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Blue Skyの神様へ  作者: 大橋なずな
第2章ノ壱 熾天使の騎士編
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第2章 5幕

 極秘軍議の翌日。ヤマトは城内へと入り本来の仕事場である最神(シラ)の元へと向かっていた。

 熾天使の騎士という肩書きはやはりかなりの威力があるようだ。皆、冷ややかな視線を送っては来るが、今までのように中界軍だからと差別的な行動をしてくる者はいなかった。

 城内でこの黒の軍服を胸を張って着こなせる。それはヤマトにとって大きな自信に繋がっていた。

 城外へ向かう道を進んで行くと城門が目に入って来た。その城門近くにグレーの軍服姿の者達が集まっているのが見える。

 ヤマトはその中にアクアブルーの髪の後ろ姿を発見した。隣にはオレンジ色の髪の少年も見える。シラとサンガの背中だ。


「やっと見つけた」


 そう溜め息交じりにつぶやくと、シラ達の方向に歩みを進める。

 その途中で少し離れた建物の陰にレインの姿を見付けた。彼は柱に背を預けて腕を組み、シラが天界軍の兵士達と会話をしている姿を眺めている。

 ヤマトはその横で立ち止まると大げさに溜め息をついた。


「今日は何でまたこんな所に?」


 レインは金色の右目をチラリとヤマトに向けるが、すぐに目線を元に戻す。


「シラが遠征に出る二十四番隊に挨拶したいと言い出して、それで」

「それの護衛にお前もここまで来たと。レインもご苦労さまですな」


 ヤマトのその言葉にレインは「別に」と素っ気なく返した。

 そんなレインを見てヤマトは呆れたように鼻で笑う。

 日頃から人前に出たり、注目を浴びるのが苦手なレインはいつも以上にストレスを感じているはずだ。城内での息苦しさにも嫌気がさしているのだろう。

 だから今もこうして彼女の側ではなく、少し離れた場所からシラを見守っている。


「二十四番隊はまた遠征か?」


 ヤマトの質問にレインは頷いた。


「みたいだな。結構頻繁に出てるみたいだ。おかしい……と思うか?」


 今度はレインがヤマトに問いかける。


「思うね」


 その答えに「だよな」とレインはもう一度頷く。

 彼の言いたいことは分かっている。

 城下街で自爆テロが起こるタイミングで帰還し、事件が落ち着いてきた今、再び城外へ遠征する。明らかに二十四番隊の動きは怪しい。

 そしてそれを率いるのはレインやヤマトも参加したあのガナイド地区悪魔討伐戦の参謀・ベルテギウス大佐だ。


 ――あの男があのタイミングであの場所に現れたのを偶然と片付けていいのだろうか。それとも……。


 真剣な面持ちで悩み始めるヤマトの横で、レインは「終わったかな」と体を預けていた柱から離れる。

 彼の見つめる先を見ると、天界軍達が列を成して城外へ進んでいた。どうやら二十四番隊が出発するらしい。


「シラはこうやって城内を見て回ることから始めるんだとさ」


 レインは腰に挿す刀に手を添え、シラを見つめそう話す。


「ほ~。いい心懸けだな」

「今回の茶番を考えた奴の思惑通りに進んだって事だろう」


 レインの言い回しにトゲを感じる。彼の中ではあの事件はまだ納得できていないのだろう。

 シラの事になると過敏に反応する彼を見て、「仕方ないだろ」とヤマトは肩をすくめた。

 その言葉にレインは不服そうに大きく溜め息をついた。

 そんな彼にもう少し労いの言葉を掛けてやろうとヤマトは口を開く。

 しかし、後ろから馬の蹄の音が聞こえてきた為、出かけた言葉を飲み込んだ。

 近付いて来る音に二人は後ろを振り向く。馬はゆっくりとレインとヤマトの前を通り過ぎていった。

 その馬に跨がる人物に見覚えがある。青紫の髪をオールバックに整え、グレーの軍服に身を包んだその男は――。


「ベルテギウス大佐」


 ヤマトは思わずそうつぶやく。その声に合わせるかのように、男は馬上から建物の陰に立つ二人へちらりと目線を移した。


 目があった――気がした。


 しかし、ベルテギウス大佐はすぐにシラの方へと顔を向ける。

 ベルテギウス大佐。二十四番隊の隊長で、三年前の『ガナイド地区悪魔討伐戦』で参謀を務めた男。自分達中界軍を捨て駒にし、あの一時間を命令した男だ。

 ――こいつは全てを知っている。

 そう思えてならなかった。


「レイン……」と、ヤマトは言葉を止め、ベルテギウス大佐の背中を殺意のこもった瞳で睨みつけた。

 レインはそんなヤマトに溜め息をつきながら「分かってる」と呆れた声を出す。

 黒い瞳をベルテギウス大佐に向けたまま、ヤマトは言葉を続けた。


「俺の当面の敵は……あいつだ」


 その低い声にレインは「ああ」とだけ答えた。

 ベルテギウス大佐はシラに軽く挨拶をすると、兵士達を引き連れ城外へと消えて行く。

 ヤマトはその背中を見えなくなるまで睨み続けた

 一度深呼吸をすると、いつもの声色に戻しレインに話し掛けた。


「で? 今日は三人か? エレアは?」

「ああ、後ろ」と、レインは答える。

「後ろ?」


 振り向くと外壁に背中を預け、空を見上げるエレクシアの姿を見つけた。


「あれ? 何か元気ない感じ?」

「ずっとあの調子なんだよ。今回の事件でいろいろあったし、シラもサンガもそっとしてやってるみたいだ」

