を取ることも、宛も無く『天界』を旅することも無かっただろう。


彼女と会うことも、恋することも、生き続けることも……無かっただろう。


「はあ……」


 もう一度大きな溜息を付いて、残りの服を着ようと大きな葉に手を伸ばす。


 するとけたたましい音と共に滝面の向こう側にある岩場が崩れる。

 とっさに隣に置いてあった刀を握り、瞬時に体勢を低く保つ。そして煙の炊き込める場所を睨んだ。


「ええええ!?」


 煙から現れた人物がこちらに向かって叫ぶ。その声からして若い女性だろう。

 青年はさらに目を凝らした。

 煙が晴れていく……そこに現れたのは全身がやや緑がかった肌の色をした女性だった。頭の髪の色も花を思わせる薄いピンク、そして民族衣装のような服装。


「ビースト?」


 青年はボソリと声を出した。


「あ~、えっと……」


 滝面の向こう側でビーストの女性が何か言おうとしている。

 しかし、それは第二派の爆発音によって消された。

 音に合わせて女性が叫び滝面へ飛び込む、その瞬間に後ろから巨大な獣が姿を現した。

 肉食系動物だろう。牙が鋭くこちらを向き、目は怒りのままに光る。イノシシに近い体型だが、大きさが桁違いだ。牙は鋭く樋爪も大きい。ドス黒いガサガサの毛並みで、耳は体格に不似合なほど小さかった。

 そんな自分の十倍ほどあるであろう獣に向かって青年は軽く地を蹴ると抜刀し、立ち向かう。

 ビーストの女性の方へと軽い足音で走り込む。青年は抜刀した刀へ能力を注ぎ込み、水際でストンッと飛び跳ねると怒り狂う獣に向かって斬りかかった。


 辺りの空気が静寂になる。青年が場の空気を一気に冷却したからだろう。

 急な変化に獣は一瞬怯む。その瞬間を見測ったように斬りかかった刃を獣の額に向けた。

 獣の牙もまた同じようにこちらに向かう。しかし青年はまるでダンスを踊るかのように、その牙をフワリと交わし斬り込んだ。

 獣の額には大きな切り傷が出来上がり、真っ赤な血が水しぶきと共に宙を舞う。

 青年は血しぶきを浴びながら滝面の岩に着地し、ステップを踏むようにもう一度飛び上がる。そして空中で身体を回転させながら今度は獣の背中に切り傷を付けた。


「グオオオオオオオオ!!」


 獣が悲痛な雄叫びを上げる。その声にまた水しぶきが上がった。

 ジャングルの木々が揺れ、隠れていた鳥たちが一斉に空へ逃げていく。

 そんな中、青年は背中の翼を広げ少しばかり浮遊すると、滝面の岸にたどり着いた女性の横へと着地した。

 女性はそんな青年を見つめる。その視線に気が付き「大丈夫?」と声を掛けた。


「あ……はい」


 女性は茫然と返事をする。


「あの獣、殺しても問題は?」


 青年は額と背中に傷を負い、もだえ苦しんでいる獣を見つめて質問した。


「それは出来れば避けたいです。この周辺の主なので……」

「ジャングルのパワーバランスが崩れるってことか」

「はい。けど……」と、女性はその先の言葉を濁した。


 敵を殺さずにこの場から逃げる、又は退却してもらうとは虫のいい話だと言いたいのだろう。


「分かった」


 青年はそれだけ言うとまた軽く地面を蹴り上げ、獣に向かって刀を構えた。

 だが今度は斬りかかるのではなく、刀に能力を最大限にため込み獣へ冷気の突風を浴びせる。

 その場の木々達も、水辺も全てが白く凍っていく。

 獣は下半身が凍っていくのに恐怖したように数歩後ずさりをする。そしてそのままゆっくり向きを変えると、ジャングルの中へと消えて行ったのだった。

 滝面の真ん中にある岩に軽い音で着地した青年は獣の背中を見守る。

 そして刀の血を払い、翼をフワリと動かした。

 そんな青年の周りには温暖な熱帯雨林のはずなのに雪が舞っていた。




挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