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Blue Skyの神様へ  作者: 大橋なずな
第4章ノ弐 ガナイド地区防衛戦線編
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第4章 20幕

 遥か爆発音が聞こえた。その音が徐々に迫って来るのが分かる。

 地響きで辺りの建物が揺れ、天井から埃が舞う。

 数秒後、地響きが止まり、作戦本部が設置された家屋の中が静かになる。

 中央に作られたデスクを囲む仲間は、その音を聞きながら地図の駒を動かした。

 一瞬の静けさののち、仲間たちの声が広がり始め忙しない足音が響き出す。


「このままでは街全体に範囲が広がります」

「広範囲での戦闘はこちらには不利」

「動ける部隊の把握を……」

「化学班の機材の導入を急がせろ」


 声を張り上げる仲間たちの中、デスクに広げられた地図に手を付き、ヤマトは大きく息を吸った。

 圧倒的な戦力の差。徐々に追い詰められている戦況。ガナイドで奴らの進行を止め、戦力を削ぐ。それが我々の役目。こうなることは分かっていたはずだ。だが、こうも早く追い詰められるとは……。

 ヤマトはその場で拳を握り、歯を食いしばった。


 ――あの人ならどうした? あの人なら……この戦況下でどう動いた?


 ヤマトは額に汗を掻き、大きく息を吸う。

 あの人ならこんな状況でも毅然に振る舞い、皆を指揮していたはず。


 ――落ち着け、四年前の惨劇を思い出せ。まだやれる……。まだ……。


 その時だった。入り口に立った兵士が伝令部隊からの言葉を聞き、こちらに声を上げる。


「三番隊、五番隊、十七番隊、交戦! このままだと、ここも戦場になります」


 その声に続き、さらにほかの部下が叫ぶ。


「十五番隊、二十番隊、全滅! 予測より早くラインを突破されました!!」

「十五番隊!?」とポルクルが聞き返した。

「はい。オルバン大佐の部隊は……」


 その言葉にヤマトは「クソォッ!!」と声を上げ拳をデスクに叩きつけた。


「閣下、ここも危険かと……本部の後退を」

「…………」


 部下の声にヤマトはすぐに返事が出来ない。


「閣下、今の状況がお分かりでしょう!?」

「分かってる……分かってるさ。だがッ!」


 ――まだやれる……。そう思いたかった。なのに……。


「あなたらしくない。ご決断を」

「分かった……」


 ヤマトの言葉に少将が「後退する! 伝令部隊、各班に次の作戦に移行したと伝えろ」と叫ぶ。

 その声に兵達が素早く動き出し、デスクの上にあった地図を丸め始めた。


「移動しましょう、閣下」


 ポルクルの声にヤマトは「ああ」と答え、本部を後にしようと動き出した。


「ここを破棄する! 別働隊にも連絡しろ!」


 少将が辺りに叫び、兵達が先ほどとは違う動きをし始めていく。ヤマトは入り口に立ってそれを見つめた。


「こんな……」

「ヤマト元帥……」

「ポルクル……俺は、また何も出来ないのか? こんな……こんな……」


 爆発音がこちらに向かっているのがはっきりとわかる。

 あちらこちで家屋などの焼けた匂いがする。その匂いは過去に何度も嗅いだ死の匂い。


「また、俺は……」

「このような事態は予測されていました。その段階が少し早くなっただけ。防衛ラインの後退に基づく部隊の再編成を」

「ああ、そうだな……」

「ヤマト元帥」と、ポルクルは顔色の悪いヤマトの腕を握り名を呼んだ。


「大丈夫、大丈夫だ……」


 ヤマトの顔色は徐々に青くなっていく。


「俺は……。俺は!!」


 そう叫んだ瞬間、その言葉に合わせ心臓を握りしめられるような感覚に襲われる。


『殺せ! 呪いだ!! 敵を殺せ!!』


 頭の中に殺意が溢れる。昔感じたあの感情に押しつぶされる。


「呪い!?」


 その場にいた全員が刀を握り抜刀する。殺意が溢れ身体が震え始めた。


「ショートゲートの作成を感知! 来ますッ!!」


 その言葉に合わせ、頭上に十数個の不気味な空気が渦を巻き始める。

 曇天の中に巻き始めた渦はやがて黒の板状のゲートを作り、そこから人型の物体があちこちに降り注いだ。


「泥人形!?」


 ポルクルはそう叫び、刀を抜く。


「来たか」とヤマトもゆっくりと抜刀した。


 悪魔軍の人型兵器『泥人形』は頭上のゲートを抜け、あちこちに飛来してくる。翼を持たぬその兵器は大きな砂埃を上げ、ヤマトとポルクルの前に数体姿を表した。

 その姿は人に似て非なる物。胴体に不似合な長い手足。顔の部分には鼻のみが付いていて、目や口はない。布切れを纏い、長い腕の先は掌ではなく刃が付いている。砂利のような質感、少し動くと砂のような皮膚がサラサラと剥がれていく。その不気味さにポルクルは身震いした。

