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Blue Skyの神様へ  作者: 大橋なずな
第2章ノ弐 最神成人の儀編
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第2章 21幕

 ドカドカとガリ股に歩く人物の後ろについて歩く。

 ヤマトはその背中を真剣な面持ちで見つめた。自分の()とも呼べる存在。ジュラス元帥の背中。

 これから明日の最神の成人の儀と、軍事演説についての軍議が行われる。

 ほとんど確定している話を、もう一度しておこうと言い出したのは元老院の方だ。

 無理もない。今まで自分達が保ってきた『戦争のない世界創り』が最神自らの口で否定されたのだ。

 おちおち軍人共の言いなりにしてはならぬ、と反論の時を作った。そんなところだろう。


「しかし、まあ今更だよなあ」


 頭を掻きながらジュラス元帥は声を出す。


「はい」


 ヤマトはそれだけ返事をした。


「もう最神の意志は決まっているんだろ?」

「ですね。今から何を語っても彼女の決意は変わらないでしょう」

「だよなあ? それに天界で有名なマーケットを襲撃されてしまっては民である天界天使達も黙ってはいれないだろう」


 少し速足の元帥はそう言葉にする。


「このまま反撃をしないとテロに降伏する形になるだろうし、民間人に死者が出たのに軍や政府は何もしないのかって信用問題にもなりかねん」

「はい。そうなればさらに反政府という思想の天使達も増えるでしょう」

「だとなれば……最神の取ろうとしている行動が一番理想的ではあるな」

「……」


 そう話すジュラス元帥の言葉にヤマトは黙ってしまう。


「どした?」


 急に押し黙ったヤマトにジュラス元帥は立ち止まり振り返る。それに合わせてヤマトも止まった。


「いえ、これが彼女の……シラの決断ではありますが、本当の彼女の意志ではないのに……と思いまして」

「ま~、政治ってのはそういうもんだよ」


 ヤマトの少し暗い顔にジュラスは微笑む。


「自分の思想と民意、政界、軍事……全てが一致する事なんてない。彼女はそのことを今回の事件で勉強したのさ」

「そう……ですね。自分はそれを分かっているつもりでした。けど、この話を彼女から切り出された時、少し……辛くなった」

「うん」

「戦争……嫌な響きです」

「そうだな」と、ジュラス元帥はヤマトの肩を二度叩く。


「けど、お前は胸を張ってろ! 熾天使の騎士としてと中界軍の代表として軍議に出るんだから」

「そう……ですね」


 ヤマトは今回、熾天使の騎士としてと中界軍として軍議に参加したいと申し出た。

 それは少しでも軍議の空気を感じて慣れて行きたい。そしてゆくゆくは政界に口を出せる存在になっていきたい。そんな気持ちがあったからだ。 

 そんな自分がこんな気持ちではいけないとヤマトは深呼吸をしてみる。


「あれ~?」


 急に声を掛けられ二人が振り返ると、そこには軍議室の入り口で手を振る人物がいた。


「フィール元帥」


 ヤマトのその声にフィール元帥は嬉しそうに笑う。


「お二人とも早いですね。軍議までまだ時間がありますよ?」

「これはこれはフィール元帥、貴方もお早いですね」


 薄紫色の髪を長く伸ばしたフィール元帥は、髪を撫でながらこちらに向かって歩く。

 ダークグリーンの軍服に身を包んではいるが、流石貴族出の人物。オーラが煌びやかに見える。

 それに比べて……とヤマトは隣に居る自分の上官を見た。

 ボサボサの髪に白髪、髭の剃り残した顔はいつもやつれていて貧弱だ。しかもいつも同じ軍服を着ているものだから、煤けてきていて折角の黒が少し薄い。なんとも残念な見た目だった。

