第六話 知り合いの知り合い
「そう益弘さんの友達だったんだね。北中君は。」
「おっ、何だよ。益弘の事知ってるのか。つうか、友達って言うか知り合いだから。」
僕の言葉に、彼の会話のトーンが上がる。
共通の知り合いがいた事にテンションが上がっているのだろう。
逆に僕はテンションが急降下中だけれども。
しかし参ったな。まさか、『あの事件』の当事者の友人と知り合ってしまうなんて
世間は狭いという言葉が身にしみる。
「益弘さんとは、連絡取ったりしてるの?」
「いや、さっきも言ったろ。友達って訳じゃないんだ。連絡先も知らねぇしな」
その言葉で風向きが変わる。どうやらそこまで親しい訳じゃないらしい。
しかし、気を抜くのはまだ早い。先ほどの会話の流れだと。
北中君は、高校進学した後も益弘さんとどこかでやり取りがあったのだ。
でなければ、安芸島学園に入学した知り合いから色々聞いたというニュアンスで
会話をしなかっただろう。つまり、この先もどこかで益弘さんに僕の事を喋る可能性はある。
とりあえず、彼女とどういった知り合いなのかは聞いておかないといけない。
「でも、彼女から安芸学の事、聞いたんでしょ?」
「あぁ、あいつから聞いた。去年のGWだったかな。たまたま会ってな。」
去年のGWにたまたま会って話す仲ってなんだ。彼は彼女とどういう関係なんだろう。
いや待て待て。GWに会ったって言ったんだ。
確か、彼女は去年のGWは実家に帰ると話してなかったか。
「北中君の地元と、益弘さんの地元ってもしかして一緒?」
「おう、中学3年間同じクラスだった。」
「ちょっ、それで知り合いって。」
「いやマジで知り合いって感じだぞ。一緒に遊んだ事もなければグループも違ったしな。」
なんという。でも、これで彼と彼女の関係は割れた。
そして、彼が話してくれた事が本当なら。
偶然でもないかぎりは、僕の事が彼女から彼へと伝達される事はないだろう。
僕は、一息つくためにグラスに手を伸ばす。
しかし、残念な事にグラスの中身は空っぽになっていた。
僕はしぶしぶ中身が入っていないグラスをテーブルへと戻す。
するとそこへ、プレートを持ったマスターが近づいて来た。
「どうぞ、食後のコーヒーだよ。」
「あっ、ありがとうございます。」
目の前に置かれたマグカップから、コーヒーの良い匂いが立ち上る。
僕は、とりあえず何も加えないまま一口つける。
美味しい。コーヒーはたまに飲む程度だけど。
このコーヒーが美味しいというのはわかる。
ブラックコーヒーって苦いイメージがあっただけに、とても新鮮な気分だった。
「あの、スッキリしてて飲みやすくて。とても美味しいです。」
「そうかい。ありがとう。」
北中君の方へも、コーヒーを置いていたマスターに感想を言うと
とても嬉しそうな顔で返事を返された。
マスターはそのまま、テーブルの上の空き皿を回収すると
「ごゆっくり」という言葉を残してカウンターの方へと戻って行く。
マスターが去るのを待って、北中君が再度口を開いた。
「つうか、あいつの友達っていうか、仲がよかったヤツなら内のクラスに1人いるぞ。」
「へっ?」
「ぷっ、何だその間抜け面は」
北中君が噴出す。
予想外の言葉に表情が抜け落ちてしまったようだ。
僕はコーヒーを一口含むと、わざとらしく咳払いして口を開く。
「えっと、それは益弘さんと仲のよかった子が、2-Bに居るってこと?」
「そうだよ。つうか、それ考えるとすげぇな。」
「えっ、いや何が?」
「んっ? その仲がよかったヤツってのはな。中村の事なんだよ。」
うそでしょ!?
