第一話 新生活-リスタート-
ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ
「んっ・・・」
僕は、音のする方へと片手を伸ばすと音の発信源のスイッチを切る。
その後、もぞもぞと自分が眠っていたベットから這い出すと大きく伸びをした。
まだ気だるい頭をガシガシ掻きながら部屋に掛けてあるカレンダーヘと視線を移す。
今日の日付は4月7日。高校生活2年目に突入する日だ。
と言っても、僕にとっては初登校になる高校なわけだが。
僕は、部屋から出ると洗面台のある脱衣所へと向かう。
まずは、顔を洗って跳ねてしまっている髪を直さなければ。
◆
「おはよう、母さん。」
「おはよう。いつも通りの起床ね。」
顔を洗ってリビングへ行けば、ちょうど母さんがコーヒーを飲みながらテレビを見ていた。
そして朝の挨拶を交わすと、コーヒーを机に置いて台所へと向かう。
僕の分の朝食とコーヒーを用意しに行ったのだろう。
僕は、席についてテレビを眺める。そこには、キャスターとゲストで呼ばれたであろう
どこぞの教授が何やらボードを持って説明しているところだった。
『最近では、ウィルスも多種多様な物が作られてきています。単純にデータを破壊するのが目的の物や
侵入したサーバー側に気付かれない様にデータだけ盗んで行く物。更には、サーバー内の情報を
改ざんする物など。実に様々です。』
『そうですね。しかし、こういったウィルスによるサイバー犯罪は、ダイバーやワーカーの活躍で減少していると
聞き及んでおりますが、そこはどうなのでしょうか?』
『もちろんですね、年々減少傾向にあります。人が電脳世界に潜れる様になって半世紀。
排除するべき物が視認化出来ると言うことは、駆除活動を格段に進化させました。
しかし、何もダイバーやワーカーだけの特権ではありませんので、ウィルス以外の脅威ですね。
俗に言う、アウターやブロウカーと呼ばれるサイバー犯罪が年々上昇しつつ・・・』
「はい、パンは二枚で良かったわよね。」
「あっ、うん。ありがとう。」
テレビに向けていた視線を声の方へと移すと、母さんがパンをのせた皿をテーブルに置いてくれた所だった。
僕はそれに手を伸ばして口に頬張る。焼きたてのトーストにはジャムが塗ってあり。
口の中に独特の甘さが広がる。
トーストをかじりながら視線をテレビに移すと、すでにチャンネルが変えられ『人気俳優の熱愛発覚』
というテロップが画面に流れるニュースへと切り替わっていた。
ちらりと、チャンネルを変えたであろう母さんの方へと視線を向けるが
母さんは、いつもと変わらない様子でテレビを見つめていた。
こういう気遣いが不快にならなくなってずいぶん経ったなと。
心の中で母さんに感謝を告げて、僕は朝食を完食するのだった。
◆
朝食を食べ終わり、部屋で真新しい制服に着替えた僕は、玄関の鏡で身なりの最終チェックを行なう。
紺色のブレザーとズボン。そして、薄い青色のカッターシャツ。首元には赤いネクタイ。
そして、2年生である印にブレザーの襟には黄色いバッジ。
前に着ていた制服とは、ずいぶん違うから違和感満載である。
首を捻って鏡を見る僕へと母さんが声を掛けてきた。
「大丈夫よ、ちゃんと似合ってるわ。」
「お世辞どうもありがとう。それじゃ、行って来ます。」
「いってらっしゃい。」
下に置いていた学校指定のカバンを肩に担いで、学校へと出発するのだった。
今日から僕は『公立 海淵高等学校』の2年生となる。
と言ってもこの高校には転校生として行くので今日が僕の初登校である。
もちろん、学校に行くのは初めてではない。
転入試験を受けるときや、資料をもらいに行くときに何度か通った。
まぁ、全部親が車で送迎してくれた訳だけど。
そもそも、そんな入り組んだ道じゃなかったと言うのもあるし。
自転車で30分くらいかなと楽観視もしていた。いやいや、というか楽観視しすぎた。
まぁ、何が言いたいのかと言うと・・・
「うっそでしょ。迷った・・・」
僕、転校初日に通学途中でまさかの迷子である。
「そんなバカな」と、脳内でうな垂れる。
腕時計を見て時間には、まだ余裕がある事を確認する。
いっそあっちこっち動き回って探した方が懸命だろうかと考えていると
ちょうど僕と同じ制服を着た男の二人組みが後方から僕を追い向いていく。
しめた。僕は、二人を追いかけるべくペダルを踏み込む。
しかし、静止状態から行き成り動き出そうとした為に、僕の足がペダルを踏み外す。
結果、倒れはしなかったものの、慣性のついた自転車のペダルが見事にアキレス腱を強打する。
堪らず悶絶する僕。あまりの痛さに目からは涙が出そうになる。
「だ、大丈夫?」
真横からの声に、涙目の顔を向けるとそこには一人の女の子がいた。
えっ、見られてた。すごい恥ずかしいんだけど。
「だ、大丈夫。きっと大丈夫・・・」
「そ、そう。き、気をつけなよ」
苦笑を残して、そのショーカットの女の子は自転車を漕いで遠ざかっていく。
その後ろ姿を見つめながら彼女の襟に付いていたのが黄色いバッチだったのを思い出し。
どうか、同じクラスでは無い様にと神様に祈るのであった。




