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Blue Skyの神様へ  作者: 大橋なずな
第2章ノ壱 熾天使の騎士編
24/128

第2章 2幕

 軍服が風になびく音が、けたたましく耳元で響く。

 どこを見渡しても永遠に続く青空の中、レインとヤマトは空気抵抗を受けないように翼を閉じ、真下に向かって急降下していた。

 二人の前を黒の軍服兵が先導している。

 その兵の話によれば、東京の幹線道路で大きな交通事後が発生。大型バス同士の正面衝突で、死者は数十人に及んでいるようだ。 しかも今回は事故が起きるまで役所の予知能力者が誰一人として、このことを感知することができなかった。

 今回のような事故で本来の予定ではない人間が死んでいけば、この世の理を歪める容認になりかねない。

 さらにこのようなイレギュラーな事案では、第六感など特殊な力を持っている者や、身体能力が著しく高い者が死ぬと、魂の暴走が起こりやすい。

 そんな魂の回収が困難な事案を解決するのが、能力や武術に特化した者達の集まりである中界軍本来の業務である。

 基本的に緊急時を想定して基地に待機をして少数の部隊がいるのだが、今回の部隊は新人兵ばかりの仮部隊だったらしい。

 新兵ばかりの部隊編成を待機させるなど本来の軍組織であれば致命的だ。しかし、まだ形になって間もない組織である中界軍にとって、この現状は日常茶飯事。

 それに付け加え、来月に控えた中界軍の式典行事の準備に全ての部署が追われている為、どこも人手不足だ。

 そこで、現場に一番近いという理由でレインとヤマトが緊急徴集されたという流れだ。


「もうすぐです!」


 目の前の兵がそう叫ぶのと同時に三人は雲の中へと突入した。視界が急激に悪くなる。

 落下しながら雲を抜けると見覚えのある東京の街並みが姿を現した。

 昼前だというのに重たい雲に覆われた薄暗い街並み。久しぶりの東京の空にレインは少し懐かしさを感じた。

 立つ建物に近付いて行くにつれ、徐々に真っ黒な爆炎が見えてくる。オイルのようなきつい臭いが鼻を刺激し、わずかに目に痛みを感じた。

 レイン達は地面すれすれのところまで落下していき、パラグライダーのように翼を広げ減速すると、事故現場へと近づいた。

 そこにはバスが二台横転し、その後ろには乗用車が何台も玉突き事故を起こしている。道路の両脇には動けなくなっている車が連なり、大渋滞を現すようにハザードランプがあちらこちらで点滅していた。

 さらに近付くと現場に群がる野次馬も見え始め、その中へ混じるように黒の軍服を着ている天使達が見え隠れしている。

 三人は軍人達が一番集まっている場所へ大きく羽ばたき着地すると歩き出した。

 そんな三人の到着に周りの軍人が敬礼をして迎え入れる。


「おいおい、確かに大事故だけども……死人はそこまで出てないようだし、魂の暴走もしてないじゃないか」


 ヤマトは軍人達を見渡しながら声を上げる。どう見ても出動させる人数が多い。


「今は暴走は落ち着いています」


 答えたのは軍人の集まりの中央にいる人物だった。どうやら部隊長のようだ。

 男は「お待ちしておりました」と、敬礼をしながら二人を招き入れ、道案内をしていた部下を下がらせた。


「ヤマト熾天使、レイン熾天使どうぞこちらへ」

「それ、まだきちんと発表されていないのに、何でお前は知っているんだ?」


 意味深な呼び方にヤマトは怪訝な顔を見せる。

 そんなヤマトの顔を見て男は冷や汗をかきながら目を泳がせた。


「申し訳ありません」

「ま、いいや。で? お前がここの指揮官?」

「はい」

「現状は?」


 ヤマトは目の前の爆炎を眺めながら訪ねた。


「はい。事故が起きたのは今から二十分前、その段階で魂の暴走を確認。十分ほど前に我々も到着いたしました」

「よくそこまで早く魂の暴走を発見したな」

「はい。暴走した魂は元々二時間後に死ぬ予定の人物でしたので」


 部隊長は背筋を伸ばしたまま質問に答えていく。

 緊張を隠しきれない彼の態度にヤマトは大きな溜め息をついた。


「ということは担当の天使がいたってことか」


 そんなヤマトの隣からレインが話に加わってくる。

 本来であれば、役所の能力者が中界で起こる人間の死を感知し、魂の回収業務を行う者を派遣。派遣された天使は対象者の死を見届けると、その人間が天使へ転生するか新たな人間へ転生するかを確認する。