今日何度目になるかわからない絶叫を心の中で叫んで、天井を仰ぐ。
これは非常にまずいのでは無かろうか。というか、世間狭すぎでしょ。
つまり、北中君、中村さん、益弘さんは全員同じ中学出身で。
更に、中村さんと益弘さんはとても仲がよかったらしい。
そうなると、彼女らが高校に入っても連絡を取り合ってる仲である可能性は十分にある。
というか、もしかしたら中村さんは僕の事を知っていて声を掛けてきた可能性も出てきた。
どうしよう、明日学校に行きたくなくなってきた。
転校初日にまさかの不登校フラグである。
「つか、やけに益弘の事でリアクションとるなお前。科も違うのに知り合いっぽいし。」
あっ、しまった。下手にリアクションを取りすぎたせいで彼に疑問を持たせてしまったみたいだ。
どうする。嘘は付きたくないけど、本当の事は話したくない。
誤魔化しきれるだろうか。
「はは~ん。さては、甲斐。お前、益弘に告ったな。」
「何でそうなったのさ!?」
「どうどう、みなまで言うな。これは俺とお前だけの秘密にしておいてやる」
こっちは聞かれた事をどうやって誤魔化すか思案してたのに
何か勝手に勘違いして納得されてしまった。
しかも、あまりよろしくない方向へと勘違いされてるし。
もう、このまま勘違いされたままでも良いのだおうか。
いやいや、さすがにこれは許容できない。訂正しなければ。
「いや、あのね北中君。違うから、僕は益弘さんに告白なんてしてないよ。」
「いやいや誤魔化さなくても大丈夫だ。玉砕なんてのは、高校生男子の勲章だと思え。」
あっ、これ。もうダメなヤツだ。
僕は残っているコーヒーを一気に飲み干すと盛大にため息を吐くだった。
◆
結局、彼の勘違いを正せないまま喫茶店を後にした僕らは、現在自転車に跨り移動中である。
安芸学でのあの出来事を話さなくてよかったのは助かったのだが
なんというか僕の精神的なダメージは計り知れないものになってしまった。
何でこうなった・・・
最初っから、誤魔化す事などしないで、全部喋ればよかったのだろうか。
いやいや、それこそ無理だ。
あの事件からそろそろ一年たつけど、僕のトラウマは現在進行形で僕の中に息づいている。
事件当初から見たら幾分落ち着いたけど、それでも心の中ではくすぶっているのだ。
だからこそ、僕は未だに電子の世界に戻れないでいるのだから。
僕は気付かれない様にため息を吐くと、併走する彼へと声をかける。
「それで、次はどこに連れてってくれるの?」
「おう、俺たち高校生の憩いの場所だ。」
「憩いの場?」
彼が実に楽しそうに答えるのにちょっとした不安を感じる。
彼の言葉でいくつかの候補があがるが、その一つには絶対に遠慮したい場所があるだ。
僕の口はその候補をつむぎだす。
「ねぇ、もしかして。ゲームセンターに向かってる?」
「おっ、正解。何だよ甲斐ー、期待してた。」
僕は彼の返答を聞いて自転車のブレーキを思い切り握り締める。
僕の自転車が悲鳴を上げて急停車すると、それに驚いた彼も続いてブレーキをかけて止まる。
「おいおい。どうしたんだよ。」
「ごめん。そこへは付き合えない。」
「はっ? 何々、ゲーセンに何かトラウマでもあんの?」
違うのだ。ゲームセンター自体に思い入れは何も無い。
それにどちらかと言えばゲーム自体は好きな部類だ。
シューティングやパズルゲーム。クイズゲームとかなら喜んで付き合おう。
でも、今時の高校生がゲームセンターで一番プレイしているゲームだけは無理だ。
まだ、彼がそれをプレイしようとしているかは、わからない。
でも、十中八九プレイするだろう。
今やどこのゲームセンターにも置いてあるそれは、世界で一番プレイ人口が多いゲームなわけだし。
僕は確認の意味も含めて彼に質問する。
「ちなみに聞くんだけど。SSをしに行くんだよね?」
「お、おう。もちろん。」
彼がES部に入っていないからと油断した。
そもそもES部に入っていようがいまいが関係なかった。
彼の返答を聞いて、僕は再度自分の意思を告げる。
「ごめん。やっぱし「あれー、甲斐君に北中君じゃない。何してんの?」
僕の声を遮って、後方から女の子の声が被る。
僕が、驚いて後ろを振り向くと、僕のすぐ後方に二人の女生徒が自転車に跨って立ち止まっている。
その二人の顔を確認して、僕は驚愕の表情を浮かべた。
「おう、中村と柊じゃねぇか。これからゲーセンか?」
「そだよー。んっ、北中君らもこれからゲーセン?」
「おう、そのつもりだぜ。」
中村さんと北中君が喋っているのをどこか遠くに聞きながら。
僕の視線は、中村さんの隣にいる女生徒に向いてた。
僕の視線に気付いたのか、こちらに視線を向ける柊と呼ばれた女生徒は
一度首を傾げると、ぱんっと手を叩いて声をあげる。
「あぁ、早朝の! 足の具合は大丈夫ですか?」
「あはは・・・、えぇ大丈夫ですよ。」
乾いた笑いに返事をのせる。
僕の顔は現在引きつっているに違いない。
中村さんの隣にいるのは、僕が早朝にこける寸前の現場を目撃した少女だ。
とりあえず、僕は心の中で盛大に叫ぶ事にした。
世間て本当に狭いなぁ!!




