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Blue Skyの神様へ  作者: 大橋なずな
第2章ノ弐 最神成人の儀編
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第2章 28幕

『悪魔だ! 殺せ!! 呪いだ! 殺せ!!』


 身体の中は自らの意志以外の感情が渦巻く。

 ヤマトは自分の刀を掴むと大きく深呼吸した。


「この感じ……ずいぶん久しぶりだ」


 隣にいた中将が小さく吐く。そして目の前に広がる白い鎧の敵襲を見つめた。

 ヤマトは中将の言葉に答えることが出来ず、ぐっと歯を噛み締める。


 天使と悪魔の関係。それはお互いを認識した瞬間、脳裏の中で呪いが発動する。

 相手を『殺せ!』と魂が叫びあう。目の前の黒いコウモリのような黒い翼が憎くて憎くて仕方がない。自分では冷静になれ、落ち着けと感情を抑えようとしても魂がそう叫ぶのだ。

 この呪いのせいで長きに渡り、天使と悪魔は戦争を繰り広げている。


 急にヤマトの服の裾が動く。後ろを振り返ると、ポルクルが苦しそうに胸を押さえて息を上げていた。


「大丈夫か?」と声をかけるとポルクルは苦しそうに頷いた。


「流石に悪魔の呪いを感じたら……」


 中将の言葉にポルクルは首を振る。


「それだけじゃないです」

「……?」

「心臓が痛い。誰かに掴まれているみたいな……」


 ポルクルは心臓を抑えるようにうずくまる。ヤマトは徐々に歩みを進めて来る悪魔の軍隊を見つめながら、彼を自分の方へ引き寄せた。


「閣下……どうします?」

「このままだとここは戦場になる。けど、この場に俺達が居ても他の軍とのイザコザになりかねない。徐々に後退しながら城へ向かうぞ。それから中界軍の基地へ応援を要請する」

「ですね」と、中将もその意見に賛成する。


「最神とレインはどこにいる?」

「今の時間だとまだ神殿にいると思います」

「一番安全な場所にいるなら問題ないな」

「はい」


 ヤマトの言葉にジュラス元帥は後ろの居る小隊に向かって手を上げる。すると小隊のメンバーは陣形を取り直した。

 天界軍が悪魔の軍隊へ特攻していくのが見えた。どうやら戦闘を始めたようだ。


「お前ら悪魔の呪いに惑わされるな!! 己を失うなよ!!」

「はい!」


 ジュラス元帥が声を出し、小隊が動き始める。それと同時に天界軍の攻撃を受け始めた悪魔の軍隊が、陣形を崩しながら周りの天使達に攻撃を開始し始めた。

 その数体がこちらにも向かって来る。


「戦闘開始!!!」


 ジュラス元帥の言葉に合わせ、周りの黒い軍服は攻撃を開始する。


「中将!」

「分かってますよ!」


 ジュラスの言葉に中将は叫びつつ、前線に出て行く。

 ヤマトは苦しそうにしているポルクルを左脇に抱え込み右手で刀を握った。


「ヤマト、お前は俺とだ」

「はい」


 ジュラス元帥の声に合わせヤマトも動きだす。

 周りはすでに戦場へと化していた。天界軍の兵士はある程度戦闘経験があるにしろ、やはり悪魔軍に押されている。親衛軍は戦闘経験が無い者ばかりだ。どんどん兵士達がやられて行くのが見える。白い悪魔の鎧は天使達の返り血を浴びながら前へ、前へと進んでいた。

 そんな戦場を駆け抜け中界軍の分隊は城の中へと進む。


「閣下!! 城の中もすでに敵だらけですぜ!」


 先行している中将が大きな声でジュラス元帥に叫ぶ。

 ヤマトは進む先を見上げた。先に見える城からは炎や黒い煙が見えている。


「ッチ!」と、ジュラス元帥は舌打ちをしつつ後ろに着いてくる仲間を見た。


「このまま城の中の非戦闘員を見過ごして、中界軍事基地に進む訳にはいかないな」


 そう言って一旦城の入り口でジュラス元帥は立ち止まり「戦場が広範囲だ! 各分隊に分かれて城の中の敵を排除する!! 俺と中将とヤマトはこのまま中界軍軍事基地に戻り、応援を要請する」と叫ぶ。