 目の前の泥人形は一呼吸を置くと、こちらに向かって腕を伸ばし斬りかかってくる。ヤマトはその攻撃を刀で受け止めると大きく振り払った。


「閣下!!」


 少将がこちらに叫ぶ。


「ここは我々が!」

「だが!」

「ご自身の成すべきことを」と声を張り上げ、目の前の泥人形を薙ぎ払った。


 ヤマトは歯を食いしばり、目の前の泥人形を突き飛ばすと大きく頷く。

 その動きを見て少将は「それでいい! ヤマト! 行け!」と微笑んだ。


「俺の部隊はこの場に残るぞ! すべて始末する!!」


 少将の言葉にその場が一斉に声を上げた。

 移動を開始する者、それの援護をする者、交戦しながらも頭上に開いたショートゲートを破壊しようと攻撃する者。敵、味方が入り乱れる。


「ポルクル! 行くぞ!!」

「はい!」


 ヤマトの声にポルクルは離脱して行く仲間に向かって走り出す。

 その瞬間、何か不気味な気配を感じた。そう、何かとてつもない大きな渦。それは昔感じた心臓を握り潰された感覚。それは、兄の死を感じた時の……。

 突然の恐怖に襲われる。悪魔との呪い? いや違う! これはもっと大きな。


 急に吹いた風にポルクルは「閣下!!」と叫んだ。


 声に振り返るヤマトに向かって巨大な何かが振り下ろされる。咄嗟の判断でヤマトはそれに刀を構えた。大きな金属音が辺りに響き、刀に衝撃が走る。


 ――身体で支えられない!?


 ヤマトがその攻撃が大鎌から繰り出された物だと分かった時にはもう遅かった。

 体は宙を舞い、先にある家屋の壁に叩きつけられる。


「ヤマト元帥!」


 ポルクルはヤマトに向かい走り込む。そして家屋の瓦礫の中で唸り声を上げ、歯を食いしばる彼に向かって片膝をつき、攻撃して来た人物を睨んだ。

 ヤマトはうっすら開けた目で、その人物を捉える。


「仮面の……男……」


 そこにいたのは白の軍服に身を包んだ赤毛の男。黒の仮面をつけ、大きな鎌を振り回すその男は……。


「魔王……」






 目の前に佇み、大きな真っ白の鎌を掲げるその人物。

 知っている……。四年前のガナイド地区悪魔討伐戦でレインの最愛の人、スズシロを殺した人物。一年前、天界の城襲撃でレインの目に魔王の象徴を入れたのはこの男だ。

 のっぺりとした黒の仮面、純白の悪魔軍の軍服。赤い髪を後ろで結い、白に光る大鎌を構える。

 その男の後ろには数体の泥人形が不気味な動きをしながらこちらを見ていた。

 更に頭上のショートゲートからは白の軍服を翻し降下してくる悪魔達が姿を現している。


「くそっ……」


 ヤマトはその光景を睨みながら瓦礫から立ち上がり叫ぶ。

 刀を構え仮面の男に殺意を向ける。


『殺せ! 悪魔だ!! 敵だ! 殺せ! 殺せ殺せコロセ!!』


 呪いの言葉が頭の中を駆け巡る。

 その遺志に従い、ヤマトは目の前の敵に向かって一歩を踏み出した。

 しかし、身体が上手く動かない。片膝がガクンと崩れ、その場に倒れ込む。


「閣下!?」


 ポルクルがヤマトを支える。


「なに……が……」


 ヤマトは急激な眩暈に瓦礫に倒れ込んだ。

 呪いとは違う何か別の意志に支配される。


 ――世界を変えろ。


 声が聞える。聞いたことのある、しかし全く知らない声。

 急に息が出来なくなり、胸が締め付けられる。

 霞み始めた目で前に佇む仮面の男を見つめた。この男がなにかしたのか!? レインに魔王の意志を埋め込んだ……この男が。


「こんな……ところで……倒れるわけにはいかない」


 ――過去を思い出せ。


「俺はあの人の夢見た世界を……」


 ――神の為に、己を。


「だから、この戦争は……負けるわけにはいかないんだ」


 ――意志を貫け。


「ジュラス元帥の……父さんの」


 目の前がさらに霞む。息が出来ない。

 うずくまり息を荒げるその姿に、ポルクルはぐっと歯を食いしばる。

 そしてヤマトの前に立ち、仮面の男に向かって刃を向けた。


「ぽる……くる……」


 霞む目で見る彼の背中。


「閣下は死なせない!!!」


 ポルクルのその声と同時に仮面の男がこちらに向かって近づく。

 ヤマトの意識がはっきりし始めた時、それは大鎌がポルクルの身体を捉えた瞬間だった。






 目の前の光景がはっきりと見え始める。ポルクルの身体を捉えた大鎌が彼の背中にある翼を抉り、切り裂いていく様が……はっきりと。


「ポルクル!!」


 ヤマトの声が家屋に響く。それと同時に身体が動きを取り戻し、次なる攻撃を振りかざした仮面の男に向かった。


「貴様あああああ!!!」


 ヤマトの叫びと振り下ろされた刀を避け、鎌を振り回す仮面の男。その男に向かってヤマトは更に攻撃を繰り出した。

 しかし、どの攻撃も交わされ、跳ねのけられる。

 数回の交戦の後、ヤマトは身体中から能力で電流を放ち、目の前の瓦礫へ当てた。その攻撃で辺りの砂埃が一斉に巻き上がる。

 辺りの視界が白くなった瞬間、ヤマトは血だらけで倒れ込んだポルクルを抱え、家屋のさらに奥へと進んだ。






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