古の神話
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この物語の基盤となる話です。
____すべては、此処からはじまった。
この世界を創った創世神は、最初に大地を創った。
しかしその上には何も存在せず、ただ殺風景で広大なつまらないものだった。
神は必死に考えた。どうすれば、美しい世界を創れるのだろうかと。
「大地だけでは、美しい世界にはならない。青いモノを創ろう。どこまでも澄み渡る蒼穹の空を」
神はどこまでも続く空を創り、そこに太陽という輝くモノを浮かべた。
しかしいつまで待っても、大地は変わらないままだった。
神はまた、考えた。
「天のような、緑が欲しい。青々と茂る緑が。天には“水”というモノがあったな…。水が無ければ、緑を見ることは叶わない」
神は大地の周りに海を創った。そして緑を創るために大地に種を落とした。
「大地に緑を創るためには、水をあげなければ」
このときに神は空から水を降らせた。
時が経ち、神は大地を見た。
すると、望んでいた緑はそこには無く、枯れてしまった緑になるはずだったモノがあった。
「水は必要不可欠なのか。ならば、大地に水を与える者がいなければならない」
神は水を司る“精霊”を生み出し、大地に水を降らせる役目を与えた。
「お前にはこの世界の水を管理してもらう。一人では対処できないときに備えて、お前の補佐をする眷属を与えよう」
神はあることを思いついた。
「この世界のあらゆるモノを司る“精霊”を生み出して美しい世界を創る手助けをして貰えば、この世界も天の様に栄えるだろう」
神は“水の精霊”に続き、“火の精霊”“地の精霊”“風の精霊”を生み出した。
それぞれにそれぞれの眷属を与えた。
精霊たちがそれまでのモノと違ったのは、個々の意思を持つという点だった。
精霊たちは神を信頼し、崇めた。
神に美しい世界を見せたいが為に努力を重ね、ついに楽園を作り上げた。
やがて世界には聖獣が現れた。
聖獣は神が生み出したモノではなく、精霊たちの努力から生み出されたモノだった。
「素晴らしい。精霊たちよ、生命を生み出したのか。私もこの世界に生命を生み出そう」
そうして生み出されたのは“人族”と“魔族”だった。
そのどちらもが魔力と呼ばれるモノを身に宿していた。
優れた魔力を持つ者に、神は特別なチカラを与えた。
精霊から信頼を得て精霊を操るチカラ、生粋の狩人となるチカラ、聖獣を操るチカラ、真実を視るチカラ。
その者達は後に民族を束ね、その家系には代々チカラが受け継がれていった。
精霊を操る“シェイリルの民”
生粋の狩人“フェルマータの民”
動物を操る“ティラードの民”
真実を視る“ルーディアの民”
四つの民族はそのチカラ故に人族からも、魔族からも恐れられ、それまで暮らしていた地から離れていった。
四つの民族は人里離れた地に移り住み、人と関わることも無くなった。
恐れる存在がいなくなったことで、人族と魔族は欲に溺れ、自分たちの領土を広げようと争いを始めた。
人族は個々の力はあまり強くないが、その数は魔族を大きく上回っていた。
魔族は個々の力が強大だが、数は人族には敵わなかった。
争いは長い長い時の中で行われ、いつまでたっても決着はつかない。
争いによって、楽園だったはずの世界は荒廃してしまった。
それを見た神は怒り狂い、世界はさらに荒れていった。
神が我に返った時には、もう既に遅かった。
精霊が努力して作り上げたモノは、他でも無い神によって破壊されていたのだ。
尚も争いを止めない人族と魔族。
だが、自分が生み出した者たちを殺める事など神には出来なかった。
「人族と魔族の住むこの大地を幾つかに分けよう。二度と、こんな争いが起こらないように」
神は自身の持つ聖なる槍で、大地を分け、それはいつしか五つの大陸へと成った。
魔族の住む“ディアム大陸”
人の住む“オーガリア大陸”“ハーナル大陸”“ローリヴァン大陸”
聖獣たちの住む“アルヴァンニ大陸”
種族ごとに別々の大陸に住むことになり、世界は平和を取り戻した。
荒れた大地には緑が息を吹き返し、それぞれの大陸は異なる文化を生み出した。
しかし、神には分かっていた。
人族と魔族の欲望は、未だ強く根付いていることが。
神はそこで、自らがチカラを与えた者達が束ねた民族に願った。
「私の存在も、怒りに任せて力を使ったことで消滅に近づいている。だがこのままでは、また争いが繰り返されてしまう。きっとそのときに、私はいない。これは私の、最後の願いだ」
神が民族たちに願ったことは、その場にいた四つの民族と神しか知らない。
それからしばらくして、雨が降り始めた。
長い間降り止まぬ雨は、精霊たちが神の消滅を悲しみ、流した涙。
だが大地に生きる者たちは、そんなことなど知らず、いつものように過ごしていた。
そのとき四つの民族は、神が消滅したのを知った。
願いを聞き届けた者たちは、今も尚、その血を絶やすことなく生き続けている。