 兵士達は返事をすると、そのまま各方面に散っていった。残されたのはジュラス元帥と中将、ヤマト、そしてポルクル。


「フィール元帥んとこの双子、お前も一旦中界軍の基地に避難だ。いいな?」


 ジュラス元帥の言葉に、ヤマトの脇に抱えられたポルクルはコクンと頷いた。

 そして「ヤマト熾天使……ありがとうございます。もう大丈夫です」と声を出す。


「いいのか?」

「はい」


 力のない声を出しながらポルクルは自分の足で立つ。

 そして四人はそのまま煙の上がる城の中を進み始めた。

 城の中はすでに惨劇だった。破壊された外壁、血の染まる部屋、爆破された中庭……。非戦闘員達や親衛軍の死体があちこちに見える。

 破壊され、所々にしかなくなってしまった赤い手すりの渡り廊下を四人は走る。

 途中で現れる悪魔はほとんど中将の一撃必殺が潰していく。流石中界軍のナンバー二というところか……。

ヤマトはポルクルの横を離れないようにしながら、そんな中将の戦闘を見ていた。


「このまま突っ走れば中界軍のゲートがあるはずだ」


 少し息の切れたジュラス元帥はそう言った。

 すると目の前にグレーの軍人の集団が見える。


「あれは……ダスパル元帥?」


 ヤマトの声にジュラス元帥は走るスピードを落とし、そのグレーの五人の方へ歩み寄った。


「ダスパル元帥」


 その声に軍人達が刀を構えたままこちらへ振り向く。そこにジュノヴィスの姿も見える。彼は顔を真っ青にしてヤマトを見てきた。


「ジュラス元帥か、何故お主らがここに」

「それはこちらのセリフ。ダスパル元帥は会場にいらっしゃるのかと……」

「あんな戦場に叔父上が居ていいはずがないだろ!」


ジュノヴィスが甲高い声を出して叫んだ。


「そうしたらどうだ!? 城の中もこんな状態に!!」

「確かに……城の中にまで悪魔が侵入しているのは予想外でした。ゲートを設置していた……ということでしょうか?」と、ジュラス元帥はダスパル元帥に声を掛ける。


「先ほど先行隊から連絡が入った。監視塔の特殊能力部隊は全滅だと」


 その言葉に息を飲んだ。


「では、何者かが監視塔を襲撃し、悪魔がゲートを作成したと!?」

「そうであろうな。しかしゲート設置に時間を有する。となると今回の襲撃、かなり前からの計画であったのだろう」

「そんな……」


 ジュラス元帥はそんなダスパル元帥の淡々とした言葉に絶句する。


「で、ダスパル元帥はどちらに?」

「私は戦場に居ては足で纏いでな。城の中枢に本陣を敷くためにここまで来たのだ」


 ダスパル元帥は何とも冷静だった。しかし彼の瞳は悪魔に対する憎しみがにじみ出ている。


「ジュラス元帥達は……。ああ、自らの巣へと非難かな?」


 ダスパル元帥の皮肉に、隣にいた中将が一歩前に出る。

 しかしジュラス元帥がそれを手で遮り中将を止めた。


「いえ基地に帰るのですが、我々の軍の応援を要請しに……」

「ならぬ!!」


 ジュラス元帥の言葉に被せるように、ダスパル元帥は急に叫んだ。


「ならぬ!!」


 もう一度叫ぶその姿に、その場にいた全員が息を飲む。


「叔父上?」と、ジュノヴィスが不安そうにダスパル元帥に声を掛けた。

 ダスパル元帥の顔は先ほどの冷静さを失い、ジュラス元帥の顔を睨み付けていた。


「それは何故です?」


 今度はジュラス元帥が冷たい顔になり、睨み付けながらダスパル元帥に質問する。


「転生天使に……()()()()()()()()()にこの戦場を渡す訳にはいかん!!」

「そんなことを言っている場合ですか? この惨劇をご覧ください。非戦闘員も多くやられているのですよ?」

「ならぬ!! この戦場は我ら天界軍が動き、勝利に導かねばならぬのだ!!」

「それは……あなたのエゴです」

「そうだ! 私の……この先の計画の為だ」


 ダスパル元帥にジュラス元帥はぐっと歯を噛み締めた。


「悪魔が城に襲撃するなどというのは想定外だった……しかしこの戦場を我らが収束させれば、全世界に……」

「そんな戯言、どうでもいい」と今度はジュラス元帥が言葉を遮る。

「貴方の思惑は薄々分かっていた。しかしこの現状でまだそのような戯言を言うのですね」

「戯言だと? 私のこの計画を……愚弄するのか!?」


 ダスパル元帥の顔がみるみる強張っていく。

 そんな相手の顔を冷ややかに見つめて、ジュラス元帥は「貴方は上に立つ人ではない」と言い放った。


「我々は我々のするべき行動をします。貴方の戯言に付き合うつもりはありません。この惨劇を見ても自分の夢物語を見続けられるほど私は落ちぶれていない。貴方の野望は、この戦場で消えていく命より重いものだとは思えませんから」


