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Blue Skyの神様へ  作者: 大橋なずな
第1章 天界軍人編
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第1章 10幕

 大きく深呼吸をする。

 朝の澄み渡った空気が肺一杯に溢れ、レインは背中の翼を大きく伸ばした。

 握っていた竹刀を構えると、いつもと同じように振り上げ、ゆっくり振り下ろす。

「フーッ」と息を吐きながらの行動。心が落ち着く。


 城下街の一件から早二週間。レインは『例の三人のことは中界軍以外の者には話すな』というヤマトからの命令の為、渋々シラへの報告を避けながら過ごしていた。

 シラに今回の陰謀を悟られないように気を使った以外は、箱庭の中の書庫で閲覧許可が出た本を読み漁ったり、彼女に人間の頃の生活や中界軍のことなどを話したりという、なんとものんびりした毎日だった。


「俺達は政府に、最神に分からせてやるんだよ」「ガナイド地区の惨劇、それを分からせてやる」という二つの言葉。それは何を示しているのかは分からない。しかし今回の極秘任務が外へ漏れているとしたら、シラが城下町へと視察した際に何か仕掛けてくるのではないだろうか。ジュラス元帥の声の元、中界軍の数名が極秘に男達を追っているらしいのだが、その後の消息は掴めずにいる。レインやヤマトもあの後も何度か街を視察したのだが、流石に同じ場所に彼らが現れることはなかった。

 そんな嫌な予感が拭えないまま、当日を迎えてしまっている。

 レインは単調な動作から型を変え朝靄の空気を竹刀で裂いた。体を動かせば何かと整理ができる。

 考えを巡らせながらレインは一通りの型を終え、大きく息を吐いた。

 空を仰げば今日もいい天気になりそうだ。翼も一緒に広げ朝日を浴びる。目を閉じ肺にゆっくりと空気を入れ、心を落ち着かせた。

 ふと庭の隅から何か声が聞こえてくる。いつも聞いている柔らかい声だった。


「歌?」と、レインはその声のする方に振り返る。

 するとロングワンピース姿のシラが、赤い手すりを撫でながら廊下を歩いている姿が見えた。鼻歌を歌っているシラの姿につい見惚れてしまう。長いまつ毛、朝日に光る空色の髪……。

 その姿を見ていたレインに気が付いたシラは、近づきながらこちらに微笑む。


「おはよう。シラ」

「おはよう。レイン」


 互いに挨拶をするとレインは廊下の縁に竹刀を立てかけ座る。シラも隣にふわりと座った。

 あの日以来こうして会うのが二人の日課になっている。最初は隣に座るのも緊張していたのだが、さすがのレインも二週間経てば落ち着けるようになっていた。


「何の歌?」


 レインの言葉にシラは少し顔を赤らめる。


「え? 聞こえていました?」

「うん。少しだけ」

「わー。恥ずかしい」


 シラは幼さを残して笑った。


「私の血族に伝わる子守唄ですよ。最神が代々受け継ぐんだそうです。私も生まれた時から聞かされました。言葉は古き時代からの物なので意味はさっぱりなんですが……」

「へぇ。最神の歌か」

「はい。二ヵ月後の私の成人の儀式でも歌うんですよ」

「シラが?」

「そう。恥ずかしいんですけど、しきたりなんです。練習しておかないと……」


 恥ずかしさを隠しきれず、シラは顔を俯き加減にして言った。

 それは聞いてみたいな、なんて言いかけたレインだったが、自分は今日の任務が終われば中界へ帰還する。喉まで出かけた言葉を飲み込んだ。


「式典は私の歌のお披露目と『熾天使(してんし)の騎士』の選抜を開始するという公言の場なんです」

「熾天使の騎士って……貴族階級が始まる前の天使階級時代に終わったんじゃないのか?」

「いえ、最神に一番近い者を三人決める。それが成人の儀を過ぎてから一年以内に行う行事となっていて……簡単に言えば身近な殿方を決めるという話ですよ」

「ふ~ん」


 レインは自分の心の揺らぎを隠すように軽く返事をした。


「祖父の場合は戦争していた時代なので、本当に騎士としての役割を果たす者を決めていたそうですが、母の時は結婚相手に最も近い者を選ばせたらしいです。現に父は熾天使の騎士でしたし」