 今回も死を予知された魂であれば数時間または数日、その人間を監視していた天使がいたはずだ。だから役所の能力者が感知できていなかった事故も素早く軍へと情報が届いたのだろう。


「魂のデータはこちらに」


 部隊長は右手をヤマトに差し出した。ヤマトはその手を握手をするように握る。そして数秒間瞼を伏せると手を放した。レインも同じように部隊長の右手を握ると、隊長から能力で送られてきた情報が頭の中で浮かぶ。


「東京都在住の二十七歳。イラストレーターの男性。大きな仕事のオファーがあって、その打ち合わせに……ね。そりゃ未練もあるか」


 ヤマトは頭の中に入って来た情報を口に出す。


「ランクDだろ? なんでSクラスみたいな暴走してるんだ?」


「そりゃ、役所の予知能力とは違う経緯で死んだんだ。そこから天使側の次元(こちら側)で起きた出来事に触れて……ってことかもしれん」


 レインの質問にヤマトは深い息を吐きながら答える。


天使側の次元(こちら側)……ね」

「元々能力数値は高かったみたいだし、天使側(こちら)の何かに触れて魂が荒ぶったのかもな。俺達みたいに天使に転生できたかもしれないのに。もったいない」


 ヤマトは燃え上がる炎を眺めながら話を続けた。


「で? この現場に来ている部隊は?」

「はい。第十四番隊、十五番隊、十七番隊、二十番隊の小隊です」

「おいおい。この規模に小隊って……」


 部隊長の言葉にヤマトがあきれ顔で辺りを見回す。

 暴走している魂は一つで、そこまで大きな混乱も見られない。小隊ほどの人数を動かすほどではないだろう。現にどう動けばいいのか分からず、唖然と炎を眺めている新兵達がちらほらと見える。


「それと、この小隊(我々)は数日前に構成されたばかりでして……ほとんどが新兵なのでどうしても場慣れしていない者が多く」

「で、お前も?」

「はい。自分も小隊長を任されたのは今回が初めてで……」


 部隊長は額に大量の汗をかきながらそう言った。


「他の部隊は翌月の式典の準備で……」

「準備よりこっちが優先だろ」


 ヤマトは、大きな溜め息を吐き、手を顔に当てた。


「自分も不安でしたので、他の部隊での再編制を申し出たのですが……」


 レインとヤマトが言葉を詰まらせた部隊長を見つめると、意を決した顔をして彼は続きを話し出した。


「ジュラス元帥が二人を寄越すので問題ないと……」


 その名前が出た瞬間、二人は全てを理解し、同時に「あ~」と声を上げた。

 どうやらこの編制はレインとヤマトを呼ぶことで完成するように、はじめから仕組まれていたらしい。

 『魂の暴走事件に急遽駆り出された小隊。ほとんどの者が戦場を知らない新兵達。初めての現場に戸惑う彼らの前に現れたのは悪魔討伐戦の英雄と黒騎士の二人』……といったところだろう。ジュラス元帥の考えそうなシナリオである。


