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Blue Skyの神様へ  作者: 大橋なずな
第2章ノ壱 熾天使の騎士編
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第2章 8幕

 アカシナヒコナという名前を発音した瞬間から、何も感じなかった空気に温かみが増していくのが分かった。

 空間がほのかに明るくなる。


「この度はわたくしの我儘でここまでおいで下さり、誠にありがとうございます」と天界巫女である少女は笑う。

 先ほど天界巫女だと思っていた煌びやかな服装の女性とは正反対だ。


「姿勢を楽にしてくださいませ。長い話になりますでしょうから」


 そう言われ、シラはゆっくりと楽な姿勢に座りなおす。


「二人も大丈夫ですよ」


 シラの言葉にレイン、ヤマトは顔を上げると座禅を組んで座った。


「本来はあの子は私の影武者として巫女を名乗っております。私の正体を知っているのは、ここにいるこの子達と姫様のみ」


 巫女は周りの子供達に笑い掛け話す。


「この度、わたくしの判断でお二人にもきちんとご挨拶をさせて頂きたく、こちらにお呼びいたしました」

「どうしてこのタイミングで? まだ熾天使の騎士就任前ですし、もう一人就任予定のジュノヴィスもいません。何故なのか……お話し頂けませんか?」

「はい、姫様」


 巫女はシラに答えると、レイン、ヤマトをじっと見つめた。


「今後近いうちに何か大きな災いがこの地で起こると、昨晩、私の寝台にお告げが舞いました」


 その言葉にシラが一瞬怯む。


「それは……どういうことですか?」

「世界を揺るがす渦が、近いうちにこの天界を覆う。そしてお三人は『世界を変える力』の持ち主である……と」

「私たちがですか?」

「はい。災いの中心にいるのがこのお二方。そして姫様」


 三人はお互いを顔を見合わせる。


「巫女様。発言の許可を頂けますか?」


 ヤマトがそう切り出す。


「はい。ヤマト様」

「その『世界を変える力』とは何なのでしょうか?」

「はい。わたくしの力はもう遠くを見据えるものではございません。ですのではっきりとお伝えする事は出来ませんが……恐らく、古き時代から続く世界の理に関するものかと」

「世界の理……」

「それを話すにはまずこの世界の始まりを、古き時代からお話しすることになります」


 巫女は目の前の三人を見つめると話し出した。


 ―――


 世界の初まりは一つの空間からでございました。

  それから幾月経つと空が現れ、海が出現し、陸が出来、そこに三種族が生を受けるのでございます。

  一つは白の翼。白の翼は世界の力を使う能力を身につけた『初代最神・ゼウス』

  一つは黒の翼。黒の翼は自らの底に眠る力を使う能力を身につけた『初代魔王・サタン』

  一つは翼を持たぬ者。翼を持たぬ者は優れた知能を付け『人間王・イヴ』と名乗りました。

  三種族はそれぞれ子孫を残し、政を行いながら天界全土で共に生活をしておりました。

 ある日、優れた知能を持った人間王は、一つの知恵を思い付くのでございます。

 それは新しい世界を作るというものでございました。

 そして初代最神(ゼウス)にその話を伝えるのでございます。

 その話に初代最神は深く興味を示され、天界に近い世界『中界』をお作りになりました。

 『中界』は天界によく似た出来でございました。しかし大きく違うものがございます。それは物質。物質が違う世界となった中界へは、次元転生を行わないと移住することが出来ません。