「となると貴族階級の高い人が選ばれるんだ」

「そうですね。私の知らないところで、いろいろ決めているのでしょうが、もうすでに決まっている者もいますし……一年かけて三人を決めるなんて建前ですよね」


 シラは少し寂し気に微笑みながら「さて! 今日はどんなお話ですか? 昨日の続きですか?」と話を切り替えた。


「そうだなぁ」


 レインも気を取り直すようにシラへ返事をする。毎日こうして会話をし、シラの質問には大体答えただろう。

 人間の頃の生活、中界軍の状態。ドラゴンを討伐した任務や、人間界での魂の暴走を止めた軍事事件。遠征先の視察での話など。レインが転生してからのことは順を追って話してきた。

 そして今日が最後の一日……。


「シラの聞きたいことでいいよ」と、話のレパートリーがなくなってしまったレインはそう言った。

 その言葉に彼女の膝の上に乗せた手がピクリと動く。そして少しの間押し黙り、彼女は両手を見つめた。


「シラ?」


 レインはそんな彼女の姿を見て不安になり、覗き込む。


「では、レイン……」

「うん」


 彼女は背筋を伸ばすとレインを見つめる。


「討伐戦の……三年前の『ガナイド地区悪魔討伐戦』のことを聞かせてください」


 レインは少し張り詰めた彼女の言葉と眼差しに引き込まれた。何かを決心するように見つめる彼女の瞳から目を逸らすことができない。


「あの時の……こと」


 そう言葉にはしたが、話すのを躊躇する。


「あの時、作戦の決行を決めたのは私です。だからあの場にいたあなた達のお話を聞きたい。私の間違いを、私はきちんと胸に刻まなければならないのです」

「間違い?」


 レインはその言葉だけシラに問う。


「はい。前最神である母は病に倒れ、きちんとした引き継ぎもなく、私は最神になりました。あの時はまだ日も浅く、何が必要な情報で何が不必要な情報だったのか私には分からなかった。

 周りの大人達に言われるがまま、私はあの作戦の許可を出しました。あんな理不尽な戦い。おかしいじゃないですか! あんな……あんな……」


 シラはさらに両手を強く握りしめ、レインから目を逸らした。


「間違っていた。大きな被害を……私の決断は……。だからこれ以上私は仲間を傷つけたくない」

「シラ……」


 レインは苦しそうなシラを隣で見つめた。しかしレインは心の中の言葉を口にするのを迷ってしまう。それはきっと彼女を混乱させる言葉だろうから……。

 少しの間シラのきつく握りしめた両手を見つめ、レインは言葉を選びつつ話し始めた。


「正直……」

「はい」

「あの時何があったか、どんな戦場だったかは俺の口からはきちんと伝えられない。ヤマトに聞いた方がいいと思う。あいつは俺と違って最後まで正気を保てていたから……。ただ、俺が言えることはシラ、あの時の君の決断は間違ってはいなかったと思う」

「……!」


 その言葉に俯いていたシラは顔を上げこちらを見つめる。レインは穏やかに微笑んでみせた。


「シラは間違っていないよ」

「しかし!」

「確かに戦場は悲惨だった。けどあの作戦は必要だったよ。長い間、悪魔の領地と化した天界の地を取り戻すという大きな目的の為にも、ガナイド地区の悪魔に殺された住民の為にもね。それに中界軍の俺達にとっても大きな舞台だった。結果は……ああいう形になったけどね」

