プロローグーある日の草原
カラカラカラ...
1台の馬車が草原を駆けてゆく。平和で穏やかなひととき。
「ふぁぁ…、おはよう」
馬車の中で眠っていた男が起きた。
いつも通りの日々、清々しい朝。
「なぁ、あとどれくらいでマナルにつくんだ?」
男は馬の手綱を引く商売仲間に尋ねる。
「あと3日ってところだな、このままのペースだと」
それを聞き、男はかたわらにある木箱へと目を向ける。
ラベルにはラナール酒と書いてある。
「この食品達がもつといいが」
ガタタッ
突然、馬車が大きく揺れる。
やがて馬車は完全に止まってしまう。
「おいっ!なにやって、…うわあああぁっ!?」
ギシャアアアッ
男が目にしたのは、肌が緑色のウロコに覆われた人型の魔物の姿。
だがそれが着ている服は、まぎれもなく商売仲間のもの。
「まさか、魔の捕食者に…!?っおい、ショウ!」
魔物と化した仲間に男の声は届かない。
魔物が男に襲い掛かる刹那
ザンッ
その時、男は蒼銀を見た。
人影が振り上げた刀の軌跡 飛び散る鮮血 魔物の断末魔
カチンッと刀を鞘に納める音が響く。
「…大丈夫?怪我は?」
振り向いた人影を見て、男は驚きを隠せなかった。
_____ラピスラズリのような藍色の瞳、桜色の唇、すきとおった白い肌
蒼銀の輝く髪
後数年もしたら美女と呼ばれるようになるであろう少女が、立っていたのだから。
男はとまどいながらも、少女に対して首を横に振る。
「そう、この人は?」
少女は絶命した魔物を見る。
「…商売仲間の、ショウ」
男は呟く。だがもうここに仲間はいない。
あるのは魔物の骸だけ.....
涙を流す男を見て、少女は申し訳なさそうに口を開く。
「___ごめんなさい」
それを聞いた男は首を振る。
「あんたは謝らなくていいんだ、…これは、オレの」
少女は草原を見渡し、瞬きをすると
「……ここから東に村がある。あなたは、休んだほうがいいと思う」
「ありがとう」
少女はコートから小さな木製の笛を取り出し、吹き鳴らした。