「ほんと、あの人はどうしてこうも……」


 ヤマトは脱力感を露わにしながらそうぼやいた。そのまま瞼を伏せると大きく深呼吸をする。

 数秒間の沈黙の後、ゆっくりと瞼を開き、隣にいるレインにアイコンタクトを取った。

 その黒い瞳の奥にある意思を読み取ったレインは、刀の柄を撫でながら金色の瞳でヤマトに答える。

 ヤマトは一度だけ大きく手を叩き「よし! 分かった」と声を上げた。


「ここは俺が指揮する。編隊を教えてくれ。まだ人間達の警察や消防隊が到着するまでには時間がかかるだろう? それまでに魂の回収を終わらせる」


 ヤマトのはっきりとした声に部隊長は安心した顔で胸をなで下ろす。そして素早く敬礼をすると辺りの者に指示を出し始めた。

 損な役回りをさせられている部隊長を哀れんだヤマトだが、のんきなことを考えている暇はない。隣にいるレインに視線を送るとニヤリと笑って見せた。


「レイン。言いたい事、分かったよな?」

「ああ、問題ない」


 レインは『元帥のシナリオ通りに動いてやろう』と意気込むヤマトの顔を一瞬だけ見ると、呆れたと言いたげに小さく溜息を付いた。そして刀の柄を撫でながら炎上するバスの方へと歩きはじめる。

 そんな面倒くさそうに歩く背中を見送ると、周りを見回し声を張り上げた。


「編制を再構築する。いいか? 新兵には絶対に抜刀させるな!」


 その言葉で軍人達の顔に安堵の表情が浮かぶ。

 ヤマトが指示を出すと、新兵達はぎこちない動きを見せつつも編制を変えていった。


 ◇


 煙を上げるバスを見つめながら、レインは何度か大きく伸びをしたり、屈伸をしたりして時間を潰していた。

 道路は横たわるバスや身動きのとれない車達で塞がれている為、緊急車両がなかなか到着できないらしい。

 空を見上げると曇天を背にヘリコプターが飛んでいるのが見えた。どうやらメディアの物のようだ。さらに車から降りた人間達が野次馬となり周りが先程よりより一層騒がしくなる。

 その野次馬達の隣では黒の軍服を着た天使達がレインの行動を真剣な面持ちで見つめていた。


「レイン! やれるか?」


 空を見上げていたレインにヤマトが大げさに声を掛ける。


「ああ、ヤマト。問題ない」


 レインも大きな声で返事をすると、ゆっくりと抜刀し炎に近づいて行く。

 互いにわざとらしく名を呼び合う。それがジュラス元帥の考えたシナリオを実行に移す合図だ。

 そんな二人の姿を見ていた新兵の一人ぼそりとつぶやく。


「なあ、今レインって言わなかったか?」


 その質問に他の軍人も食いつく。


「若草色の髪に、レインって名前……それって三年前の『悪魔討伐戦の英雄』じゃなかったか?」

「え? じゃあ今、指揮をとってるのって『黒騎士』のヤマト中尉?」


 周りの軍人達が小声で話し出す。その光景にヤマトは呆れたように肩をすくめた。

 ジュラス元帥という名前が出てきた時点でこうなることは分かっていた。

 ここにいる軍人は三年前にはまだ軍に入隊していなかった者ばかり。小規模の魂の暴走なのにも関わらず、これだけの人数を動員させ、レインとヤマトの存在を認知させようというのが元帥の魂胆だ。しかも、二人を最後に登場させるという派手な演出付きで。


「全く……あの人は回りくどい」


 ヤマトは嬉しそうに笑う元帥の顔を思い浮かべながらそうこぼす。

 編制し直した配置は、全ての新兵達をレインの動きが見えるように立たせたものだ。

 新兵達の視線を一身に浴びているレインはというと、ジュラス元帥のシナリオに踊らされている事への不満を顔に出しつつ、炎上するバスの前に立っていた。

 不機嫌な事を表現するように刀の柄をトントンと指で叩き、燃え盛る炎を見つめる。そして指で奏でるリズムに合わせ軽くステップを踏むと、腰を落とし炎に向かって一気に踏み込んだ。

 タイミングを計ったかのように、目の前で爆炎が湧き上がる。

 レインは大きく燃え上がる炎に臆することなく走り込み、刀に能力を込めると抜刀し斬りかかった。

 バスの周りが白い水蒸気と共に凍っていく。しかしその氷はさらに強く燃え始めた炎に押し負けはじき返されてしまった。その反動で吹き飛ばされたレインは翼を羽ばたかせながらバスの上空に移動する。