「まさかあの時の事で凹んでるのか?」と問うと、レインは首を縦に振る。


 ヤマトはエレクシアの姿を眺めながら、「なるほど」とこぼした。


「お前なにか言ってやれよ」

「俺がなにを言うんだよ」

「昔、凹んだ経験を生かしてだな」

「うるさい」


 レインは低い声を出しヤマトを睨む。そんな彼の視線にヤマトはケタケタと笑った。

 そして「仕方ないなあ」とエレクシアの方へと歩き出す。


「余計な事言うなよ」


 背後から聞こえるレインの声にヤマトは「はいはい」と手を振って答えた。


 ◇


「エレア」と、声を掛けながらヤマトはエレクシアに手を振った。

「お前か」


 エレクシアは一瞬、ヤマトの方を見ると「はあ」と溜め息をつく。


「なんだよ~久しぶりなのにその反応」

「いつもと同じ反応だろう」

「そうだっけ?」


 エレクシアの声にはいつもの覇気がない。

 ヤマトはそんな彼女の元に行くと明るく笑って見せた。


「なに凹んでるんだよ」

「へッ、凹んでなどいない!」

「いるでしょ」


 エレクシアはもう一度否定しようと口を開けたが、言葉を飲み込むと溜め息をついた。そしてうつむくと、脱力感を露わにしたまま建物の壁に寄りかかる。

 エレクシアの場所は建物の陰になっている。まるで彼女の心の境界線のようにヤマトとエレクシアの間で影が地面の色を分けていた。

 そんな彼女の気を紛らわすようにヤマトは「いい天気だなあ」と空を見上げる。そして快晴が広がる空を眺め目を細めた。

 エレクシアは空を仰ぐヤマトを見つめる。そしてそのままその先に見える人影に視線を向けた。ヤマトは彼女の視線に気づくとそれを追うように、後ろを振り返る。

 視線の先にはレインへ手を振りながら向かうシラの姿があった。

 レインの元へたどり着いたシラは嬉しそうに話をしている。

 レインも先程までと違い、優しい微笑みをシラに向けていた。


「あ~あ~、お熱いことで」


 ヤマトはそんな二人の姿を見て微笑んだ。


「私は……」


 エレクシアが小さくこぼす。

 ヤマトはその言葉に気づき、彼女の方へと向き直る。


「今まで何をしてきたのだろうか」

「何をって?」

「姫様を守る。それが私の全てだった。誇りでもあった……」

「うん」

「しかし、実際姫様が危険にさらされた時どうだった? 私は何の役にも立っていない」

「そうだな」


 ヤマトの率直な答えにエレクシアは言葉を詰まらせる。


「で? それで凹んでるの?」とヤマトは呆れるように言った。

「エレアはお子様だな~」

「なにを!」


 エレクシアはヤマトの挑発的な言葉に反論しようとしたが、それを諦め元の体勢に戻る。


「確かに俺はあの時、エレアは使いものにならないと思ってた。実際そうだった」

「…………」

「けど、だから何?」


 ヤマトは黙って話を聞くエレクシアに向かって言葉を続ける。


「今回の事件で大切なのはシラを守れた事、みんなが生きてる事だろ。

 親衛軍で生活してて、今回初めて『死』の恐ろしさを感した。大切な人の『命』を奪われるかもしれないという恐怖を感じた。人の焼ける臭いを吸った。血の飛ぶ瞬間を見た。それでお前は終わるのか?」

「…………ッ!」


 エレクシアは厳しい口調になったヤマトの言葉に身を強張らせる。


「俺もレインも、痛いほど味わってきたんだよ。だから今がある。

 この先、エレアはあの日の経験を生かす日がきっと来る。だからここで凹んでても何の意味もないだろ?」


 真剣な面持ちで聞くエレクシアへヤマトは話を続ける。自分がジュラス元帥に貰った気持ちを彼女にも分けてやろう。そう思ったから。


「お前は最神の一番の護衛だろ? もっとしっかりしろよ! その場所、俺やレインに持っていかれるぞ?」


 今思う事を全て言葉にすると、彼女の瞳を見つめる。

 エレクシアは漆黒の瞳の中に見える強い意志を感じ取ったのか、静かにその話を聞いた。そして目を伏せると大きく深呼吸をする。


「私は……まだやれるだろうか?」


 伏せていた目を開けエレクシアはヤマトに問う。

 ヤマトはそんな彼女にニヤリと笑って見せた。


「何言ってんの? エレアらしくない」


 そう言葉にすると、エレクシアも微笑んだ。


「お前に慰められるなんて……私も落ちぶれたものだ」


 彼女の言葉に「そうかもな」とヤマトは手を差し出した。

 その手に一瞬躊躇したエレクシアだが、ゆっくりと手を伸ばす。

 ヤマトはその手をしっかり握ると、エレクシアを自分の方へと引いた。


「お、おい!」


 エレクシアはヤマトの予想外な動きに声を上げる。それに合わせワインレッドのポニーテールが揺れた。

 その声でシラが二人に気付いたようだ。


「エレア――ヤマト――」


 シラが嬉しそうに手を振っている。


「ほら、行くぞ!」


 ヤマトはそのままエレクシアの手を引いて三人の元へと歩き出した。


「おい! ちょっと、離せ!」


 エレクシアは真っ赤な顔をしながら叫ぶ。

 しかしヤマトは気にせず、シラの元へとエレクシアを連れて行った。

 そんな昼下がり。空は快晴。

 シラの成人の儀が行われる二か月前の出来事だった。







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