「しかし!」


 シラがもう一度言う。


「レイン、あなたのたくさんの仲間が命を落とした!」

「うん。けど、それが戦争。それが軍人だよ」

「違います! 軍人だからって戦場に出て死ぬことが……」


 最後まで話すことなくシラの言葉は朝の空気に消えていく。

 この話を聞くこともレイン達を箱庭に呼んだ理由の一つだったのだろう。なかなか聞けなかったこの話を彼女はずっと心の中で抱えていたに違いない。


「確かに仲間はたくさん世を去った。俺もたくさん敵を殺した……けど、それがあるべき姿だよ。それは必要なことで、その戦いがあったから今の平和がある。あの時もあのままガナイド地区を放置していれば、さらに悪魔が近くの街を襲う可能性があるという情報がきたからで、あの戦いがなければ戦火はさらに拡大していたかもしれない」

「人を殺す為に人を動かし、そしてその為に誰かが死ぬ……そんなの……」


 シラはまた俯いた。

 レインはグッと拳を握りしめる。

 軍としての在り方に納得し逃げ出した臆病者の自分では、彼女の望んでいる答えを伝えてあげられない。

 彼女の体の中ではたくさんの葛藤、苦しみが渦を巻いている。この歳で全ての頂点に立つ彼女はなんて小さな体なのだろう。

 そんな彼女を守っていきたいと思った。彼女の見つめる世界を、守っていきたいと……。

 レインは重たい空気を払うように立ち上がり、大きく腕と翼を広げながら伸びをした。そして一呼吸置くとなるべく優しい声で話し出す。


「シラ、俺はきっとシラの思っていることをその通りだよって言ってあげられない。俺は討伐戦の時に納得してしまったんだ。戦争は必要で、誰かが死んで、誰かが生き残って、誰かを守れるって……」


 シラはその言葉を聞きながらレインを見つめる。そんな彼女のアクアブルーの瞳を綺麗だと思った。


「俺はこの先も、誰かを守る為なら誰かを殺すことを厭わない。君が誰かに命を狙われるなら俺は刃を向けるよ。だからこうしてまた軍人として君の前にいる」

「おかしいです。その誰かを殺さない、という新しい道があるはずです。だって……その誰かにも私やあなたみたいに大切な人がきっといるでしょう? その大切な人が悲しむのはおかしいです」