 ジュラス元帥の言葉に反撃しようとダスパル元帥が口を開いた瞬間、目の前の庭が爆音と共に赤く染まる。


「閣下!!!」

「叔父上!!」


 ヤマト、ジュノヴィスが同時に叫び、お互いの元帥を守る。その場の全員が爆風で数歩下がった。

 すると天界軍と中界軍の間には、大きな爆発でクレーターが出来上がっていた。火の粉が辺りを多い、目の前の木々達が燃え盛る。


「行こう……」


 ジュラス元帥はそう言い残し、天界軍を背にした。ダスパル元帥はこちらの様子を睨み付け、自分達の進む方向へと向きを変える。

 そんな二人を見ながらヤマトはポルクルの肩を押し、自分の上官の背中を追いかけた。


「ヤマト!!」


 叫ばれたヤマトは先を進む中将を見る。すると彼は次の中庭の入り口で片膝を付いていた。

 その足元にはダークグリーンの軍服に赤茶の髪の……。


「兄さん?」


 隣にいたポルクルはボソリと声を出す。そしてヤマトの前を走り出し、中将の居る場所へ向かった。


「兄さん!!」


 軍服が真っ赤に染まるように、その場にうつ伏せで倒れている双子の兄……カルトル。


「え? うそ。兄さん!! 兄さん!!」


 ポルクルは兄を抱きかかえ、顔を覗き込む。カルトルの顔は真っ赤に染まり、動かない。


「嫌だ!! 兄さん起きて! 兄さん!!」


 ポルクルは必死に兄の身体をゆする。しかしそのカルトルの胸の部分はぽっかりと穴が開いていた。


「中将……これ」


 ヤマトがポルクルの隣に立ち、その光景を見ながら声を出す。


「ああ、誰かに心臓をもっていかれてる……しかもかなり強引にだ」

「そんな……」


 ヤマトは泣き叫び兄の亡骸を抱きしめるポルクルを見つめた。


「嫌だよ……僕を一人にしないでよお!」


 ポルクルは兄の頬に自分の頬をあて叫んだ。

 そんな叫びに、ジュラス元帥はヤマトの肩を叩く。ヤマトはその行動の意味を理解し、ポルクルの隣に片膝を付いた。


「ポルクル……」と声を掛けた時、またあの呪いの感情が沸き起こる。


『呪いだ!! 殺せ!!』そう頭の中が占領された。


「来たか!!?」


 中将が叫んだ瞬間、爆発音と共に後ろの外壁が崩れ白い鎧が姿を現した。

 そのまま一番近くにいた中将へ斬りかかる。

 中将はその刀を受け止めることが出来ず、吹き飛ばされ、中庭に叩きつけられた。


「中将!!!!!」


 ヤマトの叫びに、今度はこちらを向く白い鎧。


「くそ!!」


 ヤマトはその場にいるポルクルを庇うように抱きしめると鎧を睨んだ。

 こちらに振り下ろされる鎧の刀。だがそれをジュラス元帥の刀が受け止める。

 金属音と共に火花が散り、その場の空気が揺らぐ。

 ヤマトはそんな上官の背中をしっかりと見つめた。


「ヤマト、お前はポルクルと一緒に中界軍へ行け!!」

「しかし!」


 ヤマトは敵の刀を受け止める上官の背中へ叫ぶ。


「いいから!」


 ジュラス元帥が叫ぶと同時に、何体も白い悪魔の鎧が姿を現した。


「お前とポルクルなら俺達より早く基地に着く」

「けど!!」

「いいから行け!!」と、今まで聞いたことない声でヤマトに叫んだ。


「分かりました。すぐに帰って来ますから!!」


 ヤマトはそう声を出し、横にいるポルクルを抱え走り出した。


「嫌だ、離して! 兄さん!!」


 ポルクルは抱え込まれた状態から抜け出そうともがく。

 しかしヤマトはポルクルをしっかりと脇に抱きかかえ全力で走った。



「さあて、若い命は取り合えず守ったかな?」


 ジュラス元帥は自分の大切な部下の背中をチラリと見てそう笑った。

 中庭で倒れている中将を見る。その腹からは大量の血が出ていた。もう持たないだろう。


――自分一人で……この数か……。


 ジュラス元帥は大きく深呼吸をすると、目の前の鎧の刀を弾き返した。


「ざっと見て……六体」


 そう言った瞬間、さらに後ろからもう五体。


「チッ。戦闘は俺の仕事じゃないんだけど。ここは食い止めないと」


――ヤマトが中界軍基地に着くまでは……。


 ジュラス元帥はギラリと瞳を光らせ目の前の敵襲に向かった。








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