 予想以上の力に一瞬怯んだレインだが、一呼吸置き体勢を整えると再び斬りかかった。

 何度か交戦を続け、炎の中へ冷気を纏った刀を振り込む。すると炎は徐々に小さくなり、力が弱まり始める。

 レインはそんな炎へ渾身の一撃を送り、その中心に向かって声を上げた。


「聞こえるか? お前は死んだ! ここでこんなことしてても事実は変わらない! もうやめよう」


 炎がゆらゆらと動く。声をかけられたことに動揺しているようだ。


「次の人生へ行こう」


 炎はレインの言葉に抵抗するように急に勢いを増す。その炎に押されながらもレインは自分の刀へ能力を送り続け炎を受け止めた。


「受け入れろよ! じゃないと前へ進めないだろ?」


 その言葉にさらに炎が上がる。何かを訴えるように左右に揺れる炎は最後の抵抗をしているように見えた。

 レインは抵抗する炎を収めようと刀に氷結能力を込め応戦する。


「認めないとダメなものだってある! 次の人生を生きろよ!」


 そう叫び、さらに能力でその場の空気を冷やしていく。そして炎を押し切るように刀を振り下ろした。

 その場の空気が一気に冷え込み、辺りにうっすらと霧が舞い始める。

 燃え盛っていた炎は徐々に小さくなり、バスの周りに少しばかり見えるほどになっていた。

 周囲にいた野次馬達が急激な温度変化に身体を震わせている姿や、新兵達の歓声を上げる様子が見える。そんな光景をバスの頭上で見ていたレインは小さく安堵の溜息を付いた。

 暴走していた魂は抵抗するのを諦めたようで、レインの掌の中で小さく燃えている。


「仕方ないだろ? そう思うしかないんだよ」


 その言葉に炎は少し残念そうに揺れた。


「このままここで暴走し続けて地縛霊になって、霊媒師に成敗されたくないだろ?」


 優しく語りかけるレインの声が、鳴り響くサイレンの音や頭上のヘリコプターの音にかき消される。

 数秒の沈黙の後、炎はレインの言葉に納得したように揺れると、ゆっくりと消えていった。

 レインはそんな消えていく炎を見守り、最後に残った小さな光の球を両手で包み込むと胸に押し当てる。


「次に目覚める時、素敵な人生でありますように」 


 そう言って掌を見るとそこにはもう光は消えていた。

 レインはそれを確認すると翼を羽ばたかせヤマトの隣にふわりと着地する。


「ありがとうございます! お見事でした」

「いや、たいしたことじゃない」


 部隊長の言葉にレインは首を振り答える。


「うむ、ご苦労!」


 ジュラス元帥のシナリオを全てやりきった達成感からか、ヤマトは上機嫌でレインに笑顔を振りまく。


「片目の戦闘は初めてだったんだろう? いいリハビリになったか?」

「多少……だな」とレインは顔をしかめてそう応える。


 ふて腐れた顔はヤマトへ向けたものではない。こんな舞台を用意したジュラス元帥へだ。


「ま、そう怒るなよ」

「怒っているつもりはないが、こんな見世物みたいに……」

「俺達は言わばマスコットキャラクターだよ。ご当地のゆるキャラ的な存在だな!」


 その表現に、レインはさらに眉間にシワを寄せた。

 眉を歪ませ不機嫌そうにするレインを横目に、ヤマトは部隊長に向き直る。


「で? この後、お前はみんなに俺達が熾天使の騎士に就任するって噂を流す役目を任されてるんだろ?」

「さすがヤマト熾天使……元帥のお考えをよく分かっていらっしゃる」


 部隊長は力なく笑い頷く。


「お前が俺達を熾天使って呼んだ時点である程度のシナリオは分かったよ。な? レイン」


 そんなヤマトの言葉にレインはうなだれる。


「まあ気を落とすなって!」

「いや、大丈夫だ。軍に戻るって決めた時から分かってたしな。それに……」

「それに?」

「さっきの魂にも言ったんだ」

「何て?」

「諦めが肝心だって」


 その言葉にヤマトは大きな声を出して笑う。