「うん。けど、俺は……君を守る為には君以外の命……俺の命を賭ける覚悟がある。それが軍人としての俺の在り方だから」


 朝日が昇り、周りの朝靄のかかった風景が色を放ち光り出す。

 そんな朝、大切な一日が始まった。


「おかしいです。おかしい……もっと、もっとあるはずです。私は……」


 シラの辛そうな顔にレインは微笑む。


「レイン。私はあなたにこれ以上誰かの命を殺めて欲しくない。皆の命を危険にさらしたくない。軍人達も、民も……レイン、あなたも……」

「それはエゴだよ」


 その言葉にシラは更に眉を下げ、切なそうな顔をした。

 幼い。なんと幼い感情だろう。この世界は遠くて広い。彼女はまだ世界そのものを知らないのだ。

 けれど、それが今の彼女なのだ。今の最神なのだ。だからダスパル元帥は彼女の気持ちを変えるきっかけを作る為、城下街への視察を許可したのだろうか。


「私はあなたのそんな悲しそうな顔……見たくない。だから、もう誰かを……」

「それは命令?」


 レインの言葉にシラは首を横に振る。


「私の願いです」


 その言葉にレインは頷くことも、返事をすることもできなかった。

 幼い箱庭の姫君に今の自分は何もできない。


 ――なら彼女を守ろう。彼女の世界を守ろう。今日一日、自分は彼女を守ろう。


 そしてレインはこの時、今日の任務が終わってもまた軍人として生きていくことを決意した。

 彼女の気持ちを守っていきたいと思ったから……。


 ◇


「で?」


 ヤマトがそう言って、もの言いたげな視線をレインに向ける。

 そんな黒の瞳にレインは「うっ」と小さく言葉を発した。

 サンガの道案内で箱庭から出た一行は、城の裏門で刀の支給の手続きをしているエレクシアを待っていた。

 城内は基本的に刃物は持ち込み禁止だ。帯刀許可を持っている少数の天使、又は親衛軍の所属者以外は入城する際、刀を保管庫へと預ける。

 エレクシアは帯刀許可を持っている軍人だが、レインとヤマトは刀の所持ができない為、出発前に保管庫へ立ち寄っていた。

 本来なら自分で手続きをするものだが、二人の存在は極秘。その為エレクシアが保管している刀という名目で管理してもらっていた。


「で? ってなんだよ」

「いや明らかにさ、おかしいだろ?」

「お、おかしいって?」


 歯切れの悪い言葉にヤマトは大げさな溜め息を付く。


「今日の朝、シラと何かあっただろう?」

「なにかあった、と言えば……あったような。なかったような……」


 レインはヤマトの直球な質問に焦り、言葉を詰まらせながらチラリとシラを見つつ答えた。

 シラは少し離れた木陰でサンガと話をしている。保管庫に来たのも初めてのようで、嬉しそうな声で話をしていた。

 サンガ以外の四人は外出用の地味な色合いの服装に着替えている。シラも白色のエプロンワンピースを着ていた。

 さすがに城壁の近場ということもあってか、私服の天使達があちらこちらに見える。非番や私服での任務の者が多いのだろう。

 加えてメイドなど女性の姿も窺えるので、シラがその中に紛れ込んでいても不思議ではない。誰もここに最神がいるなど想像もしないだろう。

 ヤマトはレインのあやふやな返答に納得できない、とこちらに歩み寄ってきた。


「いや、討伐戦のことを聞かれて、俺は正気じゃなかったからヤマトに聞けって……」

「それで?」


 さらにヤマトは顔を近付けてくる。


「これ以上人を殺めるなって言われて。でも、この先軍人として生きていく俺には難しいことだって……」

「はぁああああ~」


 最後の方を濁すように話すレインに、ヤマトは先ほどよりさらに大きな溜息を付いた。


「お前さぁ」

「なんだよ」


 ヤマトの改まった言い方にたじろぐ。


「惚れた女の言うことなんだからさ『分かった。君の為、その気持ちに応えるよ』ぐらい言えないのか?」

「ほ! 惚れたって!」

「実際そうだろ。こう、もっとロマンチックにだ……な」


 ヤマトはそう言いつつ途中で何かに気が付いたのか、一転して驚いた顔をした。


「お前、今何て言った?」

「何が?」

「お前……この先、軍人として生きていくにはって言ったよな?」と、念を押して聞いて来る。

「言ったけど? 何だよ」

「お前、軍人に戻ることを決断したのか?」

「そうだけど?」


 レインはしつこく聞いて来るヤマトへ少しキレ気味な口調で言い返す。


「マジか!」


 その返事にヤマトは嬉しそうにレインの両肩をポンっと叩いた。


「そうか! そうか!」と、ヤマトの嬉しそうな態度にレインはたじろぐ。

「なんだよ! 気持ち悪いな!」

「過去を吹っ切った、ってことで良いんだよな?」


 その質問にレインは一瞬言葉を詰まらせる。


「いや……分からない。けど」と、両肩に置かれたヤマトの手を振り払いながらシラを見つめた。

「もう少しこの世界に貢献しようかな……と思っただけだ」