 もし身体を組み替える理を作り、中界に降りることができても、二度と天界には戻れない。

 初代最神は天界と中界を行き来出来ない事が分かると「失敗作は壊そう」と、おっしゃいました。

 しかし人間王はそれをお止になり、新しい知恵を思い付くのでございます。

 それは他の者達(人間以外)を次元転生させ『中界』に落とし、天界を自分の物(人間の世界)にするという計画でございました。

 人間王は初代魔王にこう伝えるのでございます。

「初代最神は我々を中界に落とし、この世界から追い出すつもりだ。我々で初代最神を中界へ落そうではないか」と……。

 初代魔王はその言葉に耳を貸してしまうのでございます。

 そして人間王の言葉の通り初代魔王は血族を連れ、初代最神の血族に戦争を起こしてしまうのでございます。

 それが最初の『戦』でございました。

 戦の存在しなかった天界はその時、初めて人が人に殺されたのでございます。

 その出来事で戦を起こした種族を『悪』とし、その後初代魔王の血族を『悪魔』と呼ぶこととなるのでございます。

 その戦争は長く続き、天界は荒れ果て、混沌が訪れます。

 しかし長い戦乱を初代最神とその血族は戦い抜き、初代魔王達を制圧するとその血族を中界より深い場所、新しく作った『地下界』へ閉じ込めたのでございます。

 初代魔王の魂は二つに割られ、一つは地下界に、一つは何処ぞへと消えたのでございます。

 初代最神は「これ以上この地を荒れ果てさせぬよう、我らで天界を統べよう」と、自分の血族を『天』を守る『使者』……『天使』と名付けました。

 そして人間王は罪を償う為に血族と共に次元転生、二度と天界の地を歩くことが許されない身体にされ、中界に落とされたのでございます。

 その時人間王は「この先私の血族が同じ過ちを繰り返さないよう、血族を監視する役目をさせる者を作ってはくれまいか? そしてもう二度とこのような事にならないよう、我々から天界の記憶を消してくれ」と願いました。

 人間王の懇願に初代最神はそれを受け入れ、新しい『魂』の流れをお作りになりました。

 それを『人間を監視する使者』……『転生天使』と呼ぶことにするのでございます。

 その行いで初代最神は自分の持っている能力の大半を失ってしまいました。

 そしてこの世の理が完成したのでございます。


 ―――


 その話を終え、巫女は少し疲れたように笑った。


「この世界の理は今も続いております。しかし多くの者はこの事実を知らない……」

「確かに……」


 ヤマトは考え込むように言った。


「初代最神や魔王との戦い、古き時代の三世界戦争の話しはよく耳にしますが、転生天使の誕生の話しは聞いたことがない。いや、上層部なら知っているかもしれませんが……」


 しかしその言葉に巫女は首をふる。


「いえ、知らないでしょう」

「それは何故?」


 レインが口を開く。


「それは長き時により、この話しを伝承するものが消えて行ったからでしょう。それに、この長きにわたる時の中で理が歪んで来ているからでございましょう」

「世界の理が歪む?」

「はい。それは例えば、ゲートの開発。悪魔との新たな戦争。堕天使の誕生。天界軍に次ぐ中界軍の存在……」


 巫女は少し目を細めた。


「世界の理を少しずつ揺れ動かし歪ませる出来事がこの世には存在し、それが時と共にこの伝承を隠していっております」

「それが今回自分達の周りで起こる『災い』から起きる……と?」


 ヤマトの質問で巫女はゆっくりと頷いた。


「はい。恐らく」


 巫女の強い口調に三人はぐっと息を飲んだ。


「そしてその歪みである災いの核となるのが皆様。皆様がこの歪みを動かし『世界を変える力』となる。この天界の大地はそれをわたくしにお告げとして伝えて下さいました」

「それはこの先の災いを、我々が退治すればいいということなのでしょうか? それとも我々が災いになりうるということでしょうか?」

「申し訳ありません。わたくしの力ではそこまでのことは分かりませんでした」


 そう巫女は大きな瞳を伏せる。


「わたくしの千里眼も古き時代からの血族の恩恵……今はもう薄っすらとしか見ることの出来ないこの力は、微量にしか未来が見えない。

 お三方がこの地に集結したことは偶然ではない。必然であること。それが古き時代での出来事に関わることであること。そしてそれが世界を変える力になるということ」


 そう言って巫女は深々と三人に頭を下げる。


「今後、世界が揺らぎます。しかしその災いがどのようなものかを、わたくしは皆様に御伝えすることが出来ません……。わたくしの力が未熟故、姫様にきちんとお伝えする事が出来ず……」

「いえ! 巫女様にはいつも助けて頂いているのです。今後、災いが起きるという事実をおっしゃって頂いた、それだけでも!」


 シラはそんな巫女に声を掛ける。


「頭を上げてください!」

「いえ!」

 巫女はその言葉にさらに被せるように叫んだ。

「お三方、どうか、どうか……この世界の行く末を……」


 巫女の言葉が半球の神殿の中で響く。その小さな少女を三人は見つめ、それ以上言葉を掛けることが出来なかった。






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