 二人が並び、お互いがニッコリと笑う。しかし、その二人の目は全く笑っていなかった。


「僕は付き人であるカルトルとポルクルから逃げて来たんです。二人とも口煩くてね、たまには一人でのんびりしたいんですよ」

「なるほど……で、先にこちらに?」

「はい。遅刻せずに部屋にいれば二人もむやみに僕を怒れませんから」


 そう言ってフィール元帥はクスクスと笑う。

 いつもながらこの人は何を考えているか見えない。ヤマトはそのダークグリーンの親衛軍元帥を見る。


「で? 今日はヤマト熾天使をお連れしてるんですね」

「そうですな。彼は優秀なので、ゆくゆくは軍議で活躍してくれるでしょうから、今から場に慣れさせておきたいと思いまして」

「なるほど、後継者……ということですか? 羨ましい」


 フィール元帥は少し小馬鹿にした目でヤマトを見る。

 少しムッとしたが、そんな安い挑発に乗るほど幼稚では無い。ヤマトはそのまま無言で軽く会釈をした。


「もう一人の熾天使、レインは今日は連れていないのですか?」


 フィール元帥はそう言って少し大袈裟に二人の後ろを覗く。


「今日はこいつだけですよ。あいつは最神のおつかいに出てまして……ま、レインはこういう場は苦手なので徐々にですかね?」

「ほう……」


 ジュラス元帥の営業スマイルにフィール元帥は少し残念そうに言った。


「彼は来ないのですか……そうですか」

「おや? フィール元帥はレインがお気に召しておいでですか?」


 ジュラス元帥の皮肉に彼はもう一度クスリと笑う。


「ええ……そんなところでしょうか」

「確か、昨年の我が中界軍の式典で、ヤマトとレインの模擬戦をした時から彼にご執心でしたな」

「そうですね。あの時に彼の戦闘を見てから……と言えばいいでしょうか」

「なるほど。では次は彼を連れて参りましょう」

「いやいや、彼は……」


 フィール元帥がそう言い掛けて少し黙る。


「……?」


 突然押し黙る彼にヤマトは首をかしげた。そんなヤマトに気が付いたフィール元帥がヤマトに向かってにっこりと微笑む。


「ここで立ち話も何だ……中に入りませんか?」


 そうフィール元帥はそうジュラス元帥に声を掛けながら歩き始める。


「ええ、構いません。ヤマト」

「あ~ヤマト君は少し外で足止めをしていてくれないか?」


 一緒に軍議室に入ろうとしたヤマトに向かってフィール元帥はそう言った。


「多分……もうすぐあの双子が来るんだ。軍議の時間まで彼らをここで足止めしてはくれないだろうか? 軍議が始まれば熾天使の騎士の君と違って彼らは中に入れないからね」

「は……はあ」


 フィール元帥の満面の笑みにヤマトはそう答えるしかなかった。


「ハハ、ではヤマトその任務頼めるか?」と、ジュラス元帥は笑い命令する。


「承知いたしました」


 ヤマトが敬礼すと、二人は重たい軍議の扉の先に消えて行った。


 ◇


 二人の背中を見届けると、大きく溜息を付いて辺りを見回す。

 周りには誰もいないようだ。それを確認するとヤマトは大きく翼を広げ伸びをした。

 目の前に広がる庭園を眺めながら、城内の渡り廊下全てに施されている赤い手すりに手を掛ける。

 空は朝からどんよりとした曇で覆われている。そんな空を仰ぎヤマトはもう一度溜息を付いた。

 そして先ほどの二人の会話を思い出してみる。

 どうもフィール元帥はレインを気にかけているようだ。

 自分から見てもそう思う。何かを話すのも必ずレインにだ。なぜそこまでレインを気に入っているのか?


「ん?」


 そしてふと思ったことにヤマトは小さく声を挙げた。

 そう言えば……シラの護衛をするという特殊任務。これをレインとヤマトにさせようと提案したのもフィール元帥だ。

 正確に言えば()()()()と、フィール元帥が言い出したので、それに便乗してジュラス元帥が()()()()()()()()()()と提案したらしい。熾天使の騎士となってすぐの頃にその話をジュラス元帥から聞かされた。

 それに熾天使の騎士という階級を二人へ任命させれば死刑から免れると伝えて来たのもフィール元帥だとシラが話していた。

 更に最近ではレインとジュノヴィスの模擬戦を企てたのも彼だ。


「何だ……?」


 ヤマトはその違和感に向かって思考を潜らせる。

 天界天使の貴族であり、今は親衛軍の元帥。そんな一流の彼をそこまで動かす……レイン。

 彼にそこまでの何かがあるのか?

 人間の死を得て、天使に転生してからヤマトはレインとタッグを組むことは多かった。

 いわゆる『腐れ縁』という類いだろう。

 転生天使内では『運命の糸』と同等に扱われる、前世からなる魂の恩恵『腐れ縁』。

 前世に二人は何か関わり合いがあり、今世でもそれが続いているのだとヤマトは勝手に思っている。


 そういえば、軍事式典数日前にレインは早朝シラの唄を聞き、前世の記憶たる鱗片を目にしたと言っていたのを思い出す。

 その話には……不可思議な事が幾つかあった。

『何故レインは最神であるシラの唄声を聞いて、過去の記憶が呼び起こされたか』……だ。

 それをヤマトはこう解釈する。

『レインは前世に最神と関りを持っていて、その唄を聞いたことがある。そして、今世その唄を聞いたことにより過去の記憶の鱗片を垣間見た』

 そう解釈するとレインと腐れ縁である自分も少なからず、シラの前世の近くに居たのではないだろうか?

 なら以前ヤマトが天界巫女の古き時代の話を聞いた直後、説いた仮説がより現実的なものになるのではないか?

()()()()()()()を持った者は前世、つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()と……。

 その仮説が正しければフィール元帥はレインが前世何者だったのかを知っている……だからあれほど彼に執着しているのか?


 いや、まさか……。一度、思詰めた頭を振った。

 自分の悪い癖だな、さすがにそこまでフィール元帥が知っている訳がないし、何より信憑性が全く無い。

 単なるフィール元帥の興味本位ってやつかもしれない。


 しかし……。

 ヤマトは思いに耽るように手すりに寄りかかり、右手の人差し指を唇に当てる。

 確かにレインは人間の頃からズバ抜けた体術の持ち主だった。そしてその力は転生天使になった今でも衰えていない。それどころか他の者と比べて技術や能力値が群を抜いて高かいのは確か。

 そして一か月前の式典の時に聞いたジュラス元帥の言葉を思い返す。


『レインの死んだ時は、まるでその事故を起こすために悪魔が工作したようだったんだ』


「人間の頃、レインは悪魔に殺されている……」


 本人の知らないこの事実。

 思い返せば、レインは昔から悪魔の感知能力に長けていた。

 先日の人間界で起きたバス横転事故からの魂の暴走時、悪魔がゲートを開いた痕跡を見つけたのもレインだ。


「おいおいおい……」


 ヤマトはそう独り言を呟く。

 考えれば考える程、レインの謎が増えていく。

 ピースがどれもハマらないジグソーパズルのような……。


「何かが足りないんだ」


 本人も知らない事実、これは一体……。


「一体……レインは何者なんだ?」


 ヤマトの言葉が自然と口から零れる。

 その言葉を被るように遠くの方でバタバタと走る足音が聞こえて来た。


「フィール元帥!!」

「フィールげんすい――!!」


 その声にヤマトはその足音のする方を見つめた。

 走って来るのは同じシルエットの少年二人。

 ヤマトは取り敢えず『双子を軍議室に入れない』という目の前の任務を遂行する考えに至り、やれやれと肩をすぼめた。

 





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