 今までの心境とは違うレインの答えにヤマトは安堵の顔をした。

 しかし「そうか……」と、間を空け顎に手を添え考え始める。


「今度は何だよ」

「いや、お前が復帰するとなると……上の椅子が一つ埋まるからな。これは後々の作戦を考え直す必要があるな」

「おいおい。もう俺を出世させる気かよ」


 レインは睨むようにヤマトを見た。どうせ自分のことも出世への階段の一つなのだろう。そう思いながら不気味に笑う彼の顔をさらに睨んだ。


「何をコソコソ話している」と、手続きを終わらせたエレクシアが二人に近づいて来る。そしてぶっきらぼうな態度でレイン、ヤマトにそれぞれの刀を渡す。

「いいや、別に」


 ヤマトは自分の刀を確認しながらエレクシアに笑って見せた。

 エレクシアはヤマトの営業スマイルを睨むとシラの元へと歩き出す。

 レインも受け取った刀を少しだけ抜き確認した。日本刀に近いフォルム。茶色い鞘が手に掴んだ瞬間に馴染んでくるのが分かる。

 久しぶりの刀の重さを感じつつ鞘を強く握った。何事も起こらなければ彼女の願いを叶えてあげられる。何事もなければ……。


「レイン」


 急にヤマトがトーンを落とした声で囁く。緊張感のある声にレインも気を引きしめ耳を澄ました。


「エレアは信用するなよ」

「……?」


 その意味が分からず、思わずヤマトの顔を見る。彼は少し険しい顔でエレクシアの歩く姿を見つめていた。


「あいつは俺達よりも武術は長けてる。けど実戦のない貴族様の娘だ。頼れる保証はない。それに……」

「それに?」

「いや、いい」


 ヤマトは言葉を飲み込み、いつも通りの声のトーンに戻して言った。

 すると「おい」と、後ろから幼い声に話し掛けられる。振り向くと、そこには頭一つ分小さな少年が二人。


「おや? カルトル少尉とポルクル少尉じゃないですか」


 ヤマトの声にその場にいたダークグリーンの軍服に身を包んだ双子は、一瞬ビクリと肩を揺らす。


「えっと……あの」


 ポルクルがこちらに声を掛けようと口を開くが、なかなか言葉にならない。


「お前らにフィール様から伝言だ!」


 見兼ねたカルトルがポルクルの言葉を遮って少し喧嘩腰に話し出した。


「なんでしょうか?」


 レインの返事にポルクルの肩がまたビックリしたように跳ねる。

 そこまで警戒しなくてもいいのに……とレインは思ったが、一度の会話で転生天使に慣れることはないのだろう。出来るだけ警戒されないように微笑んで見せた。


「北北東視察中隊が帰還してくる。気を付けろ」


 レインはカルトルの言葉に一瞬だけヤマトとアイコンタクトを取る。

 しかし緊張感ある顔をすぐに元の笑顔に戻し、「それをわざわざ、ありがとうございます」とレインは双子に頭を下げた。


「ちゃ、ちゃんと伝えたからな!」


 カルトルは威嚇するように発言すると、そのまま向きを変えて歩き出す。


「し、失礼します」と、ポルクルもカルトルの後を追いかけた。

 その幼い背中を眺めながらヤマトはニヤニヤと笑う。


「それだけ伝えに来たか」

「ってことは、天界軍のデモンストレーションは、その中隊がするって解釈でいいんだよな?」


 レインの言葉にヤマトが頷く。


「だろうな。双子を使いによこしてまで伝えてきたってことは、フィール元帥はそのデモンストレーションに関与していないってことか」

「となるとダスパル元帥の単独での行動……」

「フィール元帥が俺達寄りだとすると、ダスパル元帥との間には亀裂があると考えるのが妥当だな」


 ヤマトの言葉を聞いてレインは思わず鼻で笑った。


「結局上の奴らは皆で腹の探り合いをしてるんだろ?」


 ヤマトはニヤリと笑い頷く。


「だろうな。これでガナイド地区の奴らが仕掛けてきたら、何かが大きくひっくり返るかもしれない」

「それでも俺達はシラを守れば勝ちだろ?」


 レインは自分の刀の柄を握り背筋を伸ばした。

 今日のこの一日を乗り切ればいいだけ。その為に自分はここにいる。シラを守るのが自分の役割だ。


「そういうこと!」


 ヤマトはそう話すと、シラの方へと歩きながら刀を腰に挿した。レインもそれに続く。

 二人が近付くとシラは嬉しそうに微笑んだ。しかしレインと目が合うと少し目線をそらしながら困ったように笑う。そんな彼女の表情にレインは声を掛けようとしてためらった。


「さてさて! じゃ、行こうか!」


 そんな二人の空気を振り払うように、ヤマトが声を上げた。


「姫様。私の側から離れぬように」

「はい! エレア」


 シラの声はいつもより明るい。


「では、皆様お気をつけて。またこちらにお迎えに参りますね」


 サンガの笑顔に見送られて一行は城門をくぐり、城下町への散策へと向かった。

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