「二十歳のガキが言う事じゃないが、そりゃ違いない!」


 ヤマトはゲラゲラと笑いながらレインの肩を二度軽く叩き、そのまま歩き出す。


「三歳しか歳の差がないのによく言う」


 そんなヤマトの後ろ姿を睨みながら、レインは聞こえないようにぼそりとつぶやいた。

 そんな他愛もない雑談をしているとはつゆ知らず、新兵達は少し離れた所から二人を尊敬の眼差しで見つめていた。

 この視線こそがジュラス元帥の企みだろう。過去の戦場の英雄が目の前にいる。そしてその英雄が自分達の前で戦闘を披露した。新兵にとってはそれだけでも士気を高めるものになる。

 レインは周りからの熱い視線に耐えられなくなり、大きく溜め息をついた。


「よし! 緊急車両も近くまで来たし、野次馬も増えてきた。これ以上ここにいたら霊感体質の奴らに感知されかねない。撤退するぞ~」


 ヤマトの声に二人を見つめていた新兵達は慌ただしく動きはじめる。

 次々空へと飛び立つ彼らを見送りながら、レインも羽ばたこうと翼を広げた。

 しかし、違和感を感じ周りを見渡す。羽ばたきかけた翼を収縮させ、違和感のする方を見つめた。

 バスの横たわる透き間からそれは漂ってきている。レインは野次馬達にぶつからないように避けながらその違和感に向かって歩いた。

 バスを横切り、事故現場の騒がしさから少し離れた所にある倉庫の駐車場へとたどり着く。

 レインはその一角のアスファルトにあるのほんの数センチの隙間を見つめた。隙間から黒い嫌な空気が流れているのを感じる。


 ――これは……。


「何やってるんだよレイン!」


 後ろを振り返ると、そこには呆れ顔のヤマトの姿があった。


「帰るぞ! 今回のはさすがにやり過ぎだってジュラス元帥にガツンと……て何だそれ?」


 言葉の途中でヤマトもその穴に気づく。


「分からない」とレインは答える。

「この感じ……」


 ヤマトはレインの横まで歩くと、その穴をまじまじと見つめた。


「人間界のものじゃないな。って事は天使側の次元(こちら側)のもの……だよな」

「ああ、恐らく……」

「悪魔、か」


 ヤマトの言葉にレインは静かに頷いた。

 この禍々しい空気。昔感じたことのある感覚だった。穴は小さいながらも、その空気を残している。


「ゲート設置後……で間違いないだろうな」


 ヤマトの声が曇る。


「だろうな」

「けど、こんな場所で?」


 二人はお互いに目を合わせ苦い顔をした。悪魔が人間界で何かを企んでいる。その工程でここに地下界とのゲートを作り任務を終えた後、撤去した。そう考えるのが一番シンプルだろう。


「これが原因で予知に反した事故が起こった、って事で間違いないだろうな」


 ヤマトが面倒くさそうに話すのを横で聞きながら、レインは膝をつきコンクリートの間に淀む黒い気を指でなぞった。ほのかに残る殺人欲求の気配を感じる。


「レイン、お前って昔からこう……悪魔絡みになると勘が鋭いな」


 その言葉に「それ、褒めてるのか?」とレインはヤマトを睨みつける。


「褒めてる褒めてる」


 ヤマトはそんなレインをよそ目に顎に手を当てると、うーんと唸った。


「ま、この件も含めてジュラス元帥に直接会って話しをしてみるわ。もしかしたら数日、中界軍基地に滞在するかもしれない。レインは先に天界に上がってくれ」


 レインは「了解」と立ち上がる。


「あ、お前の妹、ここら辺の病院なんだろ? 帰る前に顔出しとけよ」

「え?」


 真剣な顔をしていたレインの顔が少し緩む。その変化にヤマトは思わず吹き出し、笑いながら話を続けた。


「天界に上がったら当分会えないだろ? 会って来い」

「いいのか?」

「俺が許可したって事にしてやるよ」


 久しぶりに妹と再会できる喜びで、レインの顔はますます緩